第15話 あるダークエルフの出会い
「リンア様、これからお世話になります」
アイロス=メルアは東部都市スクト近くにあるカフゥム山脈の森に同族とひっそり暮らしていた、しかし、ある日魔物の大量発生によって地元の自警団では対処できなくなり東部騎士隊に救援を要請、そして神聖騎士団も援軍として合流して討伐作戦が実行された。そこで神聖騎士団のリンア=ローセスと出会ったのだ。
もとよりアイロスはいつかは騎士になりたいと思っていた。シンプルにカッコいいと思っていた事、そして経済的な理由だ。というのも、将来を考えて、この山で一生を過ごすのは無理だと踏んでいた、昔は強く、国を持っていたと同族は自慢げに語るのだが、過去の威光は虚しいだけだった。
騎士になれば食いっぱぐれる事はない、仲間からはそう聞いていたのだ。
リンアの戦闘能力に憧れたアイロスは討伐作戦が終わるとすぐにリンアに剣の指導を求めた。アイロスの幼いながらも魔物と戦えたその力量を買って召使兼騎士見習いとして雇われる事となる。
リンアの元で指導を受けていたのは1年ほどの間、剣の稽古をずっとリンアはずっと指南していた。それほどに気に入られていたのだ、アイロスは。
ある日客人として一人の男がやってきた、その男は陰気で、危うさを感じて、怖い人とさえ思った、しかしながら、リンアは笑顔で出迎えて
「彼が私が今指導している、アイロス=メルア君よ?」
「ガルアン=マサリー、よろしく」
その男、ガルアンというのはアイロスからしてみれば、危うい人である、陰気で熱意を感じない。ただし腕が立つとの事で、一度だけ試合をしたこともあったが、勝負にならなかった。
「貴方から見てアイロス君はどう?」
「11でしたか......それでこの腕ならすぐに神聖騎士団になれるでしょうね」
「やっぱり、私の目に狂いはなかった」
それに、顔を頻繁に見ていた事も気になった「昔の知り合いに似ていたから」と答えられたけれど、そういう目つきではなかった、不思議とリンアから感じられる目つきと似ている時もあって不思議さを感じていた。
「アイロスはどうしてリンアの元で剣の指南を?」
「?」
「あぁ、そうだな......」
「どうして神聖騎士を選んだのか、そう聞きたいのよ、ガルアン君は、ね?」
「はい......そうです......」
ガルアンは困りながらそう問うてきた、返答に困りリンアを模倣して「僕は騎士として困っている人を助けたい、救いたいのです......リンア様と同じですね......」そう少し恥ずかしげに答えるとリンアは見るからに喜んだが、対照的にガルアンからは嘲笑を感じた。
「アイロスが将来どうなっているのか、気になりますね」
「えぇガルアン君、貴方もそう思う?」
「......」
その日の夜、リンアにガルアンについて質問をした。
「ガルアン君の雰囲気が怖かった?」
「......失礼ですが......」
「そう......暗いのは、そうかも。でも彼も波乱の人生で大変だったのよ?」
「?」
「ガルアン君は母を亡くしていてね、それからもシーゼル家の護衛だったのに解任されたりしてね......」
何でもガルアンの母親は知る人ぞ知る名薬師だったのだが、作業場が火事になってしまい、放火作業も工房が村から遠かったのが災いし森に延焼して大きな火事に発展、工房の残骸からは見る影もない焦げた焼死体が転がっていただけだったという。
「ちなみにこれは私が彼を採用したから知っているのよ?他言無用ね?これ、バラしたら殺されるわよ」
それは冗談には聞こえなかった。
「......彼、家族については喋りたがらないのよね、だからあまり聞かない方が良いわよ?見るからに不機嫌になるから、特に父親の事は」
「どうして父親を?」
「すぐに死んだらしいけれど、どうしてそこまで恨んでいるのかは、わからないわ」
「まぁ、他人の家族事情には口出ししない方が良いわ」と言って優しく撫でるとそのまま寝室に帰っていった。
ガルアンという男について、見かけで嫌っていただけなのかもしれない、だとしたら、自分は反省しなければならない、それにダークエルフが避けられがちなのにも関わらず、自然と話してくれたという事はガルアンがそういうのを気にしないということなのだから。
