第16話 妖精さんと共に

「ねぇ、侑那」

私は笑顔で話しかけます。

「どうしたの? エリーズ」

彼女は不思議そうに首を傾げました。

私は思い切って言います。

「一緒に遊ぼうよ」

彼女は満面の笑みを浮かべると、私の手を握って走り出しました。

私も一緒になって走ります。

楽しい時間を過ごしている最中、ふと空を見上げると大きな満月が浮かんでいました。

それを見た私は感動のあまり泣いてしまいました。

そうすると、エリーズが心配そうに声を掛けてきます。

私は慌てて涙を拭い、何でもないフリをしながら誤魔化しましたが、

本当は心の中を見透かされているような気がしました。

でも、あえて聞かないでいてくれる優しさに感謝しつつ、心の中で謝りました。

「そろそろ帰りましょうか」

そう提案した途端、急に寂しくなり、もっと遊びたい気持ちが溢れてきたのです。

そんな気持ちを察してか、彼女が手を引いてくれると不思議と安心感を覚えました。

そして、私は決心したのです。

今日はとことん付き合ってあげようと。

こうして、夜遅くまで遊ぶことになったのです。

そうして次の日になりました。

いつものように起きると既に隣にはエリーズの姿はありませんでした。

恐らく先に起きて準備をしているのでしょうと思い、

急いで身支度を整えてからリビングへ向かうと、案の定朝食の準備をしてくれていました。

今日のメニューはトーストにサラダ、目玉焼き、ベーコン、

ヨーグルトというシンプルなものでしたが、私にとってはとても美味しく感じました。

食べ終わった後は食器を片付けた後、二人で外へ出掛けることにしました。

まずは公園へ向かい、そこでしばらく遊んでいたのですが、

途中で雨が降り始めたため、近くにあったお店に入って時間を潰すことにしました。

そうすると、そこには可愛らしい服やアクセサリーなどが置いてあり、どれもこれも魅力的でした。

中でも一番気になったのが髪飾りです。

星形をした小さな飾りが付いた髪留めを見つけた時、私は思わず手を伸ばしました。

しかし、その時、隣にいるエリーズのことを思い出しました。

私が選んだものを付けて喜んでくれるかな?

そう考えると、買うことを躊躇ってしまったのです。

でも、欲しい気持ちは抑えられず、結局買ってしまいました。

帰り道、エリーズは笑顔で喜んでくれました。

それを見て私も嬉しくなったのです。

家に帰ったら付けてあげる約束をしたので、その日が来るのが待ち遠しいと思いました。

そして、次の日の朝、私はさっそく付けてみることにしました。

鏡の前に立つと、何だか照れ臭くて思わず笑ってしまいます。

そうすると、その様子を見ていたらしいエリーズが近寄ってきて、褒めてくれました。

その言葉を聞いた瞬間、顔が熱くなるのを感じました。

恥ずかしさから逃げるようにその場から離れたのですが、

その後、何度も繰り返し、鏡に映る自分の姿を見ながらニヤけている自分がいることに気付いた時には驚きました。

それと同時に、自分自身に対する嫌悪感に苛まれることになります。

それでも、私は自分を変えることができなかったのです。

それどころか、どんどん悪化していくばかりで、自分でもどうすることもできませんでした。

「おはよう、エリーズ」

そう言って挨拶をする度に、罪悪感で胸が締め付けられるような思いに襲われますが、

同時に幸福感を感じているのも事実でした。

そんな日々を過ごしていくうちに、いつの間にか私は自分の感情に抗えなくなってしまっていたようです。

今となってはどうしようもないことですが、もしあの時、

踏みとどまることができていたのならこんなことにはならなかったのではないかと思うと後悔しかありません。

そんなことを考えていると、段々と気持ちが落ち込んでいくのを感じていました。

しかし、ここで挫けるわけにはいかないと思い直し、気合を入れ直します。

そして、再び歩き始めたところで後ろから声を掛けられたので振り返るとそこには見知らぬ男性が立っていました。

彼はこちらに近付いてくると話しかけてきました。

「こんにちは、可愛いお嬢さん」

「あ、あの……」

いきなりのことで戸惑っていると、さらに続けます。

そうすると今度は別の方から声をかけられました。

そちらを向くと、そこに立っていたのはまた別の男性です。

その人はニッコリと笑っていますが、なぜか不気味さを感じました。

まるで獲物を狙うような視線をこちらに向けてくるので恐怖心を覚えます。

そして次の瞬間、突然襲いかかってきたかと思うと、腕を掴まれてしまいました。

抵抗しようにも力が強くて振り解けません。

そのまま連れて行かれそうになった時、

私は必死になって叫び声を上げようとしましたが、声が出ないのです。

このままではまずいと思い、必死で助けを求めようとしたその時、

誰かが走ってくる足音が聞こえてきました。

見ると、そこにいたのはエリーズでした。

彼女は私の元へ駆け寄ってくると、男達に向かって怒鳴りつけました。

そうすると彼らは怯えた様子で逃げ去って行きました。

その様子を見届けた私はホッと胸を撫で下ろします。

その後、彼女と共に家へ帰ることになりました。

帰宅後、改めてお礼を言うと、彼女は言いました。

「ううん、気にしないでいいよ!

それにしても、どうして狙われてたんだろうね?」

そう尋ねられて返答に困ってしまったのですが、結局答えることができずにいると、

彼女が話題を変えてきたので助かったと思いました。

その後はいつも通り過ごしていましたが、時折彼女の視線を感じることがありました。

その視線にはどこか違和感のようなものがあり、何となく落ち着かない気分になります。

そんな中、ある晩のこと、私は夢の中でエリーズと会っていることを自覚しました。

最初は驚きましたが、夢の中なら何を話しても大丈夫だと思って

色々話しているうちに気分が楽になっていきました。

しかし、それも長くは続かず、徐々に意識が遠のいていき目が覚めると、

現実に戻ってしまいました。

そのことにがっかりしながらもベッドから起き上がると、エリーズが部屋へ入ってきてこう言いました。

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