第20話 初任務その3
『玖珂隊長、もうすぐ中心です。キング、ジェネラルなどの上位種にお気をつけ下さい』
「さっき、オークキングと思われる魔物と交戦した」
『お怪我の程は!?』
「一撃で倒したしこちらは無傷だ、心配しなくて大丈夫だよ」
『そうですか……。上位種は本来対魔の部隊員でも5名以上で戦う魔物なのですが、それを一撃とは流石です』
「お世辞はいいよ。それよりそろそろかな?」
『はい、そこから後10mほど進んだ場所で直径1kmの範囲で異能を展開して下さい』
「了解。――第一種特殊異能”
アキトは指定された場所で異能を展開する。鴻上との訓練で異能の範囲を拡張しており、
現在は最大直径3kmまで展開できるようになっているのだ。
アキトを中心に空間が湾曲ように円が広がり、その一帯を包んだ。
すると、先ほどまでこちらに向かって涎を垂らし必死な形相で襲い掛かってきた魔物達が停止した。
崩れ落ちる瓦礫も、移動しようと足を浮かせていた魔物達も、こちらに向かって投擲していた魔物達が持っていた武器などもすべて映像を停止させたかのように止まっている。
アキトはこのまま放置すればおよそ5分程度で範囲内の生き物を殺せると確信しているが、
念のため、より強靭な肉体を持っている上位種に関しては周囲の魔物が死滅する間に魔石を抜き取る事に決めた。
『玖珂隊長! 至急異能を停止させて下さいっ! 範囲内に魔物以外の生命反応があります!!』
「ちっ、了解した!」
アキトはすぐに異能を解除した。
作戦を邪魔されたという気持ちは無い。それよりも、やはりそうそう上手くいかないというもどかしさの方が強かった。
異能を停止し、また活動を始めた魔物達を見やる。
先ほどまで生命活動に必要だった器官が止まっていた事により、範囲内にいた魔物全員が息を切らせ、その場かから動けない様子であった。
「成瀬、どこにいるか分かるか!?」
『はい、玖珂隊長の後方20時の方向、その場所より約600mほど先になります』
アキトはすぐに魔力を練り上げ飛行術式を発現し移動した。
魔物達の群れの中に魔物の皮のような装備を身に着けた青年が一人いた。
地面に両手を付き、懸命に息を整えている様子だ。
すぐにその青年の元へ行き、首元の襟を掴み、自衛隊の方に向けてそのハンターを投げた。
「巻き込まれて死にたいのかっ!」
念のため似たような事が起きないように少し強めに注意した。
そして飛行術式を使い先ほどと同じ中心点に移動し、再度異能を行使する。
そのまま、作業用に上位種から魔石を奪い、そのままポーチへ魔石をしまった。
大体二十体ほどの上位種の魔石を奪ったところで成瀬より通信が入る。
『玖珂隊長、作戦領域内にいる全魔物の生命活動の停止を確認しました。
作戦終了となります、お疲れ様でした!』
「了解した。では指揮権を戻し私は直ちに帰投する」
アキトは自衛隊の方へ行きながら異能を解除する。
すると先ほどまで一枚絵のように停止していた魔物達がまるで糸が切れた人形のように一斉に地面に倒れた。
アキトはその場にいた成瀬より聞いたその場で一番近くにいた副隊長の佐山に引継ぎをし帰投した。
あの異能領域内に入ったハンターが心配であったが、現在の医療は魔石や異能の力によってかなり発達しているそうなので恐らく大丈夫だろうと思う。
飛行術式を発現し、そのまま乗ってきたヘリの方へ飛行した。
道をなんとか間違えず、すぐにヘリを見つけたため、接近する。
恐らく成瀬の連絡があったのかアキトが近づく前からヘリの扉が開いて待っていてくれた。
「玖珂隊長、お疲れ様です!」
「ああ、ご苦労様。このまま東京へ帰還してくれ」
「はっ!! 承知しました」
玖珂をここまで移動してくれた中川に礼を言い、椅子に座りすぐに成瀬への通信を行った。
「成瀬、こちら玖珂だ」
『こちら成瀬。玖珂隊長
「少々トラブルがあったが特に問題はない。戻り次第、皐月隊長へ報告に向かう。成瀬は対魔本部の入口で合流だ」
『承知致しました。お待ちしております』
