第6話 皐月侑那⑥
「えっとねー、三つの素材の中で一つしか無い希少なものがあるんだってー」
それを聞いて、侑那は真っ先に思い浮かんだものがあります。
それは、フェニックスの涙です。
フェニックスと言えば、不死鳥の名を持ち、傷や病を癒す力を持つとされているので、
それが薬の材料となるのでしょう。
そうして探すこと数日が経過しました。
やっと材料の一つが見つかったのですが、残りの二つが見つかりません。
時間ばかりが過ぎていき焦りだけが強くなっていきます。
一体どうすればいいのか途方に暮れていると、突然背後から声が聞こえてきましたので振り返ってみると、
そこには見覚えのある顔がありました。
エリーズ達妖精女王様と母親がいましたから、何か知っているかもしれないと思い話しかけてみることにしました。
しかし、残念ながら誰も知らないようです。
どうしたものか悩んでいると、再び誰かが声を掛けてきました。
ですが、何かが違う気がするんです。
まるで別人のように感じてしまいましたが、同じような内容を話すばかりなので、
恐らく同じ妖精女王様なのでしょう。
そう思って話しを続けていると、突然姿が変わってしまいます。
先程の優しい雰囲気とは一変して、厳つい顔つきになると、低い声で話してくるのです。
その姿に思わず後退りしようとしますが、何故か体が動かず逃げ出す事が出来ません。
恐怖心が溢れ出てきますが、何も出来ずにいると、近づいてくるので反射的に目を瞑ってしまいました。
その直後、凄まじい光が私を襲うと同時に不思議な声が聞こえてきました。
(ごめんなさい)
そんな言葉が聞こえた気がしますが、すぐに聞こえなくなってしまいました。
そうして私は意識を手放すことになってしまいますけれども、次に目が覚めた時には全て忘れていて、
何も覚えていませんでした。
本当に夢だったのかと思ってしまいますけれども、心のどこかで、
何かを忘れてしまっている気がしてしまい、スッキリしない気分に陥ってしまうのでした。
果たして私は何を忘れてしまったのか、今となっては分かりませんが、
思い出せなくとも構わないと思っていますから、無理に思い出す必要はないんだと、
自分に言い聞かせつつ、日々を過ごしているのです。
でも、この問題を解決しないと前に進めないと感じていますし、何より誰かに相談したくなる事もあるんです。
どうしましょうか……。
あ、でも今回は聞いてみましょうか。
そんな事を考えていてふと視線を移すと、そこには一匹の猫がいたのですが、
不思議と誰かに似ている様な気がしたんです。
一体誰なんでしょうか?
そう思って見つめる私ですが、当の本人はこたつに入りながらミカンを食べてますし、
何食わぬ顔で遊んでいますけれども、その様子を見ていると、
何故か憎たらしく思えてくるのですから不思議です。
そういえば、先ほど何か喋っていた気がするのですが、一体何だったのでしょうか。
うーん、思い出せません。
(まあ、気にするだけ無駄ですね)
そう思った私は、再び視線を戻すと、今度こそ真剣に考えてみる事にしました。
一体どうすれば良いのでしょうか。
何か良いアイデアはありませんか。
そうすると、こんな考えが思い浮かびましたので、早速試してみましょう。
まず最初に考えたのは、ミカンを使う事です。
「そうだ、ミカンを食べよう!」
そう言って手を挙げて元気よく叫びました。
妖精さん達も興味津々といった様子で、目をキラキラと輝かせながら私を見つめてきました。
その視線を感じた私も、何だか嬉しくなって、すぐに次のアイデアを思い付きましたから、
行動に移すことにしました。
それは、ミカンの皮を利用して薬を作るというものですが、果たして上手く行くのでしょうか?
とにかく試してみなければ分かりませんから!
私は早速行動に移すことにします。
まずは、ミカンの皮を1つずつ千切りながら小さな瓶に詰めていきましたが、
どんな効果があるのかよく分かりません。
まあでも、気にしていたら前に進めませんから、思い切ってやります。
しっかりと瓶の中に詰めると、ラベルを付けていきます。
もちろん効果は書きませんが、見た目が分かりやすくするためです。
ラベルが完成したら完成ですが、なんだか実感がありません。
本当に効果が出るのか不安ですが、信じて待ちましょう。
そして、数時間後、ついに薬が完成しました。
見た目はただの水みたいなものですが、恐らくこれで完成しているはず。
このお水を飲めば、きっと元気になるはずだから頑張って飲んでみようと思います。
「よし、飲むぞ!」
気合いを入れて一気に口に含みました。
まず初めに、冷たさが心地よく感じられ、その後じんわりと温かな感覚が広がってきました。
「あれ、なんか元気が出てきたかも?」
そう感じると、次第に体が軽くなっていくような感じがしました。
これは凄い効果だと思いましたので、早速皆に飲ませてあげる事にしました。
妖精さん達は興味津々といった様子で薬を見つめていましたが、
私が飲むのを見て安心したのか、すぐに飲んでくれましたから一安心です。
でも、まだ油断はできないと思って注意して観察することにしました。
そうすると、皆の表情が少しずつ明るくなり始めましたし、
元気に走り回っている姿を見ていると本当に嬉しくなります。
(良かったです)
心の中で呟くと、自然と笑みが溢れてきました。
この調子でどんどん作っていこうと思います。
それから数日間の間、私達はひたすら薬を作り続けましたが、遂に最後の1つを残すだけになりました。
これでやっと終わりかと思うと気が抜けてしまいそうですけれども、最後まで気を抜く訳にはいきませんから、
最後の1つを作り終えるまでは、気を引き締めて頑張りたいと思います。
そして、遂に完成した薬は、全部で5つありました。
1つは私が飲むために取っておきますが、他の4つはどうしようか迷っています。
(うーん、どうしましょうか)
暫く悩んだ結果、私は妖精さん達に飲ませてみる事にしました。
きっと喜んでくれるはずですし、何より元気になって欲しいですから!
早速準備を始めると、まずは小さなコップに入れて水で薄めていきます。
それを少しずつ口に含んでもらって飲んでもらいましたが、皆美味しそうに飲んでいる姿を見て安心しました。
(これで大丈夫でしょう)
そう思って私も飲み始める事にしたのですが、何故か体が熱くなってきましたので少し不安になりましたけれども、
気にしていても仕方がないと思い直し一気に飲み干すことにします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます