第22話 新たな任務
エレベーターのから降りてきた雲林院と共にアキトと成瀬は共に10階へ移動し、先ほど何故か合流した雲林院と共に会議室へ来ていた。
ちなみにその時一緒にいた不和は雲林院と入れ替わりで本部を後にしている。
「私は静岡の任務報告なのですが、雲林院隊長はどのような要件で?」
「別件で私も皐月隊長に要件があったのです。せっかくですから一緒に行きましょうか」
どう考えてもアキトを迎えに来ているようにしか思えない雲林院に不信感を抱きながら、
アキトは少々気味の悪い笑みを浮かべている雲林院と共に会議室の扉を開いた。
そこには既に皐月と神代、そして防衛大臣の綿谷、さらにもう一人知らない人物が座ってこちらを見ている。
雲林院に続き、アキトと成瀬も対面の椅子へ座り姿勢を正した。
「さて、玖珂隊長。報告を聞かせてくれないか」
「はっ」
そうしてアキトは皐月に静岡の任務についての報告を行った。
作戦遂行時間、その際の被害、魔物の脅威度など簡潔に報告を行った、そしてその報告を聞き、
皐月の横にいた神代と綿谷、特にアキトの知らぬ男が目を輝かせその報告を聞いていたのが印象的だった。
仮面越しにアキトは報告をしながらこの男に対し視線だけ向け観察していた。
スーツを着ているやや白髪の混じった男性。
眼鏡をかけ温和な顔をしているが、その目だけは鋭くこちらの話を漏らさぬように聞いているのがよくわかる。
テーブルの前で手を組みまるでアキトを観察している様子で少々気になっていた。
「ふむ、素晴らしいな。予想されていた事であったが、レベルⅢに対しこれほど短期間で殲滅させられた事実は快挙だと言っていい。
まずは、玖珂隊長。ご苦労だったな」
アキトの報告を聞き、綿谷が先に反応した。
「そうですね、玖珂隊長。初任務お疲れ様でした。
詳細な報告については後日書面で報告書を提出して下さい」
「私が倒した魔物の魔石はどうなりますか?」
「基本的に我々軍が倒した魔物はその7割を復興支援に当て、残りは研究所へ送られます、問題ありませんね?」
「はい、問題ありません」
「さて、気になっているだろうから彼を紹介しましょうか」
そういって皐月がアキトがずっと気になっていた人物についての紹介を行った。
「外務大臣をされている斎藤尊殿だ」
「斎藤尊です、どうぞよろしく」
「――はっ。玖珂アキトです」
斎藤は椅子から立ち上がりアキトに対し右手を差し出した。
アキトはそれに合わせ同じく立ち上がりその握手に答えた。
「はっはっは。本来であれば名刺を渡したい所だが、対魔には名刺もないからね。
さて、神代殿。ここからの説明をお任せしてもよろしいかな」
「ええ、分かりました。さて、玖珂隊長。
貴方にやって頂きたい任務があります」
「……はい、どのような内容でしょうか」
おそらくこの場にいる雲林院にも関係しているのだろう。
この場にいる面子を考えるとさきほど行った静岡の任務よりも難易度が高いものになるのは明白であろうと思う。
「玖珂隊長は中華国のダンジョン問題を知っていますか?」
「――はい」
以前、梓音博士から聞いたレベルⅣになった中華国のダンジョンのことはアキトも覚えている。
魔人が出現し、討伐失敗したためにかなりひどい規模になっていると聞いていた。
「そのダンジョンをこの度、日本、アメリカ、中国、ロシアの四ヵ国合同でダンジョン攻略任務を行う事になりました。
現在、現地のハンター達と中華国の赤龍軍が今も攻略に当たっていますが、まだ目途が見えておりません」
「攻略状況はどの程度なのでしょうか?」
「現在は16階層まで進んでいます。ですが、出現する魔物も今まで確認されていない種類が出現しているようで、
正直な所状況は芳しくありません。その状況を打破するために新たに我国とアメリカ、ロシアが参戦する事になりました」
そのダンジョンの規模が分からないが、思ったより広いのだろうか。
少なくともダンジョンが発生してから随分時間が経っていたはず。それなのにまだ16階層しか進んでいないという事には何か理由があると考えるべきなのだろう。
「そして、この任務は単純にダンジョンを攻略するというだけに留まりません。
本来この事を話すか悩んだのですが、皐月隊長より話すべきと進言がありましたため、合わせてお話します」
そうして神代から語られた内容はアキトにとって驚愕する事実であった。
