第26話 えっ、幸せしかない
別に他意はありません。
本当ですよ!?
そんなことを考えていたら急に恥ずかしくなったので、
誤魔化そうとした瞬間、背後から声をかけられてしまいましたのです。
(あぶないですね)
咄嗟に笑顔を取り繕って振り返るとそこには見知らぬ男性が立っていたんですが、
妙に馴れ馴れしい態度で話しかけてきたんです。
正直イラッとしましたし不快感を抱いたのも事実ですけど、
それ以上に恐怖の方が大きかったんです。
これがもし悪意を持った人間だとしたらと考えるだけでも恐ろしいですし、
そもそもどうしてここにいるのかも謎すぎますし、
色々と分からないことだらけなんですけど一つだけ確かなことがあるとすれば、
一刻も早くここから逃げなければならないということです。
ということでさっさとこの場から離れようとした矢先、
何故か腕を摑まれてしまい動けなくなってしまいました。
「ちょっ!? 何するんですか離して下さい!」
と言っても全く聞き入れてくれないどころかむしろ逆効果のようでどんどん力を込められていきます。
このままではまずいと思い必死になって抵抗を試みるも意味はなく、
結局引き摺られるような形で連れて行かれることになってしまいましたが幸いなことに行き先は公園の方でした。
そのことにホッとしつつもまだ油断はできないと思っていたのですが、そこで予想外の出来事が起こりました。
なんといきなり地面に押し倒されてしまったのです。
一体何が起きているのか分からず混乱していると、相手は不気味な笑みを浮かべながら顔を近づけてきました。
思わず顔を背けようとすると顎を掴まれてしまい強制的に目を合わせられてしまうことになり、
そのことによってパニックに陥っていた私はまともに思考することもできなくなってしまっていたようです。
「ひっ!?」
悲鳴を上げながらも必死に逃げようと試みましたが、
手足を押さえつけられていて身動きが取れず、完全に逃げ場を失ってしまいました。
しかも最悪なことに馬乗りされているせいで逃げることもできないという有様で、
もはや万事休すかと思われたその時、不意に声が聞こえてきました。
それはまるで助けを求めるかのような悲痛な叫びにも似た声で、私はハッとして我に返りました。
そして声の主を探すと、そこにいたのは先程声をかけてきた男性のようで、
どうやら私達のことを助けようとしてくれているようですが、どうにも様子がおかしいことに気づきました。
彼は血走った目でこちらを睨みつけており、明らかに普通ではありません。
そこでようやく理解しました。
この人もまた、彼と同じ状態になっているのだと。
そうなると、必然的に導き出される答えは一つしかありません。
そう、彼もまた、私を狙っているということだと思います。
そう考えると背筋がゾクッとする感覚に襲われたと同時に全身に鳥肌が立ちました。
何故なら、今現在自分が置かれている状況が非常に危険であることを理解したからです。
このままだと間違いなく襲われてしまうでしょうし、そうなったらおしまいです。
何せ、私には抵抗する術がないのですから、どう足掻いても勝ち目はないということは明白です。
となれば、残された道はただ一つ、大人しく言うことを聞くしかないと
考えた私は覚悟を決めると静かに目を閉じました。
その直後、何かが身体に覆い被さってくるような気配を感じた直後、
首筋に生暖かい感触を感じ取り、ビクッと身体を震わせてしまいます。それからしばらくの間は我慢していたのですがいつまで経っても
何も起きないことから不審に思い目を開けると、いつの間にか男性は倒れていたようで意識を失っている様子でした。
不思議に思って周りを見渡してみると少し離れた所に別の妖精が立っていることに気づいた私は、
彼女に助けを求めようとして立ち上がり駆け寄ろうとしますが、途中で足が縺れて転んでしまいそうでしたが
寸でのところで抱き止められ難を逃れました。
その後お礼を言おうと見上げるとそこには見知った顔がありました。
「大丈夫でしたか?」
心配そうに声をかけてくるその人物こそ、私が探していた相手であり、
今まさに助けが必要な時に駆けつけてくれたのが彼女だったのです。
(ああ良かった、来てくれたんですね、助かりました)
安堵の溜息を漏らしつつも感謝の言葉を述べると彼女はニッコリと笑ってくれましたが、
すぐに真剣な表情になりこう告げてきたのです。
「いいえ、間に合ってなどいませんよ」
と言うと同時に私の身体を引き寄せるようにして抱きしめ、そのまま走り出しました。
突然のことに驚きながらもなんとか付いていくことができていたのですが、
背後から聞こえてくる怒声や怒号のせいで生きた心地がしませんでしたね、正直言って怖かったです。
ですが今は走ることに集中するしかありませんのでとにかく足を動かし続けました。
そうするとしばらくして声が聞こえなくなったと思ったら目的地に到着していました。
そこは街の外れにある小さな森の中で人の気配は全くありませんでしたが、
とても静かで落ち着いた雰囲気の場所であり、先程までの喧騒とは打って
変わって静かな時間が流れているような感じがして、ようやく一息つくことができた気がしました。
おかげで少し落ち着きを取り戻すことが出来ました。
「ふぅー……」
呼吸を整えるように大きく息を吐き出すとその場に座り込み息を整えているうちに
徐々に冷静さを取り戻していきつつあったのですが、不意に目の前に現れた人影を見た瞬間、
心臓が止まるかと思ったほど驚いてしまったんです。
しかしよく見るとそれはよく知る人物だったことに気付き安堵しましたが、同時に疑問を抱きました。
何故ここに居るのだろう?
