第36話 私と妖精①

内容としては、妖精の妖権を守るために、何か行動を起こしたいというものだった。

具体的に何をするつもりかは分からないが、ろくでもないことを考えているのは間違いないだろう。

結局、断り切れず、渋々了承してしまった。

こうなったら、一刻も早く終わらせてしまいたいところだ。

それからというもの、毎日のように話し合いが行われた。

とはいっても、ほとんど一方的に話を聞かされるだけだった。

その内容は、どれもこれも同じようなものばかりで、うんざりしていた。

中でも、特にひどかったのは、孤児に対する扱いについての批判である。

確かに、彼らの言い分にも一理あるとは思う。

だが、だからといって、それを他人に押し付けるのはどうかと思う。

そもそも、この問題は、国が解決すべき問題であって、

自分たち一般人がどうこうできるものではないのだ。

そのことを説明しても、彼らは納得しなかった。

むしろ、ますますヒートアップしていくばかりだった。

このままでは埒が明かないと思い、一度、距離を置くことにした。

このまま付き合っていても時間の無駄だと判断したからだ。

幸い、連絡先を知っているので、いつでも連絡を取ることはできる。

だから、後は放っておくことにした。

それからというもの、特に目立った動きはなかった。

おそらく、諦めたのだろう。

そう思っていた矢先のことだった。

再び、彼らから接触があったのだ。

しかも、今回は、かなり強引なやり方で、半ば強制的に連れ出されてしまった。

連れて行かれたのは、人気のない路地裏だった。

そこで、改めて、自分たちの主張を訴えるつもりのようだ。

一応、聞くだけは聞いてやろうと思って、大人しく耳を傾けていたのだが、

やはりというか、予想通りの内容だった。

結局のところ、彼らにとって重要なのは、自分たちの正義が正しいかどうか、

ただそれだけなのだ。それ以外のことには興味がないらしい。

当然、そんなものを認めるわけにはいかないので、はっきりと拒絶の意思を示した。

そうすると、案の定、反発されてしまった。

それでも、引くつもりはないのか、執拗に迫ってきた。

おかげで、こちらもイライラしてきた。

いい加減、我慢の限界に達したので、力づくで黙らせることにした。

幸い、こちらには武器がある。

それを使って、脅してやれば、流石におとなしくなるだろうと考えたのだ。

そう思った直後、背後から声をかけられた。

振り向くと、そこには、一人の男が立っていた。

年齢は二十代後半といったところだろうか、

背が高く、体格も良い、いかにもスポーツマンといった感じの人物だ。

彼は、不敵な笑みを浮かべながら、こちらを見つめている。

一体何者なのか、と思っていると、おもむろに口を開いた。

男は、自らを、妖精保護施設の関係者だと名乗った。

その言葉に、一瞬、耳を疑った。

まさか、こんな場所に、わざわざ出向いてくるとは思いもしなかったからだ。

だが、同時に、チャンスだと思った。

ここで、この男を取り込めれば、あるいは、事態が大きく変わるかもしれないと考えたからだ。

だからこそ、あえて強気に出ることにした。

こちらの要求を呑まなければ、実力行使に出るという姿勢を見せるためである。

そうすれば、相手も諦めざるを得なくなるだろうと考えたからだ。

案の定、効果あったようで、男の顔色が変わっていくのが分かった。

どうやら、向こうも焦っているようだ。

ならば、畳み掛けるしかないだろう。

そう思い、再度、交渉を持ちかけることにした。

果たして、どうなることやら……。

そんなことを考えながら、次の言葉を待つことにした。

もしかしたら、うまくいくかもしれない、淡い期待を抱きつつ、相手の反応を待つことにした。

そうすると、意外なことに、あっさりと承諾してくれた。

これには、正直驚いた。

というのも、もう少し渋られると思っていたからだ。

とはいえ、こちらとしては好都合なので、遠慮なく受け入れることにした。

こうして、新たな仲間を手に入れたわけだが、 まだまだ問題は山積みである。

まず、どうやって生計を立てるかという問題もある。

それに、生活の拠点も必要になるだろう。

だが、その点については、あまり心配していない。

