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 ヒロとカスミを乗せた電車が海沿いを走りはじめた。そろそろ乗り換えの駅に着くところ。その駅からローカル線に乗って二人の住む町に向かう。

 夏の時期はリゾート地に向かう客でいっぱいになるローカル線も、この時期は学校に通う学生やお年寄りぐらいしか利用しないので車内はガランとしている。

 週末には少し様子が変わるようだけれど、温泉が目当ての人たちはほとんどが団体客なので電車を利用する人は少ない。

 ヒロの働いているコンビニにもたまに観光バスが止まる。駐車場が広くないので緊急避難的ではあるけれど。

「お姉ちゃんからメールが来てる」

 カスミはスマホを見ながらヒロに言う。

「電話してほしいって何だろう」

「やっぱり会っておけばよかったかな」

「気にしなくていいよ。あたしからちゃんと話すから」

「あっちに行った理由、話すの」

「まあ、適当に。お姉ちゃんはエミねえさんのことほとんど知らないし」

「電車降りたら電話してみる」

 そう言ってカスミは電車を降りる準備をはじめる。ヒロは網棚の荷物を下におろした。

「どうだった」

ヒロはローカル線に乗り込んできたカスミに電話のことをきいてみる。

「留守電になってたから、駅に着いたらまた電話してみるよ」

「でも気になるね」

「気になる」

 カスミは窓の外の景色を見ながら、この電車で学校に通っていた頃のことを思いだしていた。

「ねえヒロ君。ヒロ君も電車通学だった」

「学校がわりと近かったから、歩きか自転車」

「高校も」

「そうだね。僕も都会で育ったわけじゃないから。僕のいたところもこの辺とそんなに変わらないよ」

 ヒロ君のことは知らないことばかりだとカスミは思った。

「何も考えてなかったなあ」

 ヒロがポツリとつぶやいた。

「はじめてこの電車に乗ったとき、どこで降りるかも決めてなかった」

「どうしてあの駅で降りたの」

「電車の中に温泉の話をしている人がいてね。そこに着く前に降りなくちゃって思ったんだ。その時にちょうどあの駅に止まって」

「それで降りたんだ」

「人がたくさんいるところは嫌だったから」

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