第8話 皐月侑那⑧
「分かった、じゃあお願いしてもいいかな?」
そう尋ねると、彼女は満面の笑みで頷き返してくれました。
その薬は栄養素が豊富に含まれているだけでなく、
疲労回復や免疫力アップ等にも効果があるらしいのです。
これならきっと良くなるはずです。
私は期待に胸を膨らませながら待つことにしました。
「できたわよ、どうぞ飲んでみてちょうだい!」
そう言われて差し出された薬を受け取り、早速飲んでみることにしました。
少し苦かったですが、我慢して飲み干すと体がポカポカとしてきましたし、
気分も良くなってきました。
「わぁ、すごいよ! こんなに効果があるんだ」
そう感心したように言いながら、私は喜びのあまりはしゃいでしまいました。
すると、なぜかエリーズの口元が緩んだ気がしたのですが、気のせいでしょうか?
まあいいでしょう。
今の私にとって大切なことはそんな事よりもこの薬の効果の方が重要でしたから、
これでしっかり体力を取り戻す事ができそうですので一安心といったところです。
そんな訳で、私は暫くの間しっかりと休養を取ることに決めました。
「もう大丈夫だから安心してね!」
そう言いながら、私は笑顔を向けて見せます。
それを聞いた妖精さん達も安心したようで、嬉しそうな表情を浮かべていました。
それから数日後、私は完全に回復したことを確認して、
作業を再開しようと考えましたが、その前に体調を整えるために休む事にしました。
というのも、ここ数日間、無理をしすぎたせいで体調が悪化してしまったからです。
ですから、しばらくはゆっくり過ごすことにしましょう。
とはいえ、ずっと休んでいる訳にもいきませんから、
少しずつ体を慣らしていく必要があります。
まずは軽い運動から始めることにします。
歩くことから始めて、徐々に走る距離を伸ばしていく感じでいこうと思います。
最初は辛かったですが、次第に慣れてきましたし、
体が軽くなったような感じがして心地良かったです。
しばらく続けているうちに、だいぶ楽になってきましたので、
そろそろ本格的に鍛えることにしましょうか?
そう思って始めたのはいいのですが、やはりすぐには上手くいきません。
転んでしまったり、足を痛めてしまったりして何度も挫折しそうになりましたが、
その度に頑張って乗り越えていきました。
その結果、段々と自分の体の変化を感じることができるようになりましたし、
成長している実感がありましたから嬉しかったです。
そんなある日のこと、いつものように薬草採取をしていた時のことです。
突然強い風が吹いてきて、私のスカートを捲り上げようとしたのです。
慌てて押さえたおかげでなんとか間に合いましたが、
もし間に合わなかったらと思うとゾッとしました。
しかし、それだけでは終わらなかったのです。
今度は風だけではなく雨まで降り始めたのですからたまりません。
傘も持っていませんから濡れないようにするには木の下に入るしかありません。
それに、風邪を引いてしまっては大変ですし、早くエリーズの元へ帰らないといけないのです。
急いで走り出そうとしたその時、足元にあった石に躓いてしまい、派手に転んでしまいました。
幸い怪我はありませんでしたが、服がびしょ濡れになってしまい、とても気持ち悪いです。
おまけに泥だらけになってしまいましたから、このままでは帰れないので、
仕方なく野宿することにしました。
そして、次の日、何とかエリーズの元に帰り着くことができました。
「お帰りなさい」
と出迎えてくれた彼女に対してお礼を言うと、不思議そうな顔をして尋ねてきました。
なぜ昨日帰ってこなかったのか、ということです。
もちろん、正直に答えるわけにはいかないので適当に誤魔化しておいたのですが、
納得していない様子だったので困りました。
そんなやり取りをしている内に、いつの間にか話題が変わっていましたから助かりましたけど、
これからは気をつけるようにしないといけません。
(まあ、とにかく無事に帰って来れたことだし良しとしよう)
「ところで、昨日の話の続きだけど、結局どういうことなの?」
エリーズが尋ねてきたため、私は簡単に説明してあげることにしました。
そうすると、彼女は納得した様子で頷いてくれました。
その後、二人でお茶を飲みながら休憩していると、急に扉がノックされたのです。
誰だろうと思って扉を開けると、そこには意外な人物が立っていたので驚きました。
その人物とは王国の騎士団長を務めるリゼットさんだったのです。
何かあったのだろうかと思い、話を聞くことにしたのですが、
なんと私をスカウトしに来たと言うではありませんか!
驚きすぎて声も出ませんでしたし、頭が真っ白になりました。
まさか自分がスカウトされるなんて思っていませんでしたから、
夢でも見ているのではないかと思ったほどです。
「実は君にお願いがあって来たんだ」
そう言って、彼女は一枚の封筒を差し出してきました。
中に入っていたのは招待状のようで、開催日時は今週末となっています。
どうやらパーティーのお誘いのようだということは分かりましたが、
何故私なんかを招待するのか理解できません。
困惑していると、リゼットさんは微笑みながら説明してくれました。
なんでも、今回のパーティーには王国内の様々な分野のエリート達が集められているらしく、
その中には有名な冒険者や貴族などもいるらしいのです。
つまり、これは将来有望な人材を探すための催し物であり、
私自身を勧誘するためのものではない、ということらしいのです。
それを聞いて、私は少しだけホッとしました。
ただ、一つだけ気になることがあったので聞いてみることにしました。
その内容というのは、私が呼ばれた理由についてです。
正直言って全く心当たりがありませんし、
どうして私なのか、という理由が知りたかったからです。
そうすると、彼女は真剣な表情で答えてくれたのです。
理由はいくつかあるようだが、一番大きな要因としては、
最近王都で噂になっている錬金術師であることが挙げられるようだ。
何でも、妖精に好かれる不思議な少女がいるという噂を聞きつけ、興味を持ったのだという。
(ああ、なるほどそういうことだったんだ)
私は納得すると同時に、複雑な気持ちになった。
何故なら、それは私ではなく、エリーズのことだったからだ。
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