珍味
竜宮城からゾル平原までを急ぎ足で進んだアルド達。
次元の狭間で出迎えてくれたマスターから、エイミが未来で待っていると伝えられる。
なかなかやってこないアルド達を心配し、エイミは一度狭間に戻ってきたらしい。今は古代へ合流する術がないこと、古代と未来を直接繋ぐ光が見つかるかもしれないこと、一行の目的地が未来であることから、未来で待つことを選択したようだ。
マスターにお礼を伝えると、3人は光の柱へ今度こそ間違いなく吸い込まれ…ようやく未来、エアポートへと降り立つ。
相談の結果、エイミ探しは土地勘のあるリィカに任せ、アルドとサイラスはエアポートの釣り場に来ていた。
「うーん、古代にはいない未知のサカナが釣れるかと思ったけど…」
「なにやら人工的な部品が多くついておって、食用といった雰囲気ではないでござるな」
「そうだな。食べられそうなのもいるけど…たくさん釣れるってことは、別に珍しいサカナでもないんだろうなぁ」
今しがた釣り上げたサカナには、半透明の羽根のようなものがいくつも生えている。小振りだが、これでもう7匹目だ。
アルドは、どうしたものかと眉を寄せ、サカナを冷却箱へと収めた。箱の中には、ゴーグルらしきものをつけたサカナや、今にも口からなにか発射しそうな機械仕掛けのサカナが並んでいる。いかにも人工的なつくりで、食べようにも歯が立ちそうにない。
顎を触り、しばし思案していたサイラスが、おもむろに口を開いた。
「…いや、しかし未来に生息する、というだけで親父殿にとっては珍しいのではござらんか…?」
「…なるほど……?それもそうか…」
「これだけの種類が揃っておれば、中にはお眼鏡にかなうサカナもおるやもしれぬ」
「…よし!じゃあ今見えてるサカナが釣れたら、エイミ達と合流して、一旦アクトゥールへ戻ろうか。オレ達だけで考えてても、埒が明かな…」
ぐんっ!!
「ぅわっ!なんだ?!」
急に釣竿を引っ張られよろめくアルド。そのまま持っていかれそうになるも、なんとか踏ん張り、両手で力強く竿を握り締める。
「…くっ……す、凄い引きだ!」
「どうやら大物のようでござるな!拙者も加勢するでござるよ!」
「頼む…っ!」
「ムッ…なかなか、手強いでござるな…!ム、ムムゥ…」
「くぅ……うまく…動きに、あわせ、て…………ここだっ!!」
ぐぃん!と竿をしならせ、渾身の力で釣り上げる。
ザバァ、と水面から現れたその姿は…
「「……………」」
宙を見つめる虚ろな瞳、
ぽっかりと開いた口、
そして白銀色の痩けた体…
「「おいしくなさそう…」」
2人がかりで抱えた腕のなかで、申し訳程度にピチピチと動くサカナ。目があった、気がしてそっと視線を逸らす。2人はしょんぼりと眉を下げ、重なった言葉は溜め息とともにふっと消えていった。
「引きが強かったから、期待したんだけどな…」
「…拙者もでござる」
「今までとは比べ物にならなかったぞ。ここのヌシ…っぽくはないけど、珍しいサカナなのかな」
「フム、よく見れば人の手は加わっておらぬようでござるし、食べられるのでは…?」
「………いや、食べたいか?」
うーん、と唸る2人。
とりあえず冷却箱に、と振り向こうとしたその時。
鋭い光が走り、甲高い音が2人の間を切り裂いた。
「うわっ、なんだ?!」
「何奴?!」
素早く数歩飛び退き、体勢を整えたサイラス。アルドはハクレンギョを抱えたままよろめき、尻餅をついた。
≪密漁者ハッケン!密漁者ハッケン!≫
≪排除シマス!≫
声のする方を振り向くと、そこには数体のドローン。10mほどの距離はあるだろうか。どうやら先程の光は、ドローンから放たれたレーザーだったようだ。
「ドローン?…密漁者って……待ってくれ!話を…」
≪排除シマス!≫
うむを言わさず攻撃態勢に入るドローン。
