第26話 出発
「あんた、そのへんな仮面取りなさいよ。初対面の人に失礼でしょ? 礼儀ってもんを知らないわけ?」
「この馬鹿者が!」
「いったぁい!」
葦原は雫に対し拳骨で頭をゴツいた。それが痛かったのか少々涙目になり葦原を睨んでいる。
「何すんのよッ! 痛いじゃない!」
「失礼なのはお前の方だ! 玖珂殿、ウチのメンバーが大変失礼した」
そういって謝罪する葦原に対しまだ雫は突っかかっている。
「だって、こんな変な仮面付けている弱そうな人がお父様やお母様と同じ対魔の隊長って納得行かないわ!」
「話が進まないからお前は黙っていろ!」
「痛いって! 同じ場所に拳骨しないで!」
「雫さん、あまり仕事中は親子として接するつもりはありませんが、その態度は目に余ります。謝罪なさい」
「……ッ! はい、玖珂さん。失礼な事を言ってごめんなさい」
雲林院の刺すような魔力を感じたためか雫は素直に謝罪した。
雫は仕方なく謝罪したという感じは否めないが、あまり固執しても仕方ないとアキトも考える。
「謝罪を受け入れましょう。今後はその子供の様な態度は控えて貰いたいですがね」
「……ええ、気をつけるわ」
子供という言葉に引っかかったのか、全然納得していないという顔をしながら葦原の後ろに下がって言った。
「玖珂隊長、娘が申し訳ありません。恐らく玖珂隊長の魔力が薄いことを見て勝手に実力を判断したのでしょう。ですが、玖珂隊長」
そういってアキトの傍に着て謝罪をする雲林院は少し小声でアキトにだけ聞こえるように話した。
「今後の事を考えるとあまり魔力を抑えすぎるのも考えものです。せめて私と同じ程度は魔力を身体に纏っていて下さい。戦闘中ならそれも相手の油断を誘えますが、場合によっては要らぬ争いも防ぐ事も可能かと思います」
「なるほど、了解しました」
確かに鴻上ですら完全に魔力を抑えることは出来ないのだ。それなら纏う魔力量である程度の力量を判断されるのであれば気をつけた方が良いのだろうとアキトも考えた。
それから部屋の扉をノックする音が響く。
「失礼しますッ! 防衛大臣の綿谷様、対魔部隊統括の神代様がいらっしゃいました」
扉より綿谷、神代が部屋に入ってくる。その纏う空気に先程までの空気感から変わり緊張感のある様子に切り替わった。
さらに二人に続いて軍服に身を包んだ人達が数人さらに部屋に入ってくる。
「さて、皆さん。揃っているな。では定刻になったため中華国、
綿谷は近くにいた自衛隊員に術式が記された紙を渡し、葦原達に配り始め、受け取った葦原達はそれに目を通し始めた。
「これにはここで知りえた情報を外部に漏らさないための誓約魔術が記されている。
内容を確認し自身の名前と血液を付着されてほしい。これに納得できない場合は依頼はキャンセルだ。
すぐにここから帰り給え」
葦原、天沢、そして雫の三人はその書面を確認しそれぞれ名前を書き、指から血を出して書類に垂らしていく。
綿谷はそれを確認し書類を回収する。
「さて、では話を始めようか。中華国の
以後はこのダンジョンを『黄竜江省ダンジョン』と呼称する。これはアメリカ、ロシア、日本、中華国の四ヵ国で行う合同作戦ではあるが……。
まずこれを皆見てほしい」
部屋が暗くなり正面のスクリーンにいくつかの資料が表示された。
そこには先日アキトがラターシャから教えてもらった内容がまとめられている。
それを食い入るように全員が見ていた。
「見てわかる通り、レベルⅣは今までのレベルⅢとまるで状況が違うのは分かって貰えたと思う。
出現する魔物も未発見のものが多く、危険度も高い。さらにこの情報にもある通り、魔物の復活を防ぐためにもダンジョン内の魔石については一律で砕く方向で統一する。他国と、この件で揉める可能性が予想されるが無視して構わない。
