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「もう戻っちゃったの。残念ね」
ユキは少し不機嫌そうな顔で電話を切る。そして気持ちを切り替えるように向かいにすわっているタカシに笑いかける。
「あの子、昨日からカレシとこっちに来ていたみたいなの」
「妹さんですか。たしかカスミちゃん」
「そう、会社を辞めておじいちゃんのところに戻ったんだけど、おじいちゃんの家を出てカレシと同棲しているみたいなの」
「ユキさんはカレシと会ったことあるんですか」
「おじいちゃんのところに帰ったとき、叔父さんのやっている民宿で一度だけ。その時はまだカレシってわけじゃなかったけど。近くのコンビニで働いてる人」
「名まえは」
「ヒロ君とか言ってたかな」
タカシは動揺を悟られないよう平静を装う。やっぱりあの時見かけたのはユキさんだったんだ。
「妹さんもコンビニで働いているんですか」
「近くのホテルに行ってるの。ホテルっていっても清掃の関係だけど。派遣ね」
「そこって有名なリゾートですよね」
「最近ちょっとね。昔は何もない漁師町だったっておじいちゃんが言ってた」
「ユキさんの妹さんがこっちに来てたんだって」
「へえ。タカシ、ユキさんと会ったんだ」
「そういえば昨日、お店にあたしを訪ねてカップルが来たらしいの」
「しばらく待っていたみたいだけど、あたしが行く前に帰っちゃったみたい」
「そのカップル、ケンカしてたらしいの」
「ケンカ」
「そう。女の子のほうがスマホを見ながらイラついてたみたい」
「カレシはそれが気に入らなかったみたいで」
「カレシなの」
「そうみたいだよ。そうじゃなきゃそんなケンカしないでしょ」
「ヒロさんじゃないよね」
タカシはカオルの一言に不意をつかれる。
「ヒロさんだったらそんなことで怒らないし、スマホ見てイラつくような子とはつきあわないでしょ」
「カオルも最近パソコン見ながらイラついてるじゃない」
「それはそうだけど」
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