第2話 夢

 何もない空間で意識が覚醒した。これは夢だろうか。明晰夢は何度か見たことがあるため、夢かどうかは自覚する事は出来る。でも、夢にしては妙に意識がはっきりとしているような気がするが、現実かと考えるとそれもないと思う。自分の身体がなく意識だけが宙に浮いているという不思議な状態だ。


『―――――――――』


 何か声が聞こえる気がする。何とか意識を傾けるが中々なんて言っているのかがわからない。


『――――に異能の力を授け――――』


 この声の主がなんて言っているかわからない。とても大切な事を言っているような気がするというのに全然頭に入らない。


 僕はそのまま意識を手放しまた眠りについた。














 身体が痛い。重たい瞼を開き目を開けた。


「―――――く らい?」


 喉に激痛が走った。まるでインフルエンザに罹った日のような焼ける喉の痛みに驚いた。そして、自分の部屋なのは間違いないが、あまりに暗い。身体を起こそうとして身体を支えている腕や腰などに軽い痛みを感じた。筋肉痛だろうか。それにしては痛み方が違う気がして試しに両手を握ってみた、すると関節に軽い痛みを感じた。まるでしばらく動かしていない身体を動かしたかのような痛みに違和感を感じる。


(まずは水を飲もう)


 関節に痛みを感じながら立ち上がり電気を付けようと考えた。天井にぶら下がった電球をつけるために繋がった紐を引っ張った。


カチッ、カチッ、


 いくら引っ張っても全然つかない。違和感を覚えつつも口の中に唾をためて飲み込み喉の痛みを和らげようとした。


「――――なんで電気付かないんだ? ちゃんと電気代払ってるだろ」


 そんな愚痴を暗い部屋で一人零しキッチンへ移動した。一人暮らしのワンルームだから、どれだけ暗くても手探りでなんとかなる。手で壁をつたいキッチンへ移動、水道から水を出そうと蛇口ハンドルを回した。


「水がでない?」


 いくら回しても水が出る気配がない。


「くそ、どうなってんだよ……水道局と電気会社に電話しないと……」


 先ほどの布団があった場所に戻り充電中のスマホを取り出した。画面をタップし、ネットから電話番号を調べようとする。


「…………圏外?Wi-Fiも使えないってどうなってんだよっ!」


 知らず知らず両手に力が入り何かが割れる音がした。スマホを見ると画面が割れフレームが歪んでいた。


「――――ホントにどうなんてんだよ」


 冷静になっておかしい事に気づくべきだった。今が何時か分からないが、


(外に出よう)


 暗闇に目が慣れてきたため、先ほどのように壁をつたう必要はない。キッチンの近くにある玄関へ移動し、玄関の鍵を開けドアノブに手を掛けたが鈍い音がしてドアが開かない。何度も開こうとドアノブに手を掛けるが一向に玄関が開かない。先ほどから続く電気や水道、ネット通信など上手くいかない事が多く、ストレスがどんどん溜まっていった。


「本当に…………どうなってやがんだよっ!」


 腹から声を出し、前蹴りで玄関を思いっきり蹴った。


「本当に、なんだんだよ……」


 ようやく太陽が見えた。目の前に広がる光景にもう何も考えられない。先ほどの蹴りによって


 僕が住んでいたアパートは1階の102号室だった。目の前の玄関の残骸を靴を履いて移動し外を見まわす。外から自分の部屋の方を見てますます混乱が深まった。土や瓦礫、それに骨だろうか。色々な物体が重なりまるで卵の殻のように僕の部屋の周りを囲んでいた。それ以外2階まであった建物は崩れ、隣の部屋なども既に住人がいないのは崩壊している建物を見れば明らかだろう。経った一晩で何があったのか。



 警察に行くべきか。いや、周りの建物を見ると同じように崩れている建築物が妙に多い。流石にあそこに財布を取りに行くのは難しいだろう。なんせいつ崩れてもおかしくない様子なのだから。


(引っ越したばかりで知り合いもいないし、やっぱ警察いくか)


 そう考え、近くの警察署の場所を思い出そうと考えた所で複数の足跡が近付くのが聞こえたため、音のする方向をすぐに振り向き驚愕した。

明らかに武装した集団が目の前に広がっていたのだ。


「……玖珂アキトか!?」


 なぜか自分の名前を知っている目の前の集団はどうみても異常だった。人数はここから見えるだけで15名。そして自分から大体10メートル程距離を取っている。


(装備の雰囲気的に自衛隊みたいだ)


 そんな感想を思い慎重に返答を返した。


「は、はい。玖珂ですがあの、どちら様ですか?」

「こちら4班、対象と接触しました。特に暴れる様子などありません。はい。分かりました、同行して頂きます」


 誰かと話している。無線機だろうか。


「玖珂さん、落ち着いて聞いてください。恐らく非常に混乱されている事でしょう。こちらにご同行頂ければそれらを説明させて頂きます。どうか、我々と同行頂けませんでしょうか」

「あの、皆さんは警察、いや自衛隊ですか?一体何があったんですか!?」

「落ち着いてください。私は陸上自衛隊第4番隊所属の佐藤と申します」


 そういって佐藤さんは身分証を出してくれた。しかし距離があるせいかよく見えない。そう考えアキトは自衛隊に近づこうとした。


「申し訳ありません! 止まってください!!」

「なっ!」


 行き成り大声を出され、驚くアキト。


「申し訳ありません。事情はここで説明できないのですが、我々と最低でも今とおなじだけ距離を維持してください」

「何か………ウイルスでも感染しているんですか?」

「いえ、そうではありません。ですが、それらを説明するにはここではあまりに状況が悪いのです。ここから歩いて30分程度の場所に我々が拠点にしている建物があります。まずはそこまでご同行ください。道中は我々が護衛致します」

「行き成り着て、着いて来いなんて言われても困ります! 貴方たちは自衛隊ですか? どうして僕の名前を知っているんですか!?」

「混乱しているのは分かります。ですが、今は着いてきて下さい。必ず説明致しますので」

「――そこに行けば何が起きているのか教えてくれるんですか……?」

「はい、それでは先行しますので付いてきてください。五班は殿から護衛を行えっ! 移動を開始する」


まったく悪い夢でも見ているなら早く目が覚めてほしい。そうアキトは考えていた。

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