第30話 年の終わり
凍えるような家の中で一人酒を飲む、年末を彩るものはなにもない、何せ金がないからだ。
「......まぁ、毎年こんな感じか」
身体が寒いと心も凍える、そうやって凍えているとより一層悲観的になる。
この世界に生まれてからの事、母さんとの出会い、友人との出会い、そして火事で母さんを亡くした時の事を思い出す。
「......」
母さんがくれたお守り、母さんから渡された大切なもの、これも神聖騎士になると決まった記念に貰ったもの。
「......」
あの日、最後の日、書類を出しに帝都へと向おうとした時、母さんは
『ガルアン、頑張ってね?――チュッ』
あれが最後だった、帝都での色々とあり時間を食われた、その所為だ。
帰ったら、お帰りなさいを期待して帰ったら、そしたら――
「あ、ああ......」
母さんの工房は燃えていた、森は燃えていた。母さんは黒い塊と化していた。
「寒い......寒いなぁ......」
過去を見ないようにしても未来だってロクでもない。
「......寂しい......」
――コンコン
ノック音がする。
「......誰だ?」
ドアを開ける。
「......ガルアン......」
長い三つ編みの栗色の髪、継ぎ接ぎだらけの服を着た少女、ラーチカ=リュントク。
「......」
「久しぶり......」
「そうだな」
「なんだか元気ないね」
「......お前もな......」
また一段と弱弱しくなって、彼女のそういう様を見ていると、欲が生まれ、憐れみ、少しだけ話しを聞いてやろうという気分になった。
「......わざわざ会いに来たんだ、何かあるんだろう?」
「お兄について、なの......」
「......」
「こんなことガルアンにしか頼めないから」
「......まぁ......入れ」
椅子に座ったラーチカはいつにもましてよそよそしい。
「で、どうしたんだ?」
「お兄が捕まった」
「......なんだって?」
「お兄が捕まったのッ『救い子』を密売してたらしいの、摘発の時、偶然にいたらしくてそれで――」
「......馬鹿野郎......」
「ガルアン、お願い神聖騎士でみんなから慕われてる貴方ならどうにかできるんじゃないかって......」
ラーチカは自分の地位でラトフをどうにかしてほしいというわけだ、軽犯罪程度ならどうにか出来たかもしれない、ただ『救い子』関連は無理だ。
あれは皇帝からも目の敵にされているものでそう易々と売人を釈放させる事なんて自分のような騎士にはできない。
「なんで、猶予を与えられてる時に自首しなかったんだよ、あの馬鹿は!?」
「――し、知らない、そんなの」
ラトフの事なんてどうでもいい、ただラーチカは......
「私、お兄の為なら何でも出来るよ?」
お兄、お兄と同じ言葉を繰り返すラーチカの言動に古い仲であるはずの自分が結局どこまでいったって彼らにとって異物でしかないのだと感じてしまう。
「......何でも?」
「ほ、ほんとに......」
「本当かよ――」
「――ひッ!?」
ラーチカはその貧相な胸を両手で隠す素振りをするが、右手を掴んで壁に投げる。
「いっ......」
壁にぶつかりもたれかかるように倒れるラーチカの腕を掴む。
「痛いッ......」
「何が何でもだ、そこまで愛してるお兄がお前の思いに応えた事はあるのか?」
「ガルアン......どうしたの......」
「ないッないだろッ!?お前......親父さんが死んだとき金に困って散々な目に遭わされただろッ......」
そう、奴は昔から好き勝手に生きて来た、親が金持ちだったから、しかしラーチカの父は死んで金に困ったラトフを見かねたのかラーチカは自身の身体を見世物にして金を稼いでいた、当時11歳ほどのラーチカが一人で出来るはずはない、ラトフが協力していた、ラーチカもそれを受け入れていた!
