第34話 私は一体何をしたの

「大丈夫だよ、もう泣かないでいいんだよ。

これからは、ずっと一緒にいるからね、約束だよ」

こうして、私たちの関係は始まったのだった。

その後、私たちは二人で暮らすようになった。

毎日、一緒に遊んで、ご飯を食べて、一緒に寝る日々が続いた。

幸せだった、今までの人生で一番楽しい時間を過ごすことができたと思う。

そんなある日のこと、いつものように遊んでいる最中、彼女がこんなことを言い出した。

「ねえ、知ってる? この世界とは別の世界が存在するんだって」

その話に興味を持った私は、詳しく聞いてみることにした。

彼女の話では、この世界以外にも数多くの世界が存在しており、

それぞれ異なる法則に基づいて存在しているという。

例えば、魔法が存在する世界もあれば、科学文明によって発展した世界も存在するなど、まさに多種多様だという話だ。

それを聞いているうちに、だんだん自分も行ってみたいという気持ちが強くなってきた。

そこで、彼女に提案してみたところ、あっさりと承諾してくれた。

こうして、私たちの冒険が始まったのである。

最初のうちは、右も左もわからない状態だったけど、次第に慣れてくると、色々なことを学べるようになった。

特に、他の世界から来た人たちとの交流はとても刺激的だった。

彼らから聞く話は、どれも新鮮で興味深いものばかりだったからだ。

そんな日々を送っているうちに、いつしか私たちは、自分たちだけの特別な力を手に入れていたのだ。

その力を使って、様々な困難を乗り越えていった結果、今では立派な冒険者になっていたのである。

ある日、いつものように依頼をこなしていると、偶然見つけた洞窟の中に、

大きな水晶玉が置かれていることに気づいた。

興味本位で近づいてみると、突然輝き始めたではないか。

あまりの眩しさに目が眩んでいると、次の瞬間、見知らぬ場所へ飛ばされてしまったのだ。

そこは、見たこともない風景が広がる場所で、人々は皆、妖精のような姿をしており、

言葉は通じるものの、文字などは読めなかった。

そんな状況の中、途方に暮れていた私を助けてくれた人がいた。

その人は、親切にも私に言葉を教えてくれただけでなく、住む場所を提供してくれた上に、

仕事まで紹介してくれたのだ。

おかげで、今は何とか生活できている状態である。

ちなみに、その人の名前は、フェルシナさんというそうだ。

見た目は20代後半くらいの美人なお姉さんだけど、年齢は教えてくれないんだ。

まぁ、別にいいんだけど、とにかく頼りになる人で、いつもお世話になっているのです。

「あら、いらっしゃい、今日も来てくれたのね、

嬉しいわ、ゆっくりしていってちょうだいね」

そう言って出迎えてくれるフェルシナさんは、優しい笑顔を浮かべている。

その姿を見ると、何だか心が落ち着くような気がするんです。

ここは、街の外れにある小さなお店だ。

名前は、『フェアリー・ガーデン』といって、主に薬草を取り扱っている店なんだけど、

それだけじゃなくて、ちょっとした薬なんかも置いてあるのです。

しかも、値段もかなり安いらしくて、お得意さんからはかなり評判がいいみたいです。

あと、この店の特徴といえば、なんといっても店主の人柄。

優しくて面倒見がよくて、おまけに美人だし、言うことなしです。

まぁ、欠点を上げるとすれば、少々抜けているところがあって、

たまに失敗しちゃうところもあるってことぐらいです。

まぁ、そんなところも含めて素敵なんです。

「はい、お待たせしました、特製ハーブティーよ、

よかったらどうぞ召し上がって」

渡されたカップを受け取りながら、お礼を述べる。

一口飲むだけで、口の中に爽やかな風味が広がり、心身ともに癒されていくようだ。

ほっと一息ついたところで、本題に入ることにした。

いよいよ今日こそは、長年気になっていたあの質問をしてみるつもりだ。

ゴクリ……、喉が鳴る音が聞こえた気がした。

緊張しているのだろう、手に汗を握る感触がある。

意を決して、口を開くことにした。

「あ、あのっ、フェルシナさんって、

好きな人とかいないんですか!?」

言った、言ってしまった、

これでどうかな、どう反応するんだろう、

ドキドキしながら待っていると、返ってきた答えは意外なものだった。

「……えっ、なんでそんなこと聞くの?」

キョトンとした顔で聞き返された時は、正直焦った。

「いや、ちょっと気になっただけですよ、深い意味はありません、

あはは、気にしないでください、ほんと、冗談ですから、

忘れて下さい、 ごめんなさい、変なこと聞いてしまって、あはは、ははは、はぁ……」

慌てて取り繕うとするものの、動揺を隠しきれず、言葉が出てこない。

