第12話 再会


「ラーチカ、ちょっと、少し離れてくれ......」

「あっ、ごめん」


お互いまた座りなおした。


「......そうか、お前がな」

「......いつか、会いたいなって思ってたから、嬉しいわ」


ラーチカを見る、髪型や髪の色は確かに同じ、しかし、小柄で痩せている姿は前に見た時、別れた時よりも弱弱しい。


「全然わからなかった、10年経つと分からなくなるものだな」

「私も......なんだか、カッコよくなってて驚いた......」

「冗談はよせ」


しかし、ラーチカがこんな事になっている現状、ラトフは一体何をしているのか。


「さっきの話の兄さんは......ラトフの事だろ?」

「えぇ......」

「......あいつ」


ラトフの父が亡くなっても浪費は収まらずに没落した、その後自分もすぐに神聖騎士としてアルルアに向かってしまい、どのようにラトフ達が村を出て行ったのかは知らない。


その後、ラーチカと談笑をしていてふと思い出す。


「......そういえば、ラトフが家賃がどうのこうの言っていたが......大丈夫だったのか?」

「え、お兄に会ってたの?」

「なんだ、あいつラーチカに言ってなかったのか」

「......そうみたいね」


喧嘩別れしたようなものだったから言わなかったのだろう。


「一応どうにか......」


浮かない顔をする。


「お兄が何かを隠しながら商売をし始めてからお金に関しては平気なのよ......」

「......」


ラトフはこっちとしては見捨てる事もしたくはない。シラ村での数少ない友人だからだ。


「......初めて会った時の事は覚えているか?」

「もちろん、お兄が孤立してた貴方と仲良くなって一緒に私も友達になったのよね」


シラ村の出身ではあるが、実際の所は曖昧だったのだ。住んでいた場所が村のはずれの森だったからだ。


「あの時はパパも生きてたから、一緒にご飯も食べてた」

「......懐かしい、ラーチカの父親が健在だったころは世話になった」


シラの者はみんな避けていたが、そんな状態であっても仲良くしてくれる者もいた。それに母も自分の為にあれこれとしてくれていたのを覚えている。


「ガルアンのお母さん、なんだか儚げだった」

「あぁ、あの人はそういう雰囲気だった、いつだってな」

「薬師......だっけ?」

「そうだ、母さんは薬師だ、調合とかしてた、花とか薬草とか使ってたからなのか、工房帰りにはあの人から不思議な香りがしたんだ」


母は自分の家とは別に森の奥に工房と言う家を建てて作業をしていた。


薬師としての能力はあったようで時折帝都アルルアや他の都市の貴族から母を求めて工房に向かう客が来ていた。


「ただ、どんな薬だったのか俺はあまり覚えてないな......ちゃんと聞いておけばよかったなと今になって思う」

「仕方ないわよ、私だってママの事、パパに聞いておけばよかった......」

「そういうものか......」

「......」

「......ラーチカ?」

「グゥ......」

「あ、おい起きろ、お前の家知らないんだぞッ!」

「ん~」

「コラッ起きろッ」


結局ラーチカは寝たまま、ガルアンの家までおんぶしながら送る羽目になるのだった。



◆◇◆◇



「ふわぁ~」


ラーチカが目覚める。辺りには日が差しているが、部屋はボロイ。


「あれぇ、私どうしたんだっけ......」


その声が聞こえたのかガルアンが向こうからやってきた。


「どうしたも、こうしたもない、お前はあの後眠りこけたんだ」

「へ?......あっ」

「はぁ、流石に放置するわけにもいかないからな、俺の家に連れて来たんだよ」

「嘘ッやだぁ!」


ラーチカは恥ずかしなって顔を赤くするが、今更恥ずかしいもないだろうに。


「恥ずかしッ」

「......俺は仕事だから、好きに出ていくと良い、あぁ机のパン早く食べないとパッサパサになるからな」


ガルアンはそう言って家を出るのだった。





「最近、帝国内での治安悪化が躊躇だ、理由は語れない、多すぎるからだ」


ペイアイは神聖騎士団の面々に語っていく。


「しかし、どのような理由であれ治安の悪化を容認してはならない、神聖騎士は本来、魔性を相手どる為の組織だが......人員の確保の為にこういった事への対策、そしてデモなどの鎮圧にも駆り出されるだろう、より多忙になるかもしれない、しかしだ、それでも国家への忠節で――」