「ラトフはお前に迷惑をかけ続けて、いまだってこんな目に遭ってるッ!」
ラーチカは今はマシになったという、だが家族に迷惑をかけているこの現状だ。
「お願い、ガルアン......」
彼女の右手を右手で掴む、痛みに我慢し恐怖に塗れた瞳を交えながらそれでもと懇願してくる、一体あの男の何が彼女をこうまで突き動かすのだろう、一体どうしてそこまで愛されて、思われているのか、昔からそうだった。
「いったい奴の何が......家族......だから......か?」
知らない、そんなのは知らない、
「クソぉ......クソォッ!」
「ガルアン、痛いッ痛いよッ離して!」
「なんで俺があいつを救わなくちゃいけないッ!?それほどの価値があるのかッ!?」
ラーチカは腕を振り払おうとする。
「もういいからッ私が間違ってたから、折れちゃうからッ!」
ラーチカは腕を離させようと俺の腕を片手で掴んだり、ツメを立てて引っ掻く。
「――ッ」
腕を何度も引っ掻かれその痛みから冷静になり、ラーチカをよく見ると目に涙を浮かべながら自分の右手を引っ掻き続けていた。
「――俺が」
彼女の瞳から零れる涙を見る。
「......」
......そうだ、切ってやろう、冷静になって思い出した。
ラーチカ......お前に俺が今持ってる最大の切り札を切ってやる。
「俺が......ラトフをどうにかしてやる......」
「――ぇ」
そういうとラーチカのさっきまでの恐怖に塗れた表情から一転し少し困惑した表情を見せる。
「で......出来るの?」
「どうにか出来ると思ったから来たんだろ」
「でも......」
出来る、俺は出来る、神官ハウレン=リルーの力があれば。
ウレイアと結婚し、そしてウレイアからも頼んでもらい、ラトフをどうにかしてもらう、これは正当な報酬のはずだ。
まず間違いなくハウレンは受け入れる、なにせこれは聖教会に関連しない事、それに奴は俺に負い目を感じているはず。
「お前が......信じないなら」
「いいえ、お願い」
ラーチカは頷いた。
「そういう嘘、しないの知ってるから」
ラーチカは両手で首に抱き着いて顔を引き寄せる。
「んッ///」
舌が纏わりついて離さない。
寝そべるラーチカの服を脱がしていく。
変わらない、胸は小さく、鎖骨もくっきりと、あばら骨だって見えるほどに痩せた身体。
「......こんな様じゃ、お前の父親は悲しむな」
彼女の父親というのは子供思いで甘い人で、裕福であったから都市部に行っては色々とお土産に買ってきて、自分にもくれた事を思い出す。
胸から腹に――
「ん」
手でなぞって――
「さぁどうしてやろう、ラーチカ?」
顔を近づけてラーチカの顔を見る。
「そんな活き活きして......」
「ははは」
「笑わな――あッ///」
面白い、面白くてしょうがなかった、いま、自分は満たされている。
「も、どうして焦らすのッ」
「わかった、わかった」
「っ――ンァッんッ///」
叫びそうになったラーチカの口を手で塞ぐ。
「っと、あまりうるさくすると不味い」
「んッん~///」
自分の服を脱いで、それをラーチカの口に巻いていく。
「ぇんッ!?」
「仕方ないだろ、このままやるぞ」
「ンッ~ッ!」
「ダメだッ、お前はしてる時うるさいだろッ!」
ラーチカは顔を真っ赤にし涙目の抗議を示す、苦しかろうがこっちにも世間体というものがある。
「はぁはぁ!大丈夫すぐ終わらせてやるッ!」
「んッンッ///」
自らの欲をラーチカにぶつける度に彼女から甘い声が漏れだしてくる、息をするのに精いっぱいな彼女は顔を赤くしているが気にしない、それに、いまのラーチカというのは中々に――
「――ラーチカッ!」
――可愛らしいところがあった。
■
自分は金がない事を言い訳にした食の不摂生が祟ったのか、体力が尽き、そのままラーチカの上にゆっくりと倒れこんで、ラーチカの横に顔を落とす。
彼女の細見な身体の上で倒れるのは悪いとは思ったがラーチカは気にしていないようだった。
「......ガルアン、苦しかったんだけど......?」
口縄にしていた服を取ったラーチカはそういって自分を見る。
「悪い」
ラーチカの身体は暖かい、身も心も解される。
「......そういう悪い人には――」
急に口を口で塞いでくる。
「んッ――」
舌を入れて、絡めて――
「次は......」
そしてラーチカは今度はこっちを押し倒して、自分の上半身にまたがってくる。
「......ま、待て俺は最近、まともに食事を取れてなくて体力が――」
両手で首から耳にと、伝いながら触って――
「こら、逃げないの......」
頬を両手で挟んで顔を固定させてくる。
「大丈夫、すぐ終わらせてやるってね?」
「お前ッッンッ!?」
またキスをしてくる。
「どうしても?」
「ダメだ、そもそもお前は頼んでる側だろ、なんで逆転してる」
「いちいち言わないでよ......少しだけ......ね?」
「......はぁ......わかった、少しだけ」
ラーチカは喜ぶ、力づくでも拒否は出来た、ただこの時、自分は人肌が恋しかった。
「ガルアン」
ラーチカは抱き着いて来る、暖かい、心音が心地いい。
「昔、こうした事あったね?」
「......そうだな」
母さんを亡くし簡素な葬式を済ました後、一人で家に居たときラーチカが見舞いに来てくれた事がある、その時自分は精神的におかしかった。
「......12歳の子にすることじゃなかったよね?」
「......少しだけだろ」
「へぇ?本当にィ?」
「......あれは、俺も悪いとは思って......ただ、あの時は俺も母さんを亡くしてちょっと正気じゃなくてだな......だから金目の物は色々とお前に渡したのに......ラトフが......」
ラーチカは顔を近づけて来る。
「ふーん」
「......ッ、おいやるんだろ早くしろって」
「もう少し話したいのに、しょうがない.......わかったでも続きはベッドでしたいなァ?」
「お前......偉そうだな」
「お願い、ガルアン」
ラーチカは頼んでくる、彼女からの頼み事はやっぱり苦手だ。
「調子に乗りやがって......立場を考えるんだな、俺がお兄の......ラトフの未来を握ってるという事を――」
「ふふふッ」
「笑うな」
頭を軽く叩く。
「痛いッ」
ラーチカは文句を言いながらもベッドまで移動した。
ラーチカと一夜を過ごす......去年では考えられない事だった。
自身の来年は最悪な年になるだろうと容易に想像がついた、だからこの年末を人と過ごせるというのは救いだったのかもしれない、あぁそうだともこんな自由な時間、結婚してしまえば失われる、だから噛み締める、そして、柄にもなく祈ってしまう。
どうか来年が良い年になりますように――
第2章 衝突 終
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