第35話 彼女との関係
結局、一睡もできないまま朝を迎えてしまいました。
鏡に映る自分の顔を見ると、酷い有様でした。
目は充血し、隈ができ、顔色も真っ青になっています。
これでは、人前に出られないだろうと思いながら、支度を整え、家を出ました。
目的地はもちろん、フェルシナさんのところです。
ですが、いざ近くまで来ると、足がすくんでしまい、なかなか前に進むことができません。
そうこうしているうちに、あっという間に時間が過ぎ去ってしまいました。
結局、何もできないまま、帰宅することに。
その夜、夢を見た。
夢の中で、自分は別の自分を見ていた。
それは、今の自分ではなく、昔の自分だった。
まだ、フェルシナさんと出会う前、両親を亡くし、絶望に打ちひしがれていた頃の自分だ。
そんな自分を、もう一人の自分が慰めようとしてくれている。
でも、その言葉は、今の自分に向けられたものではない。
過去の自分に向けられているのだ。
それが分かるからこそ、余計に辛くなる。
そして、目が覚めた時、自分の頬を伝う涙に気づいた。
ああ、そうか、これは現実なんだ、受け入れなくてはいけない、
そう自分に言い聞かせるしかなかった。
その日を境に、少しずつではあるが、心の隙間を埋めようと努力し始めた。
まずは、身近なところから始めようと思った。
具体的には、料理を作ることだ。
幸い、両親は共働きだったので、幼い頃から台所に立つ機会が多かった。
そのため、ある程度の知識はあったのだが、実際にやってみると、
なかなか上手くいかないもので、何度も失敗したものだ。
それでも、めげずに練習を続けた結果、ある程度の腕前になるまで上達することができた。
次は、勉強に力を入れることにした。
もともと、成績は良かった方ではあったが、それでも、苦手な科目がいくつかあった。
特に、英語に関しては、壊滅的な成績だったと言えるだろう。
しかし、そんな自分を変えたいと思ったからこそ、苦手分野に取り組むことにしたのだ。
最初は、単語を覚えることから始め、徐々に文法を理解していき、
最終的には、長文読解までできるようになった。
最後に、運動神経を磨くために、ランニングを始めたりもした。
最初は、すぐに息切れしてしまい、辛かったが、
続けているうちに体力がついてきたのか、 徐々にペースを上げられるようになっていった。
そうして、半年ほど経った頃には、すっかり健康的な身体つきになり、
自信を持って外出できるようになっていた。
さらに、今まで以上に明るくなったことで、
周りからの印象も大きく変わり、友人も増えていった。
そんな中、転機が訪れることになる。
いつものように、お店へ向かう途中、急に声をかけられ、
振り返ると、そこには見覚えのある顔があった。
それは、かつてフェルシナさんに恋心を抱いていた女性、ルリアさんであった。
久しぶりに会ったというのに、向こうはまるで気にしていない様子だった。
それどころか、馴れ馴れしく接してくる始末だ。
正直、迷惑以外の何物でもなかったが、無下にするわけにもいかないため、
適当に相槌を打つことにしていた。
ところが、話が進んでいくうちに、段々と雲行きが怪しくなってきた。
どうも、私のことを見下しているらしいのだ。
挙句の果てには、上から目線で説教を始める始末である。
いい加減、我慢の限界を迎えた私は、ついにキレてしまった。
気が付けば、相手に掴みかかっていた。
咄嵯の出来事だったため、手加減などできるはずもなく、思いっきり殴り飛ばしてしまった。
その結果、相手は地面に倒れ込み、気を失ってしまうことになった。
さすがに、まずいと思った私は、慌てて駆け寄り、介抱しようとしたのだが、
その時、誰かが近づいてくる気配を感じ取った。
恐る恐る振り返ると、そこには、フェルシナさんが立っていた。
その表情を見た瞬間、背筋が凍った。
なぜなら、明らかに怒っているのが分かったからだ。
どうしよう、怒られるかな、嫌われてしまうかもしれない、
そんな不安に駆られていると、意外にも、優しい声色で話しかけられた。
曰く、彼女を許してあげて欲しいということだった。
なんでも、彼女も悪気はなかったらしい。
ただ、少し思い込みが激しく、思い込みが激しい性格なのだとか。
まあ、要するに、誤解だったようだ。
とりあえず、その場は丸く収まったものの、
もう二度と会いたくないと思ったのは言うまでもない。
後日、改めて謝罪を受けた上で、和解することになった。
ただし、条件付きで、今後一切、自分に関わらないこと、
それと、二度と店に来ないことを約束させた。
これで、ようやく平穏な日常が戻ってくるはずだったのだが、
今度は、また別の問題が浮上してきた。
なんと、先日の一件がきっかけで、一部の人々の間で噂になってしまったらしいのだ。
その内容というのが、私が彼女を殴り飛ばしたというものである。
そのせいで、しばらくの間、周囲から白い目で見られることになったのだ。
とはいえ、噂というものは、時間が経てば経つほど、自然に消えていくものである。
実際、今では誰も話題に上げなくなったようだ。
だが、私の中では、いつまでも消えぬ記憶として残り続けることになるだろう。
なにせ、あの時の感触がまだ残っているのだから。
さて、気を取り直して、今後のことについて考えてみよう。
まず、第一にすべきことは、例の女性との縁を切ることだ。
そのために、早速、行動を起こすこととした。
手始めに、彼女の自宅を訪れることにした。
事前に連絡を入れておいたこともあり、すんなり会うことができた。
部屋に通されたところで、単刀直入に用件を切り出すことにする。
そうすると、案の定、驚いた表情をされてしまった。
無理もないことだろう、まさか、直接会いに来るとは思わなかったはずだ。
だが、そんなことは関係ないとばかりに、話を続けることにした。
まずは、いきなり押しかけた非礼を詫びた後、本題に入ることにする。
単刀直入に、彼女と縁を切りたいと告げたところ、案の定、拒否されてしまった。
何でも、今のままの関係を維持したいとのことだ。
その理由としては、単に寂しいだけなのかもしれないが、
こちらとしては、これ以上関わりを持ちたくないというのが本音である。
というのも、彼女と一緒にいる間、常にストレスを感じていたからである。
できることなら、今すぐにでも離れたいくらいだ。
その後も、何度か説得を試みたものの、結局は無駄に終わった。
結局、最後まで納得させることはできなかったようだ。
仕方がないので、一旦、引き上げることにした。
帰り際、去り際に、一言だけ声をかけることにした。
さようなら、もう会うことはないでしょう、と告げると、
彼女は寂しそうな表情を浮かべた。
それを見て、罪悪感を覚えたものの、心を鬼にして無視することにした。
そして、そのまま振り返ることなく、部屋を後にした。 その後、しばらくは平穏な日々が続いた。
しかし、それも長くは続かなかった。
ある日、突然、見知らぬ人物から声をかけられたのだ。
一体誰だろうと疑問に思っていると、その人物は、自分のことを、
ある団体の代表を務めている者だと名乗った。
聞けば、彼らは、子供の権利を守る活動を行っているのだという。
その話を聞いた時、嫌な予感しか感じなかった。
案の定、彼らの目的は、私の想像通りだった。
要は、子供を虐待している親に対して、抗議活動をしたいということらしい。
そこで、ちょうどよく現れた私を利用しようという魂胆なのだろう。
冗談じゃない、誰が協力するものか、そう思って断ろうとしたのだが、
相手は引き下がらなかった。
それどころか、しつこく食い下がってくる始末である。
あまりにもしつこいものだから、仕方なく話を聞くことにした。
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