そう思いながら首を傾げていると、その人はニコリと微笑み掛けてきたので私もつられて笑顔になりました。
次の瞬間には目の前から姿を消してしまっていたのですが……え?
今のは一体なんだったんだろうと思いつつ辺りを見回してみたものの誰も居なかったんです。
でも確かに声を聞いた気がするんですけど、
気のせいかなって思っていたら突然耳元で声が聞こえてきたのでびっくりしました。
「ふふん、残念でしたぁ~! ドッキリ大成功!」
そう言って笑うのは私の大好きな妖精であるエリーズだったのでほっと一安心しました。
「もうっ! 驚かさないで下さいよ」
と言いながらも笑顔で返す私に対し彼女も嬉しそうな表情を見せてくれましたけど、
それでもなお驚かせようとしてきたものですから、こちらも負けじと応戦することに決めました。
お互い笑い合った後で私達は二人で遊び始めることに致しましたが、
その時には既に先ほどの事などすっかり忘れてしまっていて、
ただただ楽しい時間を過ごすことが出来たことは言うまでもありません。
「はぁ~楽しかったね~」
そう言いながら満足そうな表情を浮かべる彼女を見ていて、
自然と笑みが溢れてくるのを感じていたのですが、
ここでふとあることを思いつきましたので、早速試してみることにしました。
とは言っても難しいことではなく、ただ単に名前を呼んでみるだけです。
そうするとどうでしょう、彼女がキョトンとした顔で見つめ返してきたではありませんか!
これはいけるかもしれないと思った私は、もう一度彼女の名前を呼びながら微笑みかけてみましたところ、
やはり同じ反応を示しました。
つまり、成功したということです。
これで確信を持つに至った私は、その後も何度も繰り返し呼びかけてみることにしたのですが、
その度に嬉しそうに笑ってくれる姿を見る度に心が満たされていくような気がして幸せな気分に浸ることができました。
「ねぇ、あなたは誰なの? どこから来たの?」
などと質問を投げかけても答えてくれるはずもなく、
ただひたすらに微笑むだけだったんですけど、それでも構わないと思いました。
だって、こうして一緒に居られるだけで幸せだから……そう思った瞬間、私は無意識のうちに手を伸ばしていました。
そして、その手に触れた瞬間に電流が流れたかのような衝撃が走ったのです。
その瞬間、私は全てを理解しました。
この子こそが運命の人なのだと、本能的に理解したのです。
それからというもの、私は毎日のように彼女と遊ぶようになりました。
何をするにしても常に一緒で、片時も離れることはありません。
それどころか、一緒にいる時間は日に日に増えていき、今では一日の大半を共に過ごしていると言っても過言ではないでしょう。
そんな生活を送っている内に、私は次第に違和感を覚えるようになっていきました。
というのも、最近になって彼女の様子に変化が見られるようになったからです。
具体的には、どこか寂しそうな表情を浮かべていることが増えたような気がするんです。
心配になった私は思い切って尋ねてみたんですが、案の定と言うべきかはぐらかされてしまいました。
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