しかし、どうしてあの場面で嘲笑をしたのか、疑問は拭えなかった。
リンアは、歴史好きで本を収集して、アイロスもたまに読んでは、わからない事はリンアに聞いていた、そこで彼女がカフゥム山脈にわざわざ来た理由もわかった。
「え、じゃあ偶然居合わせただけだったんですか?」
「そうよ?騎士として剣は持っていたけど、その日は趣味でカフゥム山脈の近くを散策していただけだったのよ、なのに騎士団がぞろぞろ来ててビックリしちゃった、事情を聞いて、それなら私もって一緒に作戦に参加したの」
「えぇ......魔物が大量発生で危険なの知らなかったのですか?」
「それが、知らなかったの、本を片手に異教の聖地を散策に熱中しててね」
リンアは歴史の中でも異教についての知識を求めていた、この帝国では危うい事なのだが、それでも調べているという。
「この帝国が来る前、様々な異教が混在していた、もう数々あった異教や神の名前は忘れ去られているけどね......でも、その残滓は残っているわ」
「......それは......」
「......宗教があれば、神官の類もある。今では一括りに魔女と区分されているけれど......」
「リンア様......何をしようと?」
「......来て」
彼女に招待されるようにある部屋へ招かれると
「――ッ」
それは、動物の死骸やら、何かの儀式を行う祭壇を形成していた。
「リンア様ッ」
「魔女、と区分されているだけで実際の所は種類がある事は把握できたの、私はこれらを有効利用するわ......」
「待ってください、それは長老派の言い分と同じで」
「......みんな苦しんでいるの、もう宗教とか、信仰とか、そういうのでは補えない......」
「いえ、ダメですッ!リンア様......仮にその仮説が合っていたところでその魔女が悪に堕ちています、全員が落ちているんですよッ」
リンアのその異教の神官が魔女とされたという仮説が真実であっても、それが魔女として悪行を繰り返しているのは事実だった。
「アイロス君......約束して、もし、私が堕ちて、誰かの苦しみに何も思わなくなったのなら、私を殺しなさい......いいわね?」
「そんな、そんなのって......」
「......お願い」
その決意に満ちた目でそう願われて、言い返せなかった。
彼女の思いは間違っていない、魔女として蔑まされるのは絶対に間違っている。彼女は人の為を思い、行動した、弱き者を思い荊の道を歩んだ騎士だった。
たとえ最後が
「アイロス......アイロス......あぁ、呼んだから、ガルアンを呼んだのよ、だから......」
親しい部下を生贄にしようとする最低な人だったとしても。
最後の最後まで殺す決断を出来なかった、希望を夢見ていた。だけどもう、ダメだったんだ。約束を、果たさないと。
魔法陣を血で描いて、その中央で両手で祈っている、民の安寧ではなく、儀式の成功の為に祈っていたんだろう。
だから。
「リンア様」
「ん?」
「――ぁ」
不思議と最後に見せた顔はかつて見知った顔に見えたけど、剣を振り下ろして
「――ッ」
右肩から左わき腹までを骨を折る勢いで切り裂いた。
「ぁ、アイロス......く......ん」
リンアは血と共に魔法陣の中へ、すると、赤黒い魔法陣の内側から、血まみれの腕のようなものがいくつも出て、リンアに向かい伸びて来て。
「――ッ」
本能的に目を隠した、ぐちゃぐちゃとボキボキと肉をこねているのか、骨をバキバキと折っているのか、嫌な鉄の匂いが充満してきた、
「――(誰か......)」
恐ろしい、目の前で何かが行われているのか、わからない。
おぞましいうめき声、これがリンアの物ではないと願いながら、祈っていると、屋敷の中で足音が聞こえて来て、一か八かで。
「助けてぇ!」
叫んだ拍子に目を開くとリンアの残骸とそれを材料にしたのか、皮のない血まみれなイノシシのような物がいた。
「――魔物っ!?」
ガルアンが入ってくると、その魔物がガルアンを襲い始めた。
「
「
「
そんな声が聞こえた気がした。
「......」
もちろん空耳であったはずだが。
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