第6話

 あの時から、私は想うようになった。


 私が練習で、初めてお前のジャンプに成功した時。感極まって泣いている私を見て、お前は側に近寄って、そっと撫でさせてくれた。今まで恐怖でしかなかったお前の体が、その時は逞しく安心感に包まれていた。

 お前のあの身体に触れた時から、私の心はお前を捕らえて離さなかった。


 最初はささやかな興味だった。

 それがいつの間にか、世界の最深部に輝く、鍾乳石のように磨かれた、その牙や、その爪に、興奮を抱くようになってしまった。

 そして、愛が私を侵食していった。



 ただ普通の恋人たちが望むことを、私が望んだら、ただ死に近づいただけだった。


 普通の恋人が肌を指で愛部するように、この肌をお前でボロボロにしたい。

 何も抵抗も出来ず、私の首から血が吹き出す事になったとしても、お前の逞しい顔をうっとりと見つめていたいのだ。


 想像するだけでも、私の下の茂みがじんわりと濡れていく。


 惹かれていく身体は、本能を抑えられない。

 腕も、太ももも、引き締まった自慢のお尻も余すことなく、噛みちぎってくれ。

 私は死にたいわけじゃない。ただお前に私の全てを、受け入れてもらいたいんだ。


 その時、地面が揺れた。かなり大きな地震だ。他の動物は不安で暴れている。

 でも私たちは動かない。私とお前は目を逸らす事無くお互いを見ている。寸分の狂いもなくお互いを欲している。


 私は


 私は今を生きている。


 私は叫び、

 スティックを振り下ろす真似をした瞬間、

 お前が走った。


 そして獲物に襲いかかるように、獣の本能を存分に解き放ち、お前は私に飛びかかった!


 その瞬間、何故か私の目の前に父親が現れた。

 当時のスーツ姿で顔も年を取ることなく、父は私の方へ向かって歩いてきた。

「遅くなったねエリーゼ、迎えにきたよ」

 その言葉に、私は子供の頃のあどけない顔に戻っていった。まるで、父と最後に会った、あの日の自分に。

「パパおかえりなさい。ずっと待ってたよ」

 パパは、両手を広げると、私を抱きしめようとしてくれた。その左手には、当時つけていた、時計が見えた。パパが、最後に手を挙げた時に、ちらりと見えていた時計。やっぱり、パパは来てくれたんだね。

 そう言って、父とエリーゼが抱きしめ合った瞬間、ルーナの牙は、エリーゼの首元に、深く突き刺さった。

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