第11話 異能と魔力
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「もっともポピュラーな異能は”
その数は大よそ人類の全体の内、約五割に及ぶ。
しかし、異能の強さがイコール戦う強さというわけではない。
事実俺の部隊の副隊長の異能は”
いいか! アキト。異能で差別するような屑にはなるな!
今のガキ共は異能の差が人間の価値だと思っているがそれは違う。
俺が考える人間のもっとも大きな価値とは
考えを止めるな。どのような状況であっても思考を止めたものから成長は止まる!」
「はぁ、はぁ、はぁ……。鴻上隊長っ! 僕が走っている意味を教えて下さい!」
梓音のいる研究所を後にしてから、すぐに鴻上とアキトは移動を開始した。
対魔部隊が使用する訓練施設へ移動したが、その広さにアキトは驚いている様子だった。
この訓練施設は対魔専用の施設になっており、驚いた事に各隊長ごとにそれぞれ個人的に使えるフロアを与えられている。
そしてアキトを連れてきたのは五番隊の訓練施設であり、その中でも鴻上が特に利用している専用部屋を使って秘密裏に特訓を行っていた。
呆然としているアキトに対し鴻上が最初に指示を出したのは走ることだった。
「とりあえずこの施設を外周にそって走れ。俺がもういいというまでだ」
「分かりました!」
最初は威勢が良かったアキトも既に一時間以上走っているため、既に最初の勢いはない。既に息が上がっており肩で息をしながら何とか走っている様に辛うじて見える状態であった。それを見ながら鴻上もさらに説明を続ける。
「アキト。走りながらよく聞け。さっきも話した通り、人間って限界を迎えると身体に余計な力が入らなくなる。
すると身体に無駄な力が入らなったその瞬間。
それがもっとも最初に魔力を身体に通しやすい状態になる。
とにかく走れ。走れなくなったら歩け。
歩けなくなったら這いずってでも前に進め。
そして動けなくなってからが本番だっ!」
もう返事する気力もなくなっているアキトを見ながら鴻上は異能についての説明を続けた。
「いいか、お前に与えられた時間は僅かしかない。
そこまでにお前を限界まで鍛える。いくら時間があっても足りないくらいだ。
一分一秒を無駄にするな。異能とは制御できて当たり前、使いこなして一人前だ。
お前はまだ異能を使いこなせていない。使いこなすために知識を蓄えろ。
もう走る力をなくした様子のアキトを見ながら鴻上はそのまま説明を続けた。
「まず俺の
能力は【自身に根ざす能力を完全に操ること】だ。
この異能の力で俺は自分の肉体性能を常に100%発揮する事が出来る。
覚えた技能はすべて完璧にマスターする事が可能で、一度覚えた事は忘れることはないし本を読んでも読んだものは忘れない。
非常に難易度の高い技術でさえも常に失敗せずに行える、そういう異能だ」
アキトは鴻上の説明を聞いて驚いた様子でこちらを見ている。
鴻上の異能は簡単に言えば一度覚えた事、学習した事はどのような状況でも完全なパフォーマンスを発揮できるという事。
一度覚えた知識や技術などはすべて完璧に覚え、失敗もせずに実行できる。
プログラムした事を完璧に実行するロボットのような力だと鴻上自身は思っている。
「俺の異能によってどうすれば効率よく魔力を動かせるのかそれを知識として学習した。
その結果分かった事だ。それがさっき話した異能の力は自身の知識によってその性能に大きな差が生じるという事だ。
俺の隊の連中を使って実験した結果だ間違いない。
筋肉がどのように動くのか、どこに力を入れると効率が良いのか、最善の動き、それを俺が異能で学習した事を隊に広めた。
それによって対魔部隊の中でも俺の五番隊は隊員のレベルが一番高い。
いいか、アキト。それをお前に叩き込んでやる!」
「はぁ、はぁ、はぁ……はい!!」
「いい返事だ。まずアキト。お前の異能に対する梓音の報告書を読んだ。
その上でだ、まだお前には先があると確信した。
なぜかというとお前の異能、停止に対し俺は疑問を感じていたからだ」
もう歩く力もなくし、まるで亀のように拙く手を、足を動かし、なんとか前に進もうとするアキトの近くに鴻上は歩を進めた。
「
その疑問にアキトは答えられる様子ではない。単純にアキト自身は時間が止まっていたという説明で納得しているからだ。
