第29話 私と彼女

ただ純粋に遊んでいただけなのに、

どうしてこんな目に遭わなければいけないのかという思いでいっぱいになり、涙が溢れて止まりませんでした。

それからしばらくは放心状態で日々を過ごしていたのですが、

ある日を境に立ち直ることができました。

というのも、亡くなった彼女を生き返らせることができるかもしれないという話を聞いたからなんです。

最初は半信半疑でしたが、藁にも縋る思いでその方法を教えてもらうことにしました。

そして教えてもらった通りにやってみると、なんと成功したんです。

しかも記憶もそのまま残っていましたし、性格も以前のままだったので安心しました。

ちなみに名前は変えずにそのまま使い続けることにしました。

だって、せっかく授かった新しい命を無駄にするなんてできませんからね!

そんなわけで今に至るわけですが、この子には幸せな人生を歩んでもらいたいと思っています。

「ねぇ、あなたの名前は?」

不意に声をかけられて我に返った。

あれ?

ここはどこだろう?

辺りを見回すと、そこには一人の女性が佇んでいた。

年齢は20歳前後といったところだろうか?

髪は長く、顔立ちも整っているため美人と言って差し支えないだろうが、どこか冷たい印象を受ける人だった。

「えっと、あの……その……」

突然のことで頭が混乱してしまい上手く言葉が出てこなかった。

そんな様子を見兼ねてか彼女は優しく微笑みかけてきた。

「大丈夫落ち着いてください、ゆっくりでいいですから」

その一言で少しだけ冷静さを取り戻すことができた私は改めて質問を投げかけることにした。

そうすると彼女は微笑みながら答えてくれたのである。

どうやらここは診療所らしいのだが、何故自分がここにいるのか理解できなかったので聞いてみることにした。

彼女は少し困ったような表情を浮かべながらも丁寧に説明してくれたのである。

なんでも馬車事故に遭ってしまったらしく、その時に頭を打ってしまった影響で

記憶障害を起こしているとのことらしいのだが、いまいちピンとこなかったというのが正直な感想である。

しかし、いつまでも考えていても仕方がないと思いとりあえず納得することにしたのだった。

「わかりました、ではしばらくの間こちらでお世話になることにしますね」

そう答えると、彼女は安堵した様子で笑みを浮かべていた。

その表情を見た瞬間、何故だか心が温かくなったような気がしたのだった。

それからというもの、私は彼女との生活が始まったのだが最初は

戸惑ってばかりであったものの次第に慣れていき今では楽しく過ごせるようになっていたのである。

そんなある日のこと、いつものように診療所まで行くと突然彼女から声をかけられ驚いた表情を

浮かべている彼女の姿があったのである。

一体どうしたというのだろうか?

不思議に思って尋ねると、なんと近々結婚することが決まったというのだ。

相手は彼女の幼馴染であり長年交際していた相手なのだそうだ。

それを知った時はとても嬉しかった反面少し寂しい気持ちにもなったが、

彼女が幸せになれるならそれで良いと思い素直に祝福することにしたのであった。

そして結婚式当日、純白のドレスに身を包んだ彼女がとても美しく見えると

同時に寂しさも感じてしまっていたのだが、それでもなお笑顔で見送ることが

できた自分に少し感動してしまったほどである。

そうして、彼女の旅立ちを見送った私は心の中で何度も感謝の言葉を呟き続けたのであった。

本当にありがとう、 貴女と過ごした日々は私の大切な思い出です、どうかお幸せに!

人は何のために生きているのだろうか?

そんなことばかり考えるようになっていたある日、

いつものように仕事を終え帰宅途中のことだった、目の前に幼い少女が現れたのだ。

その子を見た瞬間、何故か懐かしく感じたと同時に強い既視感に襲われたのだ。

まるで過去に出会ったことがあるかのような錯覚に陥ってしまうほどだったのだが、

すぐに我に返ったことで冷静さを取り戻すことができた。

ほっと胸を撫で下ろしつつ少女を見ると、不思議そうに私の顔を見つめていたので微笑んでみせると、

彼女もまた微笑み返してくれた。

その様子を見て少し安心したものの、まだ不安は拭えずにいたため思い切って話しかけてみることにしたのである。

そうすると少女は驚いたような表情を浮かべた後でこう答えたのである。

「おじさん、誰なの?」

その問いかけに対してどう答えようか迷っているうちに、彼女は続けてこう言った。

「もしかして私のパパ?」

その言葉を聞いて思わず固まってしまった私だったが、

すぐに気を取り直して否定しようとしたところでふと考え込んでしまったのである。

確かにこの子の容姿は私の子供と言われても納得できるほどよく似ていたからだ。

しかしだからといってそれが真実とは限らないし、

そもそも何故こんな場所にいるのかという疑問もあるわけで、

考えれば考えるほど訳が分からなくなってくる始末であった。

そんなことを考えているうちに少女は不安そうな表情を浮かべ始めたため、

とりあえず落ち着かせることにした。

そして、改めて質問を投げかけてみることにしたのである。

まず最初に名前を尋ねると、彼女は笑顔で答えてくれた。

「私はね、みほっていうの!」

その名前を聞いた瞬間、やはり聞き覚えがあるような気がしてならなかったのだが、

いくら考えてみても思い出すことができなかったので、それ以上考えることは止めた。

それよりも今は他に聞くべきことがあると思ったからである。

そこで今度は年齢について尋ねてみると、返ってきた答えは意外なものだった。

なんとまだ3歳だというではないか!

これにはさすがに驚いたものの、同時に納得もしていた。

何故なら彼女の言動や行動が明らかに幼児のそれではなかったからで、

むしろ大人顔負けの聡明さを感じさせるほどだったのだから尚更である。

さらに言えば、彼女の容姿に関しても非常に整っていたことからも分かるように、

将来はかなりの美人になるに違いないと確信していた。

しかし、それと同時に不安もあったため、念のため確認してみることにしたのである。

それは、本当に私の子供なのかということについてだったわけだが、

それに対して彼女ははっきりと答えてくれたのだ。

「うん! そうだよ!」

その一言を聞いた瞬間、思わず涙が出そうになってしまったものの、

ぐっと堪えつつ改めて彼女を見つめると、そこには確かに自分の子供の面影があったように思うのだった。

それからというもの、彼女との生活が始まったわけだが、

最初は戸惑いを隠せなかったものの徐々に慣れていき今では楽しく過ごせるようになっていたのである。

そんなある日のこと、いつものように診療所まで行くと突然彼女がベッドの上で

横になっている姿がありましたので、心配になって駆け寄ってみると、 どうやら体調が悪いようでした。

「あの、大丈夫ですか?」

私が声をかけると彼女は弱々しく微笑んで答えてくれました。

その様子を見た私は、いても立ってもいられず彼女をおんぶすると

家に連れて帰りベッドに寝かせた後で、お医者様に診てもらうことにしました。

幸い軽い貧血だったようで、しばらく安静にしていれば治るだろうと言われホッと胸をなでおろすことができました。

しかし、それでも不安でいっぱいだったので彼女の側にいることにしたのです。

しばらくすると彼女が目を覚ましこちらを向いてくれたので安心することができました。

そうすると、彼女は私にお礼を言ってきたのですが、

それに対して笑顔で応えることができた自分に少しだけ自信を持つことができた気がします。

その後、私たちは一緒に食事をすることにしましたが、

その際の会話の中で彼女について色々と知ることができたのです。

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