「だめだ、話が通じない!」
「危ないでござる!」
なんとか立ち上がったアルド、
駆け寄るサイラス、
ドローンが今まさにレーザーを発しようと
…して、ミシッ、と音をたてた。
「スマッシュ……ッダウン!!」
勇ましい掛け声と同時、勢いよく弾き跳ばされたドローンが1体、ごしゃあ、と鈍い音を響かせアルド達の足元に転がる。
「…ふぅ、なんとか間に合ったわね」
「エイミ!!」
「エイミ殿!無事でござったか!」
髪を払い、両手を腰に当てるエイミ。
アルドとサイラスが安堵の表情を浮かべる。
エイミはそんな2人を見遣り、溜め息をひとつこぼして顔をしかめた。
「無事もなにも、危なかったのはアンタ達よ!全っっ然来ないと思ったら、こんなところでノンキに釣り!?おまけにドローンにまで絡まれて…もう、どれだけ心配したと…!」
「エイミさん!!…ハァ、やっと追いつきマシタ!」
エイミの言葉を遮るように駆けてきたのはリィカだ。
エイミの表情がパッと明るくなる。
「リィカ!良かった!どこにも見当たらないから、今度はリィカがはぐれちゃったのかと思ったわよ」
「ご心配をおかけシマシタ!デスガ、詳しい話は後デス。まずはドローンを停止させマショウ」
そう言うなりハンマーを構えるリィカ。
それが合図になったかのように、様子を窺っていた残りのドローンが次々と攻撃態勢に入る。
「そうだな…どうやら話を聞いてくれる相手じゃなさそうだ」
「もう…!後で、ちゃんと説明してもらうからね!」
「いざっ、ゆくでござる!」
先陣を切って走り出すサイラス、レーザーをスッと躱すと素早くドローンの懐に入り込み勢いのままに下から刀を振り上げる。
「水、竜、斬りッ!」
続くアルドも軽やかな足捌きで次々とレーザーを避け、ドローンの頭上から斜めに剣を振り下ろす。
「ブレイズソード!!」
「逃がさないわよっ!サマーソルト、キック!」
後方のドローンとの距離を一気に詰めたエイミが、目にもとまらぬスピードで拳を打ち込み蹴りあげる。
怯んだドローンの背後から飛び上がって姿を現したリィカが、ハンマーを振り下ろす。
「コチラハお任せクダサイ!マインド…スタンプッ」
「終わりだ!回転…ッ斬り!!」
最後は力強く払われたアルドの剣に吹き飛ばされ、ドローン達は残らず地面へと沈んだ。
「ふぅ…これでひとまず大丈夫デスネ」
ドローンが動かなくなったことを確認し、武器を納める一行。
「ありがとう、エイミ、リィカ。助かったよ」
「大したことないわ。でも、そんなに大きな冷却箱を抱えてちゃ、戦うのも一苦労ね」
「しかし、倒してしまって良かったのでござろうか?問答無用で攻撃されそうにはなったでござるが…もしや、保安機関のようなものだったのでは…」
「心配しなくても大丈夫よ、気絶させただけだし」
「気絶…?」
「そんなことより…ちゃんと、説明してくれるんでしょうね?」
どう見ても大破してるんじゃ…と転がるドローンを一瞥するアルドをよそに、ズイ、と距離を詰めるエイミ。納得のいく説明があるまで逃がさない、と言わんばかりの態度に気圧され、アルドは後ずさる。
「分かってるって、ちゃんと話すよ…」
だから落ち着いてくれ、となんとかエイミを制すると、アルドは事の発端、狭間での一件から話を始めた。
ーーーーー
「…ふぅん、そんなことになってたのね」
「そういう経緯で、今はここで釣りをしてたんだ。心配かけてごめんな、エイミ」
「事情は分かったわ。そりゃもちろん、ずいぶん心配したけど…ま、こうやって無事に集まれたんだから、よしとしましょ!」
アルドの説明を受け、エイミはひとつ大きく頷くと、視線を釣り場へと向ける。