「お前の年齢は間違いなく十五歳のままだ。
研究所でお前の血を摂取し梓音から聞いた話だ、間違いない。
つまりアキト自身の時を止め、お前の魂が進化するのを待っていたのだろう」
「た、ましい…ですか」
「そうだ。梓音の異能”解析”によって明らかになっている。
これが異変前の世界からあったかは定かではないが、今の人類には間違いなく魂がある。
それは肉体全体に宿っている魔力の事だ。
妖精種達からの発言なども元に解析した話だと、無機物と有機物、特に知性のある生き物では魔力の保有する絶対的な量が違う。
そして生き物が死亡した際、魂が離れることによってその保有する魔力量が激減する事も確認されているのだ。
同じ人間であっても、生前と死後では魔力量が約3~5倍ほど違っている。
その事が生き物の魔力とは魂という概念ではないかと定義された一番の理由だ」
もう動けない様子のアキトの近くに鴻上は移動した。
全身で息を整えようとしているが目はしっかりとこちらを見ており、鴻上の説明を聞き逃さないようにとしているのが分かり、思わず鴻上の口角も少し上がる。
「アキト。お前はその異能に相応しい
そしてそれだけの膨大な魔力をお前は所有している。
思考を止めるな、アキト。
なぜお前の
お前とおなじよう時が止められているならば
死ぬことはなかっただろう。
つまりお前の停止とは時間を止めるだけの力ではない。
お前が無意識に選択し停止させているに過ぎない。
知っているか、アキト。魔力とはすべての元素に含まれている。
それをお前の力で停止させた場合、お前の
そういいながら鴻上はアキトの頭に指を置いた。
そのまま鴻上はゆっくりと紙に水を垂らすように。静かに魔力をアキトへと流した。
「魔力を停止させるだけじゃない。
格子振動という言葉を知っているか。
この振動とは熱だ。振動の幅が広がると高温になる。
では逆は? 絶対零度といえども原子の振動は止まることがないそうだ。
それを停止させたらどうなると思う?
俺も詳しくはないが、元素諸共破壊出来るのではないかと考えている。
つまりお前は魔力させも破壊する事も出来る。事実上壊せないものはないんだ」
鴻上はアキトの指からゆっくりと流した魔力が全身に行き渡るのを感じた。
今のアキトは冷え切った身体に熱が入るように感じている事だろう。
「感じたな? それが魔力だ。意識しろ。
へその部分から渦を巻くように螺旋のように回転をイメージするんだ」
アキトの様子を見て上手く魔力が練れているという事を鴻上は確認する。
「臍から心臓へ魔力が回転しながら回るようにイメージするんだ。
そして心臓から血管を通じて全身に魔力が回る事を考えろ。
ん――――これは?」
その時、鴻上が予想しえない事が起きた。
通常魔力は溶ける習性がある。何の訓練もしていない人間、つまり先ほどまでのアキトなどは肉体に保有している魔力を慢性的に外へ流している状態なのだ。
この世界を構成しているすべての元素に魔力が宿っているために、魔力とは簡単に別の元素へと移動する。
そして生き物には魂が存在しているため、魔力が枯渇する事はなく、常に一定の魔力が生み出されているのだ。
しかし、今のアキトは異常であった。魔力が外へ流れていない。
己が肉体から生み出された魔力を余すところなくすべてが肉体に回っている。
これは鴻上の異能”
(恐らくアキトは今、停止結界を無意識的に纏っている状態なのだろう。それが本来であれば外へ溶け出す魔力を停止させているのか)
つまり、魔力を生み出せば出すほど、肉体に循環する魔力が加速度的に上がるという事。それは無制限に力を引き出すことに他ならない。
通常そんな事をすれば魂が放出する魔力が切れ気絶しようものだが、アキトは二十年掛けて進化した魂があるのだ。
つまり肉体さえ耐えられれば事実上、ほぼ無制限に力を出すことが可能にもなる。
「アキト。今お前がやっているのは”
俺が使う”
今日はこれまでだ。今の感覚と忘れるな。ゆっくり深呼吸をしろ。
回転させた魔力をゆっくりと止め、異能を解除するんだ」
「は………はい………………」
そうしてアキトが眠るように気絶する様子を見て鴻上はこれからの事を考えた。
「くくく、最初依頼された時は貧乏くじ引いたと思ったが、中々おもしれぇ奴だな」
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