きみをなぞるの
そいる
きみをなぞるの
わたしからきみに送ることのできる手紙はどれくらい残されているのでしょう。
そう思うと、囁き濡れた写真の口元から、あなたのような子が生まれてくるんじゃないかってね。
わたしはそう信じて、この筆跡をなぞり入れて、毛穴の裏底からうまく立ち起こったりしないものかなあと、いつも、いつも、この血染められたようにふつふつと泣かれているインクの滴る先を眺めているのです。
あなたは、このあとをなぞることすらできるはずよ。もうすぐ。こそばゆいもの。
象る絵も浮かばないほど、押し入れから和製人形みたいに叫びだすくらい、あのころ嬉しそうに短冊に記していたきみから、こわくなったのよ、死んでしまいたいの、と電話が来るの、知っていたの。
「ねえ」
と言われてしまうと、洋服が裂け溶けてしまうくらいに、頬がほつれてしまう、かわいいと思う。
いつからあなたは、こんなおとなになったの、といわれる。
あなたは急にふてくされるの。
ごはんを食べようと、皮袋に綴じられた本を投げ果ててしまったあなたに、ちょっとこまった笑窪をみせてみたの、どうだった。かわいかったな。
裏の暖炉で温まっていてね、なんとかことばを宛ててみるから。布団にくるまって縮んでこわばって、ときに任せて歪んだ額縁を眺めていながらね、きみはつぶやくの。
「天国に連れて行ってほしいな」
って。
それを聴いたわたしは、いまこんなにたくさん、たくさん、公園を歩くちいさな子の頭に爪を立てえ泳ごうとする烏みたいに勝手気ままな筆先を巡らせたのよ。もし、これを読んでいてくれているのなら、あなたにいますぐ会いたいの。わたしのことを知らないなんて、もう言わないでほしいな。
きみをなぞるの そいる @mage_aru
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