第26話 求めているもの

祭りは終わりそろそろ年末年始の準備をし始める頃。


ペイアイは神聖騎士団では忘年会のような行事が行われ日頃の労いとして酒が出された。



ペイアイのいつもの長い挨拶――

「今年は色々とあり皆も苦労しただろう、ウレイアの心配もあるだろう......しかし我らに休みはない、平穏と日常を守るのが神聖騎士の役目であり――」

それを気にせずに各々が酒の味を噛み締めながら楽しむ。


ここにウレイアはいない、というのもウレイアの体調がすぐれないようで今年いっぱいは休むらしい。

結婚に関してもハウレンにはとりあえず来年には答えるという旨を伝えた。自分に出来るのは時間稼ぎをしてこの自由を謳歌するくらいだ。


「こんなのだってウレイアがいたら」


『神聖騎士として清貧を――』とか抜かして場の和を乱した事だろう。

幸いここには宴会を拒まないものしかいない、拒むものは既に帰っている。


「ガルアンさぁん」


アイロスの随分と腑抜けた声が響き、すり寄ってくる。


「な、なんだ.......」

「ガルアンさん、なんだか暗いですねぇ」

「お前、なんか変だ......ん?」


酒の匂いがする。


「おい、どこのどいつだよ、アイロスに酒を飲ませた奴」


アイロスは酒を飲んでしまったのだろう顔が少し赤く染めていた。


「さぁ?」


「っち、何処か休める場所にアイロスを連れて行く」


アイロスはフラフラとしていて危なっかしい。

一応はかつての召使いだ。


「来い」

「えぇ?」

「いいから、来い」

「うぁ!」


渋々とアイロスの手を掴みながら石造りの暗い廊下を進んでいく。


世間体というのもあるため忘年会を開いている場所は神聖騎士団内にいくつかある

多目的室の中でも最奥の場所。

そのため休める場所といっても少し遠くまで運ばなければならない。


「ん、ん?ガルアンさん?」

「......もうすぐ休憩室だ、そこで休んでろ」


休憩室は質素なベッドがいくつかあるだけ、ないよりはまし程度のものだ。


「あ、ありがとうございます......」

「......アイロス」

「はいぃ?」

「あの日、お前を襲った時、どう思った」

「......」

「俺に幻滅したか?」


アイロスが酔っていることを好機だと思った。


「......」

「お前は俺をどう思ってる、俺は良い人か?」


気になった、ハウレンから語られた称賛が俺に値するのか、俺という人間は良い人か、悪人か。


「......良い人......な訳ないでしょう......」


眠そうにサファイア色の目を細めながらもこちらを見る。


「......」


アイロス、お前は俺から離れてから順風満帆といった感じなんだろう?別にいじめとか差別もされてない、毎日楽しいって感じか?


「――『救い子』の摘発でも大手柄だったそうだな?」

「それは――んッ?」


アイロスの服の下から腹を触る、やはり普段から鍛えているからか筋肉質でこの童顔で中性的な顔つきからは感じさせない逞しい身体。


「な、なにを......やめ、人が来たら......」

「来ないさ、忘年会なんて久しぶりで俺たちの事なんて気にはしない」

「い、いや」

「カウヤとはどうだ、同じエルフだろ?」


アイロスは口ではやめてとか言うものの抵抗はしない。


「か、カウヤとは時折、話しています......んッ」

「そういえば父親は遺体として見つかったはず......」


西部騎士隊の数少ない生き残りであったカウヤの父親はアルルア近辺で遺体として見つかっている、身包みを剥されていたことから野盗か何かに襲われたのだと見ている。


「残念だよな、本当に」

「なんでこんな事しながらそんなこと聞いてぁッ――」


今度は服の上から胸に触る。


「やめッ――あ、あん///」

「喘ぐな、カウヤが悲しむだろ」

「あ、あ、アッだってッ///」

「声も抑えろ、人が通ったらばれるぞ?」


そうだアイロス、それで良い。


「やめ、てッ、そんなところを――んッ!」


アイロスは涙を流しながら口元を抑える。


「ッ、ッ――」

「あぁその顔ッアイロスッ......」


なぁアイロス、俺と同じところまで来てくれよ、サートナもラトフも俺の事は知らない、理解しやしない。

あいつらはどっかで楽しくやってるんだ、俺が最悪な決断を求められている間にだって。


「はぁはぁ......」


アイロスの長い耳にも目が向いて好奇心から噛みつく。


「アッ――」


アイロスはいきなりの衝撃で少し痙攣すると、そのまま横になる――


「はぁはぁ......」

「アイロス、前みたいに」

「......もう、ガルアンさん......ん///」

「はぁはぁ......」


ただ一方的な行為が終わる。

するとどうだろうさっきまでの気分は晴れてまるで憑き物が落ちたようだ。


「うあぁ、べとべと......」

「――」


廊下から人の話し声が聞こえて来る。

行為に集中していて気が付かなかった。


「早く寝ろッ」

「え、だって僕まだ――」

「いいからッ――」


汚れたアイロスに布団をかぶせて、すぐに休憩室のドアから出ようとするが少し遅くドアが開く、そこからは酔っぱらった神聖騎士たちがのぞき込む。

薄い茶髪の男のイワン、そして黒髪おさげの眼鏡の女エリーナだ。

エリーナに肩を貸しながらイワンが歩いて来た。


「ほう、ガルアンではないですか」

「あれれ~ガルアンさん?」


エリーナは目の視点が合っていない。


「あ、アイロスを見ていて、そっちは......言うのは野暮か」

「ははは、そうです、アイロスを見ていたというのは?」

「どこかの馬鹿がアイロスに酒を飲ましてな、介抱してたところだ」

「あぁ......そうでしたか」


イワンは顎を人差し指と親指で触りながら考える様子を見せる。


「となると他の所が良いですかね?」

「まぁ、そうだな」

「でもここ以外の休憩室は結構遠いですから、どうしましょうか、ずっと戻らないと皆も心配してしまうでしょう」

「実は近くにもう一つベットのついた秘密の部屋がある、お前らみたいな奴が代々使ってきた秘密基地だ」

「――それは、ありがたい!」


俺はイワンとエリーナにその秘密基地の場所まで案内してあげた。





アイロスの頭はいまだ酒に酔っているのかぼんやりとしていた。


「......きっと、もう忘れてる」


一人、悶々とした思いで横になるアイロス、ガルアンによる行為は彼のみを満足させるにとどまりアイロスを満足させることは出来ていなかった。


「あぁ、もうガルアンさんなんて嫌いなのに......」


嫌いというより苦手なのだ、自分を襲うような奴だ良い人とはやはり思えない、しかし悪人だとも何故か思えない。

アイロスにとってもガルアンというのはわかりづらい人で、暴力的かと思えば優しくなる、放任的かと思えば干渉的になる。


「あんな風に懇願されちゃうと......」


求めている時のあの顔はまるで親に懇願する子だった、故郷の友達が同じように母親に物をせがむ時に見せていたあの上目遣いの顔、こっちを見下ろしているにもかかわらずにあの顔を感じた。


「.......」


アイロスは結局、一人でこの悶々とした気分をどうにかした。

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