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「ごめん、マスター」
「カオルちゃん遅かったね」
「また、ネット通販にハマってた」
「そんなところかな」
カオルはコートを脱いで、カウンターの中に入っていく。
カウンターの常連客はミキちゃんが相手をしていた。
「そういえばさっきまでカオルちゃんを待っていた人がいたよ」
常連客の一人がカオルに声をかける。
「誰だろう」
「カップルで来てたみたい」
「あたしも今来たばかりだから」ミキちゃんがカオルに言う。
「さみしかったよ。マスターだけでさ」
「はじめてのお客さん」
「そうだね」マスターが答える。
「女のほうは機嫌悪そうだったな」
「男はもう少し待っていたかったのかも」
「カオルちゃんに会いたかったら、カップルで来ることもないのに」
「そうだね」カオルは少し考え込んでいる。
「ねえ、やっぱりそうだった」
きれいなピンク色をしたロゼを飲みながらカスミはヒロにきいた。
「多分ね。あの時の人だよ」
「マスターはヒロ君のことわかったかな」
「どうだろう」
「なかなかおしゃれな店だよね、ここ」
ホテルの近くにあるワインバー。大通りから一本入った路地にひっそりと佇んでいた。ディキシーランド・ジャズがかかっていた店を出たあと、カスミが見つけたこの店に入った。
二人の前のカウンターにはサーモンのカルパッチョとチーズの盛り合わせが置かれている。
「アイリッシュ・パブに行きたかったんじゃなかったの」
「そうだけど、ここもいいでしょ」
「渋いよね、ジュディ・シルなんて」
「あたしこの感じ好き」
「もう少しギター練習しないとね。コード・ストロークだけじゃ」
「そうだね。がんばる」
「バシュティ・バニアンに似てない」
「そうだね。同じ系列だけど、この人はアメリカの人だから」
「バシュティはイギリスだよね」
「そう。英国人」
ヒロはポケットからジッポーを取り出した。
「タバコはやめたんじゃなかった」
「さっきの店で、これを出せばよかったかなって」
「そうか。ライター貸してあげたんだよね、あの時」
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