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「お姉さんに会っていかなくていいの」

 ヒロはワインを飲みながらカスミに言う。

「仕事そんなに休めないし、もう一日あれば会っていってもいいんだけど」

「ヒロ君も明日の夕方までには戻らなきゃならないんでしょう」

「まあね、エミさんやアキラ君にも負担かけられないし」

「ねえ、カルパッチョとチーズだけじゃお腹空いちゃうんじゃない」

「そうだね、パスタでもたのもうか。それともフィッシュ・アンド・チップス食べに行く」

「近くにあるかな」

「調べてたんじゃないの」

「ヒロ君が調べてくれてると思ってた」そう言ってカスミが笑う。

 ヒロとカスミはワインバーを出て、夜の街を歩いている。ターミナル駅の近くなのに、都会と言うよりもまだ下町の風情の残っている街。

 それだけじゃないのかな。電車は人だけではなく田舎の香りも運んでくるのだろうか。ヒロはそびえ立つビルを見ながらそう思った。そして、腕にかかるカスミの重みを感じている。この重みが気持ちいい。

「やっぱりお姉さんとはちゃんと会っておかないとね」

「お姉ちゃんとは会ってなかった」

「叔父さんの民宿の前であいさつしただけかな」

「そうか、あの時だけなんだ」

 カスミはフライドポテトにケチャップをつけて口の中に入れる。そしてスタウトビールを飲む。ヒロが魚のフライをかじると、衣に染み込んだモルトビネガーの心地よい刺激が口の中に広がった。

「ちゃんと調べてたんだ」

「そんなことないよ。なんとなくこの辺にあったような気がしただけ」

「お姉ちゃんにはまた会いに来ればいいよ」

「そうだね、もう少し調べなきゃならないこともあるし」

 ヒロはグラスに残っていたスタウトビールを一気に飲み干した。

「おかわりする」

「もういいよ。この辺でやめとかないと」

「そうだね。ヒロ君そんなに強くないから」


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