1-7
「久しぶりね。今はタカシ君のところにいるの」
ジーンズにゆったりとしたベージュのカーディガンをはおったユキを、カオルはなかなか見つけることができなかった。
ユキさんは相変わらずきれいだ。ほとんどメイクをしていないのに。気品っていうのかな。ちょっとした仕草でさえ美しい。あたしなんて全然問題外。カオルはそう思った。
ユキさんに会うならと、気合を入れてめかしこんできた自分が滑稽にさえ思えてしまう。
「素敵な服ね」ユキが言う。
「通販なんですけど。今ちょっとハマってて」
「そうなんだ」
「でもユキさんには合わないかな、通販は」
「どうして」ユキがそう言って微笑む。
「それより今日は何か」
「ごめんね、呼び出しちゃって」
「ちょっとカオルちゃんに聞きたいことがあって」
カオルはいつになく緊張している自分に気づく。
「妹がいるんだけど」
「タカシに聞きました。こっちに来ていたって」
「あの子少し前までこっちで働いていたんだけど、今は会社を辞めておじいちゃんのところにいるの」
「海の近くですよね」
「もともとあの子は、両親が亡くなった時、おじいちゃんに引き取られてそこで暮らしていたんだけど」
「それが最近、おじいちゃんの家を出て男の人と同棲しているらしいの」
カオルはユキの視線にどう反応していいかわからないまま、ただうなずいている。
「タカシ君から聞いてない」
「そのことは何も」
「そうなんだ」
「もしかしたらその人、あなたたちの知り合いじゃないかと思って」
「タカシはそう言ったんですか」
「言ってはいないんだけど。その人の名前をタカシ君に言ったときに、何となくなんだけど」
「知っているような気がした」
「そうなの」
「ヒロ君っていう人なんだけど、心当たりない」
「ヒロ君だけじゃちょっと。正確な名前わかりますか」
「民宿やっている叔父さんに聞けばわかると思うけど。電話してみようか」
「そこまでしなくても。多分知らないと思うので」
「そう」
カオルはじっとユキの顔をうかがっている。
ユキは店の人を呼んで紅茶のおかわりをした。カオルもユキにすすめられるままコーヒーをおかわりした。
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