第10話 皐月侑那⑩
「では、頼んだぞ。もし何かあったら、この住所を訪ねてくれ。必ず力になろう」
とおっしゃって下さいましたので、私は安心して旅立てることができました。
その後は、リゼットさんに連れられてあちこちの工房を巡ることになりました。
最初に訪れたのは、王宮直属の魔法道具専門の職人が集まっている場所です。
そこで、早速仕事を頂きました。
内容は、新型の杖の開発です。
リゼットさん曰く、この国の技術力をアピールするためなのだとか。
そのため、絶対に失敗はできないと言われてしまいました。
もちろん、頑張りますけどね!
続いて向かったのは、魔法の学校です。
ここでは、様々な分野の研究をしているようです。
例えば、薬学や植物学などです。
ちなみに私は薬草について学びました。
この国で有名な学者さんから、講義を受けることができたのです。
また、研究に協力してほしいとも言われたので、快く引き受けることにしました。
ただし、報酬はありませんがね!
そんなこんなで充実した日々を過ごしていたある日のこと、突然連絡が入ったのです。
なんと、国王陛下直々に会いたいと言っているらしいじゃないですか!?
一体どういうことでしょうか?
とりあえず急いで向かうことにしましょう。
(ドキドキするなぁ)
そう思いながら待っていると、扉が開く音がしたので慌てて立ち上がりました。
そして、顔を上げるとそこには見知らぬ方が立っていましたが、
直感的にそれが国王陛下であると確信しました。
なので私は、スカートの裾を軽く持ち上げて一礼します。
そうすると、彼は微笑みながら言いました。
「よく来てくれたね、錬金術師殿。会えて光栄だよ」
そう言って握手を求めてきたので、応じることにしました。
それから、私たちは席に着くと話をすることにしました。
まずは自己紹介を済ませてから、本題に入ります。
私がここに来た理由はただ一つ、スカウトされたからです。
つまり、リゼットさんと同じく宮廷錬金術師にならないか、という話だったのです。
(どうしよう、迷っちゃうな)
正直言って、非常に魅力的な話ですし、受けたい気持ちもありますが、
今はまだ見習いの身ですし、もう少し経験を積んでから判断したいと思っています。
だから、断ろうと思ったのですが、ふと気になったことがあったので尋ねてみることにしました。
それは、どうして私なんかに声をかけたのか? ということです。
だって、おかしいですよね?
こんな無名の錬金術師を選ぶなんてどう考えても変だと思いますし、
もしかしたら騙されているんじゃないかと心配になったんです。
だから、直接聞いてみようと思いました。
「実はですね、王国主催のパーティーの時に妖精達に招待されて行ったんですけど、
そこに貴方がいらしたんですよ」
と説明しました。
そうすると、彼は驚いて目を見開いていましたが、すぐに笑顔になって答えてくれたのです。
(やっぱりそうか)
と思いつつ話を聞いていると、どうも勘違いしている様子だったので訂正してあげました。
「違いますよ、妖精さん達にお願いされて一緒に歌っただけですって!」
と言ったのですが、納得いかない様子で首を傾げています。
困ったなと思っていたら、何かを閃いたようでポンッと手を叩きました。
それからニッコリ微笑むと、こんなことを言ってきたのです。
「じゃあ今度、僕と遊びませんか?」
という言葉に一瞬ドキッとしたけれど、冷静を装ってこう答えました。
勿論OKですよ!
それにせっかくですから今日はこのまま泊っていってくださいと言われて、
お言葉に甘えることにしました。
その後、二人で食事を楽しみ、お風呂に入った後はベッドで眠ることにしました。
そうすると、翌朝目が覚めると隣に誰かいることに気が付きました。
その人は、私を抱きしめるようにして眠っていたのです。
びっくりして飛び起きようとしたところで思い出しました。
そういえば、昨日は王様の家に泊めてもらったんだったということに気が付いたのです。
でも、だからといってこの状況を放っておくわけにはいきませんから、思い切って声をかけることにしました。
「あの、起きて下さい」
そうすると、その方は眠そうな目をこすりながら起き上がりました。
そして、私の方を見るとにっこり微笑んでくれたのです。
その瞬間、胸が高鳴りました。
というのも、目の前にいるお方があまりにも美形だったからだと思います。
私が見惚れていると、彼も気がついたようで同じように見つめ返してきました。
しばらくして我に返ったのか、慌てて顔を背けると、
ベッドから出て行こうとするではありませんか。
それを見て、私も急いで服を着替えることにしました。
それにしても、昨日のドレスはどうやって脱いだんだろう?
全然覚えていません……。
そんなことを思いながら、準備を終えて部屋を出ると、朝食が用意されているのが見えました。
とても美味しそうだったので、早速頂くことにします。
メニューはトーストとベーコンエッグ、サラダ、ヨーグルト、紅茶でした。
どれも美味しくてあっという間に食べ終わってしまいました。
食事を終えると、今度は王様自ら案内してくれました。
まず向かった先は、王宮内にある植物園です。
ここは、その名の通り、色々な植物を栽培しています。
中には珍しい花もあり、興味深く見学していると、彼が声をかけてきました。
「どうだい、凄いだろう?」
と言われ、素直に頷きます。
そうすると、彼は嬉しそうな表情を浮かべました。
そして、更に奥へと進んで行くと、そこには美しい庭園が広がっていました。
まるで童話に出てくるような光景で、思わずため息が出てしまいます。
そんな私に気を遣ったのか、王様が話しかけてきました。
「ここでゆっくりしていくといい」
と言うと、一人でどこかに行ってしまいました。
どうやら忙しいようです。
仕方ないので、私は彼を待つ間、一人散策することにしました。
周りを見回すと、色とりどりの花が咲き乱れていて、
とても綺麗です。見ているだけで心が癒されます。
暫くの間眺めていると、やがて満足したので、王様を探すことにしました。
しかし、どこを探しても見つからないのです。
困り果てていたところ、向こうからやってくる人影を見つけました。
それが誰なのかはすぐにわかりましたが、何か様子がおかしい気がします。
よく見ると、その手には斧のようなものが握られていました。
(え、なんで? まさかそんなはずはないよね)
と思いたいところですが、どう見てもあれは凶器ですよね?
ということはつまり……嫌な予感を覚えた瞬間、
後ろから何者かに襲われてしまい気を失ってしまいました。
(うう、ここはどこなんだろう……?
そうだ、確かあの時背後から襲われて気絶しちゃったんだ……!
あれ、手が動かない!? 拘束されてる? 怖いよ)
「目が覚めたようだな」
という声と共に視界が開けました。
目の前にいたのは、なんと王様でしたのです。
驚きのあまり声も出せずにいると、突然質問されました。
「……さて、もう一度聞こうか。お前は誰だ?」
私は戸惑いながらも正直に答えることにしました。
すると、彼はニヤリと笑って言ったのです。
「……ほう、なるほどな。確かに嘘をついているようには見えないが、
まだわからんこともあるからな……」
そこで一旦言葉を切ると、続けてこう言いました。
その言葉に耳を疑いました。
何故なら、私がエリーズさんを殺した犯人だというのですから……信じられなかったのですが、
その時の状況を説明する彼の態度は真剣そのものでした。
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