そのままヘリで移動中アキトは先ほどの任務の反省点を考えていた。
まず最初に使った”
いきなり使うスキルにしては、強すぎる。今日戦った感触では、”
そして――
(ハンターとの連携についてはやはり急務だな)
アキトの異能の力が正しく知られていれば今回の事故は起こらなかったと考える。
神代か綿谷が根回ししたのか自衛隊の動きは非常にスムーズであった。
今後同じような任務で間違えて味方を自分が殺さないようにより細心の注意を払うべきだとアキトは考えた。
「玖珂隊長、もうすぐ本部へ到着します」
「承知した。協力感謝する」
「はっ! ありがとう御座います」
ヘリから降りてアキトはすぐに移動した。周囲にいる隊員から奇異な目で見られえているが、
すべて無視し、本部の入り口の方へ足を進める。
「玖珂隊長。お疲れ様でした」
「成瀬もバックアップありがとう、本当に助かったよ」
人の目も少なくなり多少口調をやわらかくするアキトに対し、微笑むように成瀬は答えた。
「お役に立て良かったです、それにこれほどはやくレベルⅢを鎮圧できたのはすごい事ですよ」
「そうなのか、とりあえず皐月隊長に報告に行こうか」
「はい。先ほど報告を上げましたため、十階の会議室でお待ちとの事です」
「分かった」
自動ドアを抜け、エントランスへ入る。そのまま二人でエレベーターへ移動しようとした所に
知らない人物からの声が掛かった。
「その仮面、もしかしてアンタが噂の仮面隊長か?」
「ん、誰だ?」
仮面というワードからアキトに対して声が掛けられたと分かり声のする方へ顔を向けた。
そこには深緑の外套の袖に赤い布が巻かれた短髪の男がいた。
見た目は20代後半くらいのようで立ち方からして只者ではないのがアキトはすぐに理解した。
「そうだな、自己紹介しとくか。俺は
そのアキトは驚き、仮面の中で表情を変えた。
不和という名前に聞き覚えは無い、しかし五番隊副隊長という肩書きは知っている。
アキトの師である鴻上が以前言っていた異能の力に頼らず絶え間ない努力のみで対魔の副隊長へ上がった人物だ。
「貴方が……。鴻上隊長から以前に伺いました。玖珂アキトです」
そういってアキトはすぐに手を差し出した。
その意図に気付き不和もそれに答えた。
「おう、よろしくな! 隊長から聞いてるぜ、階級は違うがお前は俺の弟弟子みたいなもんだ。
今度空いた時間に組み手やろうぜ」
「ぜひ、お願いします。兄弟子殿」
「はっはっは! 思ったより話しやすそうで良かったぜ、その仮面が外せないってのは聞いてるからな。
一緒に飯が食えないのが残念だぜ」
「そうですね、ですが、組み手なら今度また五番隊の舎へお邪魔しますのでその時ぜひ」
「ああ、楽しみにしてるぜ!」
そういいながら豪快に笑いアキトの肩を叩いた不和。
「不和副隊長はここで何をされてるんですか?」
「ん? 確か成瀬隊員か、いや今は副隊長か。
今は鴻上隊長が梓音博士の護衛任務についてるから俺たちは近くで発生したレベルⅡを潰して回ってるんだ。
俺はこれから現状報告をするついでに鴻上隊長の所へ行く途中だな」
アキトは不和の話に聞き捨てなら無い台詞があり驚愕した。
「――梓音博士の護衛ですか?」
「ん? 知らなかったのか。一月ほど前に梓音博士の護衛をしていたAランクハンターが襲われてな。
神代統括よりしばらくの間鴻上隊長が護衛に着くことが決まったんだ。
一応、五番隊の隊員も何名かついているが、流石に過剰になりすぎるから俺が指揮を執って周囲の魔物の発生に備えつつ、
一番隊の補佐に回ってるって感じだな」
「梓音さんって狙われてるんですか?」
「んん、その辺の詳しい話は許可が出てなくな……」
「それについては皐月隊長より話がある」
この場にいない声がエントランスに響いた。
その声はアキトも聞き覚えがあった。
先日模擬戦を行った雲林院隊長、そして斯波副隊長がエレベーターよりこちらに向かって現れたのだ。
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