合同での攻略作戦であるが、実質の実権はアメリカが握っているという事。そして、梓音をアメリカに身柄を送るように圧力をかけているという事。今それが単なる圧力だけに留まらず、実力行使のような形で行われており既に刺客のような連中が梓音に何度も接触しているため、
今は鴻上が護衛任務に当たっているという事だ。
「玖珂隊長にはここにいる雲林院隊長、そして斎藤殿と共に中華国へ渡って頂き、
件のダンジョンを攻略して頂きたい、というのが玖珂隊長への新たな任務です」
「私は外務大臣として、同行し政治的なやり取りを行いますが、先程の説明通り今回はアメリカの圧力が強いため、正直私の力が何処まで及ぶか定かでは無いのです」
そう齋藤は自虐的な笑みを浮かべた。
アキトは先程の話を咀嚼し自分なりに今回の任務の重要度は把握した。
「質問をよろしいでしょうか」
「ええ、どうぞ」
「今回の任務の重要度は把握しました。アメリカの話なども正直かなり驚いています。
梓音博士には大変お世話になっておりますので、私の力で救えるのならぜひ参加させて頂きますが、
皐月隊長は参加しないのですか?」
以前、鴻上との訓練でもレベルⅣの対策として異能を鍛えた事もありアキト自身は今回の任務に参加する事に対して驚きはない。
それよりはその裏の事情である政治的な話、梓音の話の方が衝撃的であった。
だからこそ、それほど重要な任務であればなぜ皐月は同行しないのかが知りたかったのだ。
「そうですね、皐月隊長は今回玖珂隊長がこの作戦に参加できるレベルでなかった場合、参加予定でしたが、玖珂隊長が期待以上に仕上がったために皐月隊長は国防に回せるようになりました。
正直、別件で厄介な話が上がっておりそのためにも国外に出す対魔の隊長クラスの戦力は二人以上出したくないというのが本音です」
「やっかいな話……ですか?」
「はい、玖珂隊長は《エルプズュンデ》という宗教組織をご存じですか?」
「エ、エルプ? いえ、知りません」
「主に海外で活動が活発になっている宗教組織なのですが、実質テロ行為と変わらない行動を行っている組織となっております。
主な教えとしては『神の僕であった人間はいつからか神から離れ、知識を得え、文明を築いた事により人間こそがこの星の支配者であると、まるで神に成り代わったように思い上がった罪がある。魔物とはそんな罪深い人間を浄化するためにもたらされた使者である。
罪を受け入れよ。死を受け入れよ。肉体を離れ、魂となる事によって我々はまた神と共に存在する事が出来るのだ』っていう内容です。
「――なんですか、そのむちゃくちゃな宗教は……」
「それが宗教として何故か力をつけており、信者達は主に魔物被害によって家族を無くした人々なのです。背徳的な考えですが、信者が多く、そして星の浄化を担う者たち。
彼らは信者より原罪の使徒と呼ばれていますが、その者たちまでも梓音博士を狙っている可能性が高いと鴻上隊長より報告がありました。
そのため、単純な魔物による被害以外にも国を守るために戦力を割く事が出来ないというのが現状です」
「とはいってもだ。私は玖珂隊長が行ってくれればダンジョンについては何の心配もしていないからね。
すまないが、頼めるだろうか」
皐月より頭を下げて頼まれたアキトは首を縦に振って答えた。
皐月には、道を選ばせてくれた恩もある。
不安は大きいが必ず力になろうとアキトは決心した。
「はい、事情は分かりました」
「さっき話した組織の事は少しだけ気に留めてほしい。
正直、ダンジョンの方にも何かしらアクションを掛けてくる可能性も0ではないんだ」
「そのために今回は私もサポートとして同行します」
皐月の言葉を引き継ぎ雲林院が答える。
「実は私が参加する理由は他にも理由があるのですが、それはまた今度お話しますね」
「はい、わかりました」
なんとなくアキトも状況は理解した。中華国のダンジョンを取り巻く状況の他にも多くの思惑が絡んでいるようだ。
しかし、アキト自身が出来る事は多くない。そのためにも与えられた役割をやっていこうと、静岡の任務で少し自信がついたアキトはそう強く思ったのだ。
「さて、話は少し整理できたようだね。
改めて玖珂隊長、並びに雲林院隊長。零番隊、二番隊は5日後、10:00より中華国東部にある黄竜江省に発生したダンジョン攻略作戦に参加、当日はハンターの3名が同行する。各員準備を行い、任務に当たり給え」
綿谷の指令によりアキトは新たな任務に就くのであった。
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