というのも、実は、既に目星をつけていたのだ。

それは、この街にある小さな孤児院である。

ここの院長とは、知り合いなので、事情を話せば、きっと助けてくれるはずだ。

あとは、どうやって連れていくか、という点だが、

こればかりは、実際に試してみないと分からない。

まあ、なんとかなるだろう、多分。

ということで、早速、行動に移すことにした。

まずは、院長に連絡を取ってみたところ、快く引き受けてくれた。

次に、必要な準備を済ませた後、決行日を迎えることになった。

当日、指定された場所に行くと、すでに何人か集まっていた。

その中には、以前、一緒に戦ったことのあるメンバーもいた。

どうやら、彼らも一緒らしい。

これなら、万が一の場合、戦力的に心強いだろう。

そんなことを思いながら、いよいよ出発の時を迎えた。

道中は特に問題もなく、無事に到着した。

中に入ると、大勢の子供たちがいた。

皆、元気そうで、とても幸せそうな表情を浮かべている。

その様子を見て、自然と笑みがこぼれてきた。

そうすると、一人の少女が駆け寄ってきた。

どうやら、この子がリーダー格らしく、みんなに指示を出しているようだ。

その姿は、とても頼もしく見えた。

そんな彼女に案内されながら、奥の部屋へと向かう。

そこには、大きな扉があり、その前に、数人の大人たちが立っていた。

おそらく、彼らがこの施設の責任者なのだろう。

中へ入ると、そこには、たくさんの妖精たちがいた。

皆、怯えているのか、部屋の隅っこの方で固まって震えている妖精もいる。

中には、怪我をしている妖精もいた。

どうやら、ここに来るまでに、色々とあったらしい。

とにかく、今は、この妖精たちを安心させてあげる必要があるだろう。

その為には、まず、信頼関係を築くことから始めるべきだ。

まずは、ゆっくりと近づき、優しく声をかけてみることにする。

そうすると、最初は警戒していたが、次第に慣れてきたのか、徐々に心を開いてくれるようになった。

それからというもの、毎日、欠かさず通い続けた結果、今ではすっかり懐いてくれている。

今では、一緒に遊んだり、ご飯を食べたり、一緒に寝たりする仲にまでなった。

そんなある日、事件は起きた。

いつものように、施設にやってきたときのことである。

なにやら、騒がしい声が聞こえてくると思ったら、なんと、あの連中が来ていたのである。

しかも、よりにもよって、妖精たちを人質に取っているではないか。

これには、さすがに驚いた。

まさか、ここまでやるとは思っていなかったからだ。

だが、ここで諦めるわけにはいかない。

なんとしても、妖精たちを助け出さなくては。

そう思い、必死に抵抗を試みるも、多勢に無勢、徐々に追い詰められていく一方だった。

もうダメかと思ったその時、奇跡が起きたのである。

なんと、妖精たちが一斉に動き出したのだ。

しかも、その手には、それぞれ、剣や槍などの武器を持っている。

どうやら、施設内に置いてあったものを持ってきたらしい。

それを見た男たちは、動揺を隠しきれない様子であった。

無理もない、まさか、妖精たちが反抗してくるとは夢にも思わなかっただろうから。

しかし、だからと言って、素直に諦めるような連中ではない。

すぐさま、反撃に転じようとしたのだが、その動きを察知したのか、

妖精たちは、素早い動きで攻撃を避け、逆にカウンターを仕掛けていった。

その結果、一人、また一人と倒されていき、ついに最後の一人となった。

残ったのは、一人だけ、その男だけが残されたのである。

その男は、恐怖のあまり、腰を抜かしたのか、その場に座り込んでしまった。

そうすると、妖精たちは、その男を取り囲むようにして立ち塞がった。

そして、一斉に武器を振り下ろしたのである。

その瞬間、男の悲鳴が響き渡った。

その声は、まるで断末魔のようだった。

その光景を見た時、思わずゾッとした。

それと同時に、何とも言えない高揚感に包まれたような気がした。

ああ、これが、本当の意味での勝利なんだと実感した瞬間でもあった。

こうして、見事、勝利を収めた我々は、意気揚々と帰路についたのである。

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