03 Love,

「あ」


「え」


 路上。

 ふたりの部屋から、ちょうど等間隔の位置のところで。ばったりと出会う、ふたり。


「あの。ええと」


「夜中だけど。女性がひとりで外出して。なにやってんの?」


「ちょっと、その。書類を提出しに」


 ポストに投函するはずだった書類。ひらひらさせる。


「こんな夜中にか」


「うん。急ぎだから。あなたは?」


「おれ?」


「うん」


「体温調節」


「体温調節?」


「何回測っても37度1分だったから。体温をちょっと下げようと思って」


「だめよ。微熱じゃない。休まないと」


 彼が。ふらっとする。


 抱き留めて、支えた。


「あれ。おかしいな。こんなはずじゃ」


「よいしょ。このまま、部屋まで行くね?」


「でも」


「あなたに。会いたかったの。ほんとは」


「でも。新歓のとき」


「新歓?」


「おれじゃない誰かと。いやごめん。いやなこと思い出させちゃったかも」


「わたし、新歓のとき、何してたと思う?」


「見知らぬ先輩にお持ち帰りされてた」


「うん」


「はあ。だめなやつだな、おれって」


「よかった。まだあなたが、あなたのままでいてくれて」


「どういう意味」


 ゆっくりと、歩く。ふたり。


「わたしをお持ち帰りした先輩、どうなったと思う?」


「きみと、仲良くなった」


「はずれです。わたしをお持ち帰りするのに失敗して、詳細は省きますが現在刑務所です。かなり重たい罪です」


「え」


「そもそも、未成年に酒を呑ませる時点で、いけないのよ」


「君は」


「わたしも。聞きたい。聞かせて。あなたのこと。あなたが、いま。ええと、その。誰かとお付き合い、してるのかな、とか」


「おれか。おれはだめだよ。君がお持ち帰りされたのを見てから。もう、この大学に来た意味がなくなっちゃったと、思ってさ。毎日、必死こいて授業にくらいついてる。勉強まみれで、遊ぶこともできない」


「そっか。よかった」


「よくないよ。よくない」


 彼の身体。ひんやりしている。


「君のからだ。暖かいなあ」


「わたしは、基礎体温高めだから」


「おれ。何やってたんだろう」


「ちゃんと、大学生活してたよ。大丈夫。あなたは、ちゃんと大学生してるよ」


「こんなに。毎日勉強してさ。分不相応な授業受けてさ。夜中に微熱出して、意味なく散歩なんかして、そして君に、肩を担がれてる」


「わたし。ごめんね。大学生活が楽しくて、あなたに、連絡できなかった。あなたが変わってしまうのが。こわかった。こわかったの」


「おれが、変わったことといえば。君に会えなくなったことぐらいだよ」


「そっか」


 午前四時。


 夜の向こう側が、少しずつ、見えてきていた。






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