釣り場には、寄ってくるサカナを掴み取りしようと試みるサイラスの姿。しかしサカナはすばしっこく、なかなか捕まらない。それを眺めるリィカの目の前で、群れをなした小さなサカナが次々と空高く飛び跳ねる。驚き、ツインテールをピンと立てるリィカ。2人ともびしょ濡れだ。
ふふっと微笑んで、エイミが続ける。
「それで?お目当てのサカナは釣れたの?まだなら私も手伝うわ」
「それが、いくらか釣れはしたんだけど……うん、見てもらったほうが早いな。おーい、リィカも!ちょっと来てくれないか?」
アルドの呼び掛けに、一行は冷却箱の周りへと集まる。
「今までこんなのが釣れたんだけど…どうかな?食べられると思うか…?」
自信なさげに問いかけるアルド。リィカが冷却箱を覗き込み、鑑定士のように一匹ずつ確認していく。スカイフィッシュ、メカカマス、サーチライアンコウ…とサカナの名を呼び上げていたリィカの目が、ピカリと光った。
「これは……ハクレンギョ!」
「えっ、ハクレンギョ!?本当に?」
リィカが指すのは「おいしくなさそう」とアルドとサイラスの意見が一致したサカナだ。私にも見せて、とエイミが身を乗り出す。
「あ、このサカナって珍しいのか?引きが凄くてさ、釣り上げるのに苦労したんだ」
「拙者も手に汗握ったでござるよ…」
「ハクレンギョは、珍味としてマニアの間では有名なサカナデス。見た目で敬遠されることも多いノデスガ、噛めば噛むほど独特の旨味がジワリと滲み、クセになると言われてイマス。手に入りにくいことも相まって、高値で取引される逸品デスネ」
「そ、そんなに有名だったのか…サカナも見かけによらないんだな…」
説明を受け改めてハクレンギョを見つめる。心なしか瞳に力が宿って見える、ような気がしないでもない。
「さっきのドローンも、そのせいね」
「…このサカナとドローンと、どういった関係があるでござるか?」
「ハクレンギョなど、貴重なモノで一儲けしようと考える人は多くイマス。中には残念ながら、不正にドローンを使って、他の人の邪魔をするケースもあるノデス…」
「それじゃあ、このドローン達は…」
「そう。私がここに来たのも、巡回用じゃないドローンが釣り場の方に向かってるって、お客さんに聞いたからなの。最近多くって…EGPDの取り締まりも間に合ってないのよ。全く、セコイこと考えるわよね」
「私がイシャール堂に着いたときニハ、既にエイミさんはおらず…釣り場に向かったとザオルさんから聞き、急いで追いかけてキマシタ」
「そうだったんだな…」
腕を組み、真剣な眼差しで話を聞くアルドとサイラス。それにしても、とエイミが眉を寄せる。
「ハクレンギョって噂には聞いてたけど、実際見るのは初めてなのよね。……でも、いくら珍しくても、ちょっと私は食べたいとは思わないわ…」
分かるよ、とアルドも苦笑する。
「…こんなサカナを食べたいなんて、そのお相手もサカナマニアなの?」
「マニア…かどうかは分からないけど…きっと、サカナが好きで、いろんな種類を食べてみたいんじゃないかな?」
「近場で釣れるサカナは食べてくれない、と言っていましたノデ、新しい刺激を求めているのかもしれませんネ」
「親父殿は腕に覚えがあるそうじゃから、きっと美味しく仕上げるのでござろうな」
どうも腑に落ちない、といった表情で3人の話を聞いていたエイミ。
「ふぅん…結局、どんな子かは皆知らないのね。まぁいいわ、直接会って確かめるから。それじゃ、早くサカナを持ってってあげましょ」
「そうだな、エイミとも無事に会えたし」
「オジサマもきっと、首を長くして待っていると思われマス」
「それではいざ、アクトゥールへ!でござる」
ずしりと重い冷却箱を代わる代わる支え、アルド一行はアクトゥールへと急ぐのだった。
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