第28話 理不尽

そんなことを考えている間に彼女が駆け寄ってきて言います。

「早く遊ぼうよ~!」

その言葉を聞いた瞬間、私の思考は全て吹き飛びました。

それだけ待ち望んでいた言葉だったのですから当然ですよね! ということで早速遊ぶことにしました。

ちなみに今遊んでいるゲームというのはトランプを使った遊びになります。

ルールとしては数字カードを使って相手より先に手札をなくした方が勝ちとなります。

お互いに五枚ずつ配られてスタートしました。

最初のうちは順調に減っていったのですが、中盤あたりになると段々と差が出始めてきたんです。

「やったー!」

彼女が大喜びしている様子を見て私も嬉しくなってきます。

そして、ついに決着の時を迎えました。

結果は彼女の圧勝でした。

私はというと惨敗です。

「えへへ、また私の勝ちだね!」

そう言って嬉しそうに笑う彼女を見ていると

何だか負けた悔しさよりも、むしろ清々しさすら感じてしまいます。

というわけで、今回もまた負けてしまいましたが、とても楽しかったですし良しとしましょう。

そんなやり取りをしながらも時間は過ぎていき、気づけば夕方になっていました。

そろそろ帰らなくてはいけない時間だということに気付くと同時に

寂しさが込み上げてくるのを感じましたけど、こればかりは仕方がないことですし我慢するしかありません。

そう思いながら立ち上がると玄関に向かうことにしました。

そして扉を開ける直前にふと振り返ると彼女がこちらを見つめている姿が目に入りました。

その表情はとても寂しげで今にも泣き出してしまいそうにも見えたのですが、きっと気のせいですよね?

そんなことを考えつつ手を振り返すと彼女も振り返してくれたので嬉しくなりましたが、

それと同時に胸が締め付けられるような痛みを感じたのでした。

家に戻るといつものように夕食を食べお風呂に入った後はすぐに寝てしまいました。

布団に入ってからもなかなか眠ることができず悶々とした時間を過ごしていたのですが、

そんな時にふとある考えが頭をよぎったんです。

もし仮にこのままずっと帰れなかったらどうしよう……そう思うと急に

不安になってしまい涙が止まらなくなってしまいました。

だって、今まで当たり前のように過ごしてきた日常が突然奪われてしまったんですもの、無理もないことですよね?

そう思うと余計に悲しくなってきてしまい涙が止まらなくなってしまいました。

それからしばらくの間泣き続けていましたけど、一向に収まる気配はなくむしろどんどん悪化していく一方でした。

このままでは埒が明かないと思い、気持ちを切り替えようと試みるのですが上手くいきません。

そこで今度は気分転換も兼ねて外に出ることにしました。

家を出ると辺り一面に広がる闇に包まれていて不安感が増していきますが、

それでも頑張って歩き続ける事にしました。

そうしてしばらく歩いたところで小さな明かりが見えてきましたので近づいてみると

そこには一軒家がありましたので、とりあえず中に入ってみる事に致しました。

家の中に入るとそこはリビングになっておりテーブルや椅子などが設置されていましたので、

ひとまずそこに腰掛ける事に致しました。

それから少しすると奥から一人の女性が姿を現し、私に向かって声をかけてきました。

「あら、お客様かしら?」

と言いつつ微笑む姿は美しく見惚れてしまうほどでしたが、

すぐに我に帰ると事情を説明して謝罪する事に致しました。

そうすると彼女は快く受け入れて下さり、さらにはお茶まで出して下さったのです。

本当にありがたい限りです、感謝してもしきれません。

それからしばらく談笑した後、そろそろ帰ろうと思い立ち上がると

突然呼び止められましたので振り返ると、

そこには一冊のアルバムを手に持っている彼女が立っており、それを私に手渡そうとしていたのです。

一体これはどういう事なのかと思っているうちに、さらに驚くような発言をされました。

「実はね、あなたにお願いがあるんだけど聞いてもらえないかな?」

そう言って首を傾げる仕草はとても可愛らしく思わず見惚れてしまったほどですが、

それよりも気になる言葉があったので尋ねてみることにしました。

それは一体どのような内容なのでしょうか?

そう尋ねると彼女はこう答えたんです。

何でも自分の娘を育ててほしいという内容でしたが、正直言って意味がわかりませんよね?

だって初対面の相手にいきなり子供を預けるなんて言われても困りますし普通は断ると思うんですけれど、

どういうわけか断る事ができなかったんです。

何故なんでしょうね?

まあでも引き受けてしまったものは仕方ないのでとりあえず了承することに致しました。

そして早速今日からお世話を始めることに致したのですが、これがなかなか大変でした。

何せ相手はまだ幼い子供ですから言うことを聞きませんし、

すぐにどこかへ行ってしまうものですから探すだけでも一苦労でした。

それでも根気強く接していくうちに段々と懐いてくれるようになりまして、

今ではすっかり仲良しになりましたから良かったですよ本当に。

そんなある日のこと、彼女がこんなことを言い出したのです。

それは、自分がもうすぐいなくなってしまうという事でした。

最初は何を言っているのか理解できなかったのですが、

詳しく話を聞いてみるとどうやら彼女は病気を患っているらしく余命幾ばくも無い状態なんだそうです。

正直言って信じられませんでしたが、彼女の目を見れば本当なのだと理解させられてしまいました。

そこで私は、彼女に何かしてあげられないかと考えましたが何も思いつきません。

そこで思い切って尋ねてみることにしました。

何かして欲しいことはありますか?

そうすると彼女は少し考え込んだ後でこう言いました。

「一緒に遊んで欲しいな……」

それを聞いた私は、喜んで引き受けることにしました。

それからというもの毎日彼女と遊ぶ日々が続きましたが、

それも今日で終わりかと思うと寂しい気持ちになります。

そんなある日のこと、いつものように彼女に会いに行くと

彼女がベッドの上で横になっている姿がありましたので心配になって駆け寄ってみると、

どうやら体調が悪いようでした。

なので急いで診療所に連れて行くことにしましたが、間に合わず亡くなってしまいました。

その瞬間、私は絶望感に襲われました。

それと同時に怒りが込み上げてくるのを感じました。

何故なら彼女は何も悪いことをしていなかったからです。

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