そうすると、その様子を見た彼女がクスリと笑った。

恥ずかしさのあまり、顔が熱くなるのを感じた。

穴があったら入りたい気分です。

でも、その一方で、少し嬉しくもあるんですよね、

だって、普段あまり笑わない人の笑顔が見られたんですから、それだけで満足感が得られます。

それに、なんだか距離が縮まったような気がして、嬉しかったりするわけです。

そんなこんなで、その日は何事もなく終わりを迎えました。

翌日からも、いつも通りの生活が続きますが、一つだけ変わったことがあります。

それは、フェルシナさんと話をする機会が増えたことです。

もちろん、内容は他愛もない世間話ばかりですけど、それでも十分すぎるくらい充実しています。

最近では、毎日のように通っています。

「こんにちは、今日も来ちゃいました、えへへ」

満面の笑みで挨拶すると、彼女も笑顔で応えてくれる。

この時間が一番幸せなひとときだと感じています。

これからも、この関係が続くように願ってやみません。

そして、いつか必ず想いを伝えようと思っています。

それが、今の目標であり、夢でもあるのです。

それからというもの、毎日のようにフェルシナさんの元に通うようになりました。

時には、仕事の手伝いをしたり、一緒に出かけたり、

ときには、夜遅くまで語り明かしたりと、様々な思い出を作っていきました。

その度に、フェルシナさんのことをどんどん好きになっていったのです。

そんなある日、いつものようにお店に行くと、珍しくお客さんが来ていました。

しかも、若い女性の方で、何やら真剣に話し込んでいるようです。

気になって耳を傾けてみると、どうやら恋愛相談を受けているようでした。

相手は、近くの村の青年らしく、最近になって付き合い始めたばかりだとか、

結婚を申し込まれたなどの話をしていました。

それを聞いたフェルシナさんは、満更でもない様子で話を聞いていました。

その光景を見た私は、胸が締め付けられるような痛みを感じていました。

辛い、苦しい、悲しい、嫉妬、怒り、憎しみ、悲しみ、

そういった感情が一気に押し寄せてきて、どうにかなりそうでした。

気が付くと、無意識のうちに、その場から逃げ出していました。

走っている途中、涙が止まりませんでした。

悔しくて、悲しくて、切なくて、色んな感情がごちゃ混ぜになった状態で、

ただひたすら走り続けていました。

ようやく落ち着いた頃、ふと我に返り、辺りを見渡してみると、そこは見慣れた景色でした。

どうやら、無意識に自宅に戻ってきていたようです。

そのことに気が付いた瞬間、どっと疲れが出てきました。

そのままベッドに倒れ込み、目を閉じることにしました。

次の日、目が覚めると、外は既に明るくなっていました。

昨日のことを思い出し、思わずため息が出てしまいます。

そんなことを考えているうちに、いつの間にか夕方になっていました。

今日も、いつものようにフェルシナさんの元へと向かいます。

昨日の出来事について、どうしても確かめたかったからです。

お店に到着すると、いつものように出迎えてくれます。

いつもの笑顔が、今日は妙に眩しく見えて、

まともに見ることができず、つい俯いてしまいます。

そんな私の様子を見かねたのか、心配そうに声をかけてくれました。

その優しさすら、今の私にとっては苦痛でしかありませんでした。

早くこの場から離れたい一心で、適当な言い訳をして店を後にします。

後ろから呼び止める声が聞こえましたが、無視して走り出してしまいました。

家に帰るまでの間、頭の中はぐちゃぐちゃで、何も考えることができませんでした。

ただ、ひたすら走ることだけに集中し、気が付けば自宅の前に立っていました。

玄関を開けると同時に、その場に崩れ落ちるようにして倒れ込みます。

全身から力が抜けていくような感覚に襲われ、立ち上がる気力すら残っていませんでした。

そのまましばらく、放心状態でいると、不意に玄関の扉が開き、中から誰かが現れました。

顔を上げると、そこに立っていたのは、妹の姿がありました。

心配そうな表情でこちらを見ています。

その視線に耐えられず、顔を背けると、そのまま自分の部屋へと駆け込みました。

ドアを閉め、鍵を掛けると、そのままベッドへ倒れ込み、枕に顔を埋めます。

頭の中では、先程の光景が何度も繰り返されていました。

その度に、胸の奥底からドス黒い感情が湧き上がってくるのを感じます。

それと同時に、激しい後悔の念に苛まれることになります。

どうしてあんなことをしてしまったのだろう、もっと違う方法があったのではないか、

そんな風に考えるばかりで、一向に眠れそうにありません。

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