第22話 ある騎士と■■の邂逅
10年前、母が死んですぐの頃、少しだけマリアと話した。
不思議な事だが、なんでも自分が気になったからだと。
「ガルアン=マサリーというのですね」
「気になりますわ、お外は、都市の外はどのような所なのです?本では読んでいても何もわかりませんわ」
「どうしてそんなに暗いので?」
その時の彼女というのは知的好奇心ある、少女、世間の事なんて何も知らない。
金色の髪、サファイアの瞳を躊躇なく近づけようとするものだから、こっちが触れないように気を付けていた。
「......どうかしましたか?」
母さんそっくりな瞳。
マリアの目を抉り出してやろうと考えていた。正気ではなかった、間違いなく。
「お嬢様、そろそろ」
マリアは残念そうにして自分は退出していく、これでマリアと話す機会は護衛となるまでなかった。
その時マリアは7歳、自分は15の頃だった。
次は3年後だ。
その頃、黙々と悪魔狩り魔女狩りをしていた、ハッキリ言えば考えるという事を捨てていた。
生きる活力は湧かない、母の事は誰にも言わなかったから、なぜそんなに暗いのかと同期のサートナは心配していた、ただハッキリ言って家族が健在な奴に心配される事こそが屈辱的だった。
「......私、ですか」
マリア=シーゼルが自分を守護騎士に命じた、話す機会は過去に一度だけ、後は式典で顔を見ただけだ。
ハッキリ言って他の実績ある優秀な騎士が良い、例えばルーレンはどうだろう、そう提案したが却下され、渋々をそれを受諾した。
「お久し振りです、ガルアンさん」
マリアは10歳、そのはずなのに大人顔負けの美貌を有していた。
彼女は白いドレスを着て椅子に座っており
「こちらへ」
「......はい」
青い瞳、綺麗な瞳、もういないあの人。
命令の通りに近づき片膝をつく。
近づくと香りがした、太陽ののような日の匂いと甘い花の匂い香り、あの人と同じ香り。
「なんで」
「?」
どうしてマリアから母さんと同じ香りが。
「......――どうかしましたか」
「い、いえ......何でもありません......」
マリアは静かに笑う、あの人とは真逆なはずなのに、どこかで感じている母の影。
「これから、よろしくお願いしますね?」
それから、マリアとの関係が始まった。
時々同じ夢を見る、それは過去のあの日の事だ――
「......ガルアンさんほら笑って、運が逃げてしまいますわ」
そして、容易に仲良くなった、主従関係で仲良くなるというのも違和感があったが彼女にいつの間にか心を許す様になっていた。
母に似ていたから?それはわからない、ただマリアに良いように扱われているのは格別な幸福を得る事が出来た。
彼女は自らの美貌に自覚がある、という事はなんとなくわかっていた、俺に対して変な事をする所為でマリアの兄ディリクに怒られた事もあった。
マリアは花畑を見たいと言い、ガルアンは渋々と近くの花畑まで行った、人はいない、たった二人だけの空間だった。
「ふぅ」
「マリア、そうやって素足を晒したら、また怒られる」
「フフフッ」
「何笑ってる?」
「ですけど、ガルアンさん、わたくし知ってますのよ?」
意味が分からなかった、マリアはいやらしくこちらを見てきた、「何を?」と聞こうとしたが、言う前に答えてくれた。
「ガルアンさんはわたくしの足をよく見ている事をです」
「何を言っているんだ、それはシーゼル伯爵のご令嬢として――」
「性的な目で見てますわよね?足とか、身体とか」
「ッ――」
それは本当だったから、美しく白い肌、綺麗な足。
「あ――」
雑音が混じりに思い出す、
性的に見ていたずっと、もうないはずのモノの幻影が目のまえにあったから、だが......
「冗談は――」
反論しようとマリアの目を見る、見慣れた青い瞳は――
今は全てを見透かされているように感じた。
「フフフッ」
マリアは蠱惑的に笑みを浮かべガルアンの顔に近づける。
「マリア、一体......」
「ほら、キス......しましょう?」
その時マリアは10歳、ガルアンは18歳だった。
「んん~ッ」
官能的にキスをする、唇の中に舌を入れられる。
「ふふふ、かわいい......」
「やめろ、やめてくれ......」
「そうですわ、そうですわね、バレたら、あなたはきっと聖騎士ではいられない、でも安心してください、私は貴方を庇いますわ、それに......」
「今ここで死んでもいいほどの思い、味あわせてあげます」
耳元で呟かれる。
「さぁ受け入れてください、私の初恋の人」
「――」
「好きです、好きですよ?――ガルアン――」
頭がクラクラと揺らされる、心から溢れる歓喜は何物にも例えがたい、
「ま、マリア――」
「ふふふ......」
いけないとはわかっていも、俺は歓喜した。
なのに。
嘘つきだ、お前は嘘つきだよ、どうして俺を解任した?サートナを選んだ。
どうしてお前は俺にあんな仕打ちをしたのに優しく接する、どうしてお前は今も俺の心にとどまり続けている。
今だって同じ光景を繰り返して見せる、あの日を、あの出来事を――
「だけれど、それは幸せな事ですわ――んぅ」
舌を絡めたキスをする、ミミズのように絡みつき、今まで考えていた思考が放棄される。
「ガルアン......」
響くマリアの声、同時に
「スカートの中、気にはなりませんか――」
お前からの甘言に俺は抗えなくて――
「さぁどうぞガルアン、お好きに弄って?」
あゝ、その荒波に溺れたかった。
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