特にアメリカ辺りは何を言ってくる不明であるが、向こうの言葉をいちいち真に受ける必要はない。安全を考慮して倒した魔物は必ず破壊するように。ただし我々日本が倒した魔物ではなく、他国が倒した魔物については魔石の扱いについて向こうに一任する事。
一応破壊を促して貰いたいが強制はできない。外交ルートからも魔石は破壊するように通達はしているがこの辺りはどうなるか正直な所分らない」
国としてはダンジョン奥にいる魔物の魔石は持ち帰りたいというのが本音だろうとアキトは考える。
しかし、片道4時間以上かかるダンジョンを20分で移動するというのは実質不可能と考えていいだろう。
この辺りはさすがのアメリアも理解しているとアキトも思うのだが実際はどうなるか分からないという事なのか。
「この後、諸君らは件のダンジョンへ移動する事になる。移動時間は約2時間程度。到着次第、用意されている屯所で荷物を置きそこで一度ダンジョン攻略をする各国のチームと顔合わせを行う。当日の動きについてはそこで改めて打ち合わせを行う予定だ。
そして、一つ新たな報告がある。中華国の軍である赤龍軍は今回ダンジョン前線の攻略については参加しないという表明があった」
「ん? それはどういう事だ。自国の事だろうなぜ中華国軍が前線に出ないんだ」
それに食いついたのは葦原だ。
確かに普通に考えればなぜ参加しないのか疑問に思うだろうとアキトも考える。
「この資料にもある通り踏破したダンジョンの階層は中華国の軍が維持する予定になっている。
それに赤龍軍も不測の事態に備えて控えるというのが一応の理由ではあるらしいが、実際の実情は既に3年近くダンジョン攻略を続けもう自国の軍を維持する事が困難になっているそうだ。ダンジョンから魔石を発掘する事が出来ず、軍費だけが消化されている。
そのため、中華国の黄竜江省以外でいくつかレベルⅢが発生しているらしいがその対処が追い付いていないらしい」
日本でもレベルⅢの対処には対魔部隊が必要になるように中華国でもレベルⅢの対処には赤龍軍が必要なのだろう。
もちろんハンターもいるだろうが、恐らく優秀なハンターも国に雇われダンジョンへ駆り出されている。
つまりダンジョンにばかり目を奪われてしまうとその他の場所に住む国民が危険にさらされてしまうのだ。
「そのためダンジョンの前線での戦いは日本、アメリカ、ロシアの3ヵ国で行う。作戦行動自体は国ごとに別行動を取る予定だろうが、
その攻略は我々日本の手で行われなければならない。
ダンジョンの最奥にいると予想される魔人を打倒しッ! 日本の力をッ! 世界に知らしめなければならないのだ!
そのために本作戦のリーダーは対魔部隊二番隊隊長の雲林院殿に一任する。そして零番隊隊長の玖珂殿の力は本作戦におけるキーパーソンとなるだろうッ! 私は君たちの力を信じている、その力を存分に振るってほしいっ!」
「「はッ!」」
綿谷の気合の入った説明に対しアキトと雲林院は敬礼を行う。
「そして、ハンターチーム『ソードドールズ』の諸君。報酬は事前に指定した通りの大金を用意した。
君たちは雲林院隊長の指揮の元、日本のために力を示してもらいたいっ!」
「おう、任せな」
「はい!」
「任せてよ!」
ハンター達三人の反応に満足そうに頷く綿谷は神代に話を振った。
「神代君から何かあるか?」
「そうですね。では、必要な物資などはすべて神代家で用意しております。
どうか、皆様はこの作戦の成功だけをお考え下さい」
「よろしい。ではこれより三〇分後には移動を行う。各員準備を行いたまえ」
そうしてアキト達は中華国のダンジョンへいよいよ移動を行うのであった。
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