第23話 夢から悪夢、もしくは
「マリア......」
今は亡き
「フフフ......」
「どうして、俺を一人にした、なぜお前は!お前は......」
「可愛い人、屈強な騎士さまがこんな御姿で......こんなの他の人には見せられませんわ......」
あまりにもみっともない姿だった、年下の少女に求めて胸に顔を近づける。
「ん///」
出来るだけ目立たないように、人が来ても誤魔化せるように白いワンピースの上から胸を触り、顔を近づける。
「も、もう本当にお胸お好きなのね、いつも見てたものね......でも――」
「あ――」
そんな事言って、そしてそれをあざ笑うかのように振り払い、人差し指を掴んで。
「ん///」
「――」
彼女は自分の人差し指を舌でしゃぶり始める。
「な、何をし――がッ!?」
次は彼女自身の人差し指をこっちの口に突っ込んでくる。
「じゅる」
「んッ、な――」
お互いが指をなめ合うなんて正気ではなかった、本当におかしい状態であったけれど、それが不思議と高揚感を高めていた。
マリアはうっとりとしながら舌を絡め指をグルグルと回して口内を弄り回す。
「ッ!」
彼女はいきなり指を噛みつき始める、こっちも同じようにすると彼女は一瞬だけ驚いて
「ふふふ」
恍惚な笑みを浮かべる。
彼女は決して主導権を俺に握らせようとはしなかったけどそれで良かった、良かったからこそ俺は護衛を辞めさせられたんだ、彼女はきっとそういう人種だったんだ。
それに気づくのが遅かったんだ。
―――
――
―
「......」
目を覚まさすと薄暗いジメジメとした室内だった。
「あぁ夢......」
そうか不審者を追っていたが捕まえられず体調を崩して、少し休ませてもらったのだった。
「あら、起きたのね?」
ウレイアは丁度様子を見に来たようだ。
「そろそろ起こそうと思っていたの」
悪夢、まるで悪夢だ、今日はシーゼル家の家族も参列する。
つまりはマリアが来るのだ、そんな日にあんな夢を見るだなんて。
「不審者は捕まったのか?」
ウレイアは首を横に振る。
「......わかった」
「え、もう行くの?」
「俺だけが休んでいるわけにはいかない」
ウレイアが心配してくるが余計なお世話だ、そのまま出ていく。
□
アルバレチカ大聖堂に集まっていく近衛兵や神聖騎士。
色とりどりのステンドグラスは晴れた日にはさぞ美しいのだろうが、生憎と今日は曇りである。
「体調は大丈夫なのかね?」
「大丈夫です、それよりも不審者を逃した事を......」
「ああそうだな、今後の活躍で帳消しにしてもらおう」
ペイアイは静かに笑う。
「......わかっていると思うが我らの使命は皇帝陛下を何が何でも守る事、命を懸けてでもだ」
「心得ております」
「公爵家の方々の後に陛下が参られる、頼んだぞ」
「はい」
「ふ......時間はまだある、そう硬くなるな」
ペイアイはそういって大聖堂から出て行った。
アルバレチカ大聖堂で貴族の参列する座席の警護を任せられていたがまだ来る気配はなく、リラックスしていた。
「......」
「ガルアン、失態をおかしたようですね、不審者を盗り逃したとか?」
「ん、あぁお前は」
「ダメではないですか、神聖騎士がそのような失態を」
話しかけて来たのはディリク=シーゼルだった、金色の髪にサファイアの瞳、中性的な顔立ち、女騎士間でもユンフと争う人気者。
......ハウレンの護衛をしているはずだったが。
「今は儀式の正装に着替えています、私も他の騎士と同様に警備しろとね」
ディリクの悪い噂は聞かない、しかし彼が教権派であることはわかっている、基本的にハウレンと共に行動を共にしており政策決定にも口を挟んでいると噂があるし、何より彼はシーゼル家の長男でいつかは当主になる男だ、その影響力が大きい。
ディリクはマリアとは性格が違う、彼女は信仰など実際はしていないと思っているのだが、ディリクはかなり信心深い人物だからハウレンにも気に入られている。
そしてディリクのような人物の方が普通である、この世界では。
そしてディリクは何より自分を嫌っている。
「......はぁ......」
昔はかなり悩まされたが今ではどうとも思わなかった。
「ディリク何か用があるなら早く話すんだ、わざわざ絡んできたのだから何かあるんだろ」
「......ハウレン様がお呼びです」
「......なに?」
ハウレン=リルー、ウレイアの祖父にして聖務院の神官、教権派の重鎮の一人。
「なぜハウレン様が?」
「知りません、とにかく急いだ方が良いのでは?」
確かに時間的余裕はもうない。
「......わかった、行こう」
□
ハウレンが待っているという部屋まで来るとわざわざハウレン自らがこちらにやってきた。
「わざわざありがとう、お忙しいところを」
なぜ自分を呼んだのか、軽く挨拶をして本題を語る。
「まずは常日頃の献身に称賛を」
「ハウレン様にそう言われるとは有り難きことです」
「ガルアン殿の悪い噂は聞かない、正に神聖騎士団の誉であるし将来にわたりその誉は途切れる事はないだろう」
ハウレンは続ける。
「帝都アルルアに来て10年か、その研鑽、奉仕、無欲、その努力に報酬を与えたいと考えている」
こっちを見てニヤリと笑う。
「私の孫娘、ウレイアとどうだろう?」
どうだろう、その言葉を聞いた瞬間に恐ろしい予想をしてしまう。
「どういう意味で......」
「ガルアン=マサリーよ、ウレイアとお見合いをしてみないかね?」
「ぇ......あ、有り難き事、しかし私は......」
「......嫌かね?」
それは、本当に恐れていた事だった。
「まさか、光栄極まる」
「聞いた限り、ウレイアとは仲良くやっているそうではないか」
「しかし私とは不釣り合い、ウレイアは私のようなものよりもっと高貴な方と結ばれた方が幸せかと」
ウレイアが話していた結婚相手に沿うように誘導してみるものの
「いいや、あいつに上流階級は無理だ」
「そのような......ウレイアが悲しみます......」
「......ガルアンよ、わかるだろう?」
ハウレンとウレイアは同じ教権派だが違いがあるとすれば、ハウレンは我慢が出来る、自分と相容れない考えを持つ者に対しても表向きは感情的にならない。
その点、ウレイアは......我慢が出来ない、未熟、聖務院直属の大神官の孫娘であるという立場への自覚のなさ。
そう考えるとウレイアが憐れに思えた、語っていた彼女の理想は既に叶わぬものになっていた、信じていた祖父に否定され失望されていたのだ。
「この話ウレイアには?」
「まだだ」
「......後日決断するというのは」
「構わない、ゆっくり考えなさい」
「ありがとうございます」
そういってハウレンから離れる。
ウレイアとの結婚なんて考えた事がなかった、いいやそもそもウレイアと結婚生活して上手くいく気がしないのだ、ウレイアと上手くいっているのは見せかけだ、自分が適当にあしらっているのだから、本来の自分とウレイアとでは相性が絶望的に悪いだろう。
「......クソ......」
この祭りが終わるまでには考えをまとめておかなければならない。
断るにしてもハウレンは聖務院直属の神官でありリスクが伴う。
「......悪夢だ」
どうすればいいのか、全く思いつかなかった。
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