第33話 まるで夢のよう
貴方と始めて会ったのは3年前、っていうのはね......実は嘘なの、本当はもっと前から知っていたわ、見ていたのよ。
そして同じ騎士として働いてわかった、淡々と仕事をするあの後ろ姿に、私が困った時に橋渡しをしてくれた時に私は――
『......なんだ、改まって聞きたい事だなんて』
ある日、彼の夢が気になった時があり、聞いてみた事があった。
『将来の夢、はぁ......また変な事を聞くな、お前......』
いつも暗い彼に聞くと珍しく露骨にめんどくさそうな表情をした。
『......ない、何もないな......そもそも、未来なんてものに興味がない』
何もないだなんて、興味がないだなんて、どうしてそんな悲観しているの?
わからない、彼の苦しみが私にはわからない。
『ただ、強いて言えば――』
ただ?
『平穏、平穏な日常が欲しいかもな......平和が欲しい』
平穏、日常......
『......まっ今更いらないな、そんなものはもう諦めたから......そんなことよりもだ、こんな所で油を売っている暇はないぞ、解剖の時間だ、お前には血肉に慣れてもらわないと困る――』
―――
――
―
「――お嬢様――ウレイアお嬢様、御主人様がお呼びです」
「ん?」
召使の呼びかけに起き上がる。
そうか、あれは夢......あんな昔の夢を見るなんて。
「ごめんなさい、今行くわ......」
やはりここは広い、広すぎるのが嫌で屋敷を出て行って帝都近くの部屋を借りた。
本来は自分の部屋で休むべきだ、しかし療養が必要だというお爺様の判断で実家の御屋敷で年末年始を過ごしていた。
「......前ほどは痛みを感じない、少しズキズキするけど......」
右手の傷は既に癒えている、癒えているはずなのだ。
「でも、なんだか落ち着かない......なんだろうこの気持ち」
本調子とはいえず今の今までも休んでいたが流石にこれ以上休んでいては迷惑がかかる。
「そろそろ復帰したいってお爺様にお願いしようかしら」
屋敷のお爺様の書斎室をノックする。
「お爺様、ウレイア来ました」
「入りなさい」
ドアを開ける。
お爺様は眼鏡をかけて本を読んでいたようだがこちらを見ると本を閉じた。
「朝からすまないね」
「いいえ、構いません」
「......お前に良い知らせがあってな」
「良いお知らせ?」
なんだろう、お爺様は微笑みながら言う。
「お前のお見合いが決まった」
「――ッ!」
お見合い――と言う事は私の結婚相手!
「それは誰ですかッ」
「こらこら、落ち着きなさい」
「あ、ごめんなさいお爺様」
でも落ち着けない、だって私の伴侶となる人だもの、この国を私と一緒に改革していく人なのだから!
「少々お前の望んだものとは外れるがな」
「は、はい、お爺様が選んでくれた人でしたらきっと大丈夫です、良い人のはず」
「あぁそれは間違いない、お前を守れて、誠実で、強く、責任感のある者」
「その方はどういった方?」
「お前のよく知る人だ、同じ神聖騎士の――」
「――」
お爺様はその人の名前を言ってくれた――
「お爺様、それは本当!?」
「正式な発表はもう少し先だが、近く見合いを行う予定だ」
嗚呼――夢みたい。
「嬉しい、お爺様、私は嬉しいです」
「あぁ、そう言ってくれるのなら私も良かった......」
お爺様の顔なんて見えないわ、だって夢見ていた事だったから、ずっと――
「見合いの日は近く知らせるからな」
「はいッ」
そのまま部屋を出る、まだ実感が湧かない、でももう決まっている。
お爺様がああ言ったらもう決まっているの、覆せないの。
「はぁッはぁッ!やったぁッ!」
下品だ、なんて言われてしまうかもだけれど靴を脱いで庭へ走って向かい空を見た。
「ありがとう、本当にありがとう、神様、神様、神様――」
感謝、心からの感謝を、人生で感じた事のない至福を感じた、求めたモノが手に入る、それってこんなに嬉しい事だったなんて知らなかった。
右手の痛みも今では心地よさすら感じる。
「どうしようこんな状態で神聖騎士として業務が出来る気がしないッ」
隠し通せない、絶対ににやけてしまうもの、それにはしたない。
「お嬢様ッ」
私の言動に驚いたのかメイドの一人が駆け寄ってくる。
「お嬢様、どうなされましたか!?」
「いえ、気にしないで!とても嬉しい事があったの!とても嬉しい事があるとこうしたくなるのよ、わかるでしょう?」
「はぁ......」
朝の陽射し、木々のざわめき、花々の香り、全てが私を祝福しているみたい、心の底から溢れる万能感、高揚感――
「よいしょッ」
そのまま庭に寝っ転がる。
「今年は良い年になる、間違いないわ」
去年は散々だった、神聖騎士団内での魔女騒ぎ、西部騎士隊による蛮行、違法薬物『救い子』の蔓延、そして――
「......」
右手の傷は傷跡が少し残っている程度、だけど今でも思い出す。
「ふ、ふふふッ!」
自分が襲撃されて医療班に運ばれていくとき、偶然に目が合ったあの瞬間、お互いの心が通じ合った気がした、そして口にするのも憚られるものを感じた――
「はははッ!」
そうなのね、もうすぐ、もうすぐ一緒になれるのよね。
「ガルアン......」
嗚呼――その日が楽しみ、私はきっと世界一の幸せ者になるのよ。
だからガルアン、お願いね。
「私を見てね......ガルアン......」
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