第3章 乱れ

第31話 年の始まり


新年。


神聖アルオン帝国の臣下たちは首都アルルアの蒼の宮殿、皇帝アルジャフ=ルノヴィーチスが住まう宮殿に向かっていた。


大広場には重鎮が集まり、そこには神聖騎士団の代表としてペイアイ=カラクルスもいる。


「今年もよろしく頼むぞ、ペイアイ」

「これは、閣下!」


髭を蓄えた大男の名はゴルコール=ザーザフ、神聖アルオン帝国の元帥であり、神聖騎士団の団長でもある。


「神聖騎士の活躍には私も鼻が高い」

「有り難き事、これも全て現場で働く神聖騎士のおかげです」

「それを指揮するお前のおかげだろうに」


ゴルコールは笑顔でそういった後、真剣な顔をして。


「昨日、多くの兵士が殺された」

「......そのようで、まったく反逆者共め」

「『帝国異議』『救い子』これらが同じ場所に見つかったことも気になるな」

「......閣下それらは繋がっているとお考えで?」

「どうだろうな、『救い子』に依存していただけかもしれない......どちらにしてもこの国に巣くう病魔は思ったより根深いようだ」


ペイアイも最近の帝国の問題には思うところがあり全く新しい知見を求め東部騎士隊の友人ラスカに頼み優秀で智慧のある騎士を派遣するよう求めていた。


「......そういえば聞いただろうか、ハウレン殿の孫娘の件」

「お見合いの話でしょうか?」

「そうだ」

「えぇまだ内密という事でしたが......確定でしょう」


一応は決まっていないという体だったがハウレンがわざわざ情報を流すということはお見合いの結果など関係はなく、もう話は着いているという事だ。


「......ガルアンとウレイアか......」


ペイアイはガルアンという男は聖教会については全く重きを置いていない事はわかっていた、逆にウレイアというのは聖教会、神に重きを置いている。


ハウレンとは違いウレイアは妥協が苦手だ、神聖騎士団内で軋轢を生んだことも一度や二度ではない。

ガルアンとウレイアは仲は良くとも実際のところ正反対だ、だからこの結婚はハウレンが推し進めた事なのだろうことは察していた。


ガルアンにとっては恐らくしんどい事になるだろう、しかしペイアイは考える、ガルアンは世俗派からも教権派からも人気がある、ここで神官の孫娘であるウレイアと婚姻すれば神聖騎士団内の不和を修復できるのではないか?

神聖騎士団を一つにできる象徴的存在にガルアンはなれるのではないかと、それに妻であるウレイアはハウレンの孫娘であるから聖務院も安心できるはず。


「ガルアンには悪いが、神聖騎士団の核となる存在になってもらうしかない」

「そうですね、それしかありますまい――」



――カーン、カーン



鐘が鳴る――


すると臣下たちは沈黙する。



大聖堂の奥中央に階段がある、そこには大扉、その横にある小さな扉から白装束の男が現れる。


「静まれ、静まれ――」




大扉が開く――


――瞬間に臣下たちは立ち上がる。


そこにはやや細見ではあるが、豪華絢爛な服とマント、剣を帯刀しながら堂々と現れる様は貫禄があった。


そんな行進に口を挟む者が現れる――


「汝は何者か――」


これは新年の儀式である、大帝アルバレチカが帝国を建国する際の出来事を簡潔にした軽い劇のようなもの、目の前の男を見上げるように松明を模した物を持っている黒いローブ姿の女が現れる、魔女役だ。


「何故ここに来た」

「我はこの地を平定せんとする者」

「しかし見よ――我らは共にある、共に火を囲い、共に獣を喰らう、汝の求める事は成している――何故に来た」

「否――それは悪魔と共に人身御供をしてのまやかしのもの、我が望むは万民の救済なり」

「傲慢なり――我が火で汝に救いを与えん」


火は救い――松明を持ちながら魔女が近づくと大扉から白装束の者が続々と現れる。


そして突然に松明を模したそれを落とす。


「火が消えた――」


魔女は怖気づく。


近くの白装束の一人が大きな声で言う。


「魔性の輩よ去れ――この者はアルバレチカ=ルノヴィーチス真に悪しきを討ち、この地に真の救済を与える調停者なり――」

「――ぐあッ」


そしてアルバレチカと紹介された男は剣を振り下ろし魔女を殺す......動作を行う、かつては本当に殺していたが今ではやらなくなっていた。


「そして――」


白装束の者達は魔女役を引っ張り、それと交代するように現れたのは神聖アルオン帝国の聖教会を統括する聖務院の神官の一人、ハウレン=リルー。


「この者こそは偉大なるアルバレチカの血を受け続く者――偉大なるアルジャフ=ルノヴィーチス陛下、汝こそ、正に神聖アルオン帝国の守護者にして調停者、神の寵愛を受けし、我らが皇帝陛下なり」


かつて大帝アルバレチカは大男として知られ、歴戦の戦士であった伝わる、故に皇帝に求められているのは力強き王者の風格――


「神の寵愛を受けし者、神聖アルオン帝国の守護者にして調停せし者――我はアルジャフ=ルノヴィーチス、大帝アルバレチカの裔であり、神聖アルオン帝国全権の長にして唯一絶対の君主である――」


「皇帝陛下万歳ッ」


帝国の首相であるスルピン=リオチスカの第一声を合図に他の臣下も続く。


「万歳ッ」「万歳ッ」「万歳ッ」


こうして帝国政府内の新年が始まった。

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