第9話 皐月侑那⑨

「それで、どうだろうか?

もし来てくれるのであれば、喜んで歓迎するが」

そう言って、彼女は手を差し出してきた。

私は迷ったけれど、結局参加することに決めた。

断る理由もないし、何よりエリーズが喜んでくれると思ったからだ。

だから、私はリゼットさんの手を取って笑顔で答えた。

「ありがとうございます!

是非参加させてください!」

こうして私の新たな生活が始まったのでした。

それから数日後のこと、私は今王都に来ています。

というのも、今日は待ちに待ったパーティー当日なのですから、

テンションが上がるのは当然のことです。

会場はお城の一室で行われていて、とても広くて豪華な部屋です。

天井には大きなシャンデリアがあってキラキラ輝いていましたし、

床一面にはふかふかな絨毯が敷かれていましたので、歩く度に足が沈んでいくような感じがしました。

テーブルや椅子もとても高級そうで、触ることすら躊躇われます。

そんな豪華な会場に集まっているのは、様々な分野の一流の方々ばかりです。

例えば、有名な冒険者の方だったり、貴族の方だったりと様々ですが、

皆一様に正装をしていて、まるでどこかの国の王子様のような出で立ちでしたから驚きました。

そして、そんな方々に囲まれている私はと言うと、完全に浮いています。

まあ、仕方ありませんけど。

ちなみにエリーズも一緒に来ています。

彼女は妖精さん達と一緒に楽しそうに踊っていましたので、私も負けていられないなと思い、

思い切って話しかけてみることにしました。

「こんばんは、妖精さん達」

私が声をかけると、彼らは一斉にこちらを向きました。

そして、嬉しそうな表情を浮かべると、口々に挨拶を返してくれたのです。

そんな彼らに対して、私は微笑みながら尋ねます。

「エリーズは元気ですか?」

すると、彼らは揃って頷き返してくれました。

どうやら問題ないようで良かったです。

それから暫くの間彼らと会話を楽しんだ後、今度は他の人達とも話す事にしました。

最初は緊張していたのですが、次第に慣れてくると普通に話せるようになりましたし、

皆とても親切で優しい方ばかりでしたので嬉しかったです。

中でも特に印象に残ったのは騎士団長のリゼットさんでした。

彼女は気さくに話しかけてくれて、色々と教えてくれましたし、

何より私のことを気に入ってくれているようでしたから嬉しかったです。

ただ一つだけ気になることがありましたので尋ねてみると、

彼女は少し困ったような表情を浮かべながら答えてくれました。

「実は、今回のパーティーは秘密裏に行われているものでして、

本当は私と団長が出席する予定ではなかったのです。

それなのに急に別件が入ってしまいまして、どうしようか困っていたところ、

貴方の話を伺いました。

それで、何としてでも貴方を連れて来てほしいという騎士団長の頼みもあって、

急遽代役をすることになったというわけなんですよ」

(それってもしかして……)

嫌な予感を覚えつつ、恐る恐る尋ねてみると、案の定当たってしまいました。

彼女は苦笑しながら私に謝罪すると、 続けて理由を話してくれました。

どうやらエリーズが呼んだようでしたが、私には何も知らされていなかったためかなり驚いたそうです。

そして同時に思ったことは、それだけ期待されているということなのだろうということですから

嬉しい半面不安もあると言っていました。

ともあれ、折角の機会ですので楽しまなければ損です。

私は、リゼットさんと共に行動することにしました。

「しかし、私はこのような場にあまり慣れていないものですから、

何か粗相をしてしまうかもしれません。

その時は遠慮なく指摘してくだされば助かります」

とおっしゃるので、私は少し不安でしたが、出来る限り彼女に協力しようと思ったのです。

それから数日間、私達は王城に滞在しました。

その間、毎日色々な方々と接する機会がありましたが、

特に印象に残ったのは錬金術ギルドの重鎮であるロベール博士という方です。

とても博識で話が合いましたから、ついつい長居をしてしまいましたが、

ある日遂に正式に雇われることとなりました。

その時の私の気分と言ったらそれはもう最高でした。

まさか自分が必要とされる日が来るなんて思ってもみませんでしたからね!

その後の事ですが、リゼットさんが帰る時にも一緒に連れて行ってくれることになりました。

その代わり条件として私にスパイ活動をしてほしいということでしたが、断る理由もありませんので快諾しました。

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