それを自分は半ば適当に聞く、ペイアイは熱意があるなと感心する。


「この後どうなるんだか」


しかし、無頓着という訳でもない、自分の足元にも火の粉がくるかもしれないのだ、

不安はある。


「――以上」


ペイアイの話が終わる。


「はぁ」

「......ユンフ、浮かない顔だな」


ユンフが目に見えて暗い顔をして溜息を吐いている。


「え、いっそうかな?ガルアン君、嫌だなぁ僕が浮かない顔をしてるって?そんなわけないだろう?もう勘弁しておくれよ」


ユンフはさっさと逃げ出してしまう。


「......なんで?」





ルーグとガルアンは見回りの最中に今日のユンフの事について話し合っていた。


「うーん、心当たりがない......」

「やっぱり、無理矢理カウヤの事頼んだからじゃね?」


それはそうだが、一応ユンフが自分で申し出たのだから、あそこまでされるのには違和感がある。


そう考えているとルーグが指を指す。


「......うわ、ガルアン見て見ろ、あの倒れてる奴ら多分、噂の薬だ」


最近帝国で流行っている薬、中毒性が強く、貴族を没落させたりもしているという。

その結果、廃人と呼ばれる人間が増えてしまっていた。


「最近はこういうの多いんだよな、マジで帝国が滅びそうで怖いわ」

「国家はそう簡単には滅びない......だろう」


確信は持てない、この国は如何せん根深い問題が多すぎるが故に、ほら、今日も同性愛者が殺された、魔女と疑われて燃やされる。


「――ッ」

「ルーグ、ここから離れようか」


ルーグの母は魔女と疑われて殺された、故に同じような場面を見ると苦しくなるらしい。


「みんな自分がおかしい事に気が付いていないんだろうな」

「そうだろう」


自分の事を狂人と思いながらなんて普通はしない。


「魔女狩りをしている奴は魔女なんて見たことないんだ......俺もないけど」

「こっちだって数えるほどだ」


帝都アルルアに住むもので魔女と会った事のある者は少ないだろう。


魔女とはどういう者なのか、説明も出来ない、何せ多種多様であり、意思疎通が可能な者もいるのが、より厄介な事にしているのだろう。

ただ、魔女という者は何処か歪んでいる、悪魔の術を使いすぎたせいなのか、価値観やら倫理観やら、知性やら何かしらが歪んでしまっているのだ。


「あー、クソッガルアン仕事行こうぜッ」

「もういいのか?」

「あぁ良いッ、こんな事考えてても意味ないからなッ!」



◆◇◆◇



何処かの森の中で、白いスーツを身にまとった、ラトフ=リュントクが姿勢を正して白いひげを蓄えた小柄な老人に話していた。


「これを帝国内でもっと流行らせろ、利益はお前のモノだ」


小袋の中には白いパウダー状の粉。


これは強い中毒性を有しており、一度嗅いでしまえばあとはそれを求めるようになる。後は永遠と金を巻き上げるというモノだ。


「どうしてこんな事を?」

「ラトフ、こういう生業はね、探らない事が大事なんだよ」


ラトフは口を塞ぐ、それを老人はニヤニヤと笑うのだ。


「まぁ、私はこの国の害を為す者であるのは間違いないさ」

「......」

「お前はわかって話に乗ったんだから、いまさら――」

「わかっている、エンヒ」


ラトフはそそくさとその場を後にする、老人はそんなラトフをただじっと見つめていた。


「ふん、まったく、この国の愚かさは変わらない」


老人は侮蔑を込めてそう言い放つ、しかし、他にもそれを聞いていたものがいたようだ。いつの間にか老人のそばに人がいた。


「......部外者め......この森から出て行けよ」

「魔女......か」

「血を捧げよ、肉を捧げよ......」


魔女と言われたのは赤いローブをした腰を折っている老婆だ。


「恐ろしき魔女、魔女は悪魔の術を使うという......しかし、わざわざ忠告してきたと言う事は善意という事か?」

「さぁ、血を差し出せよ、肉を分けろよ、出なければ......」

「......ふん、歪み果てた者の末路か」


老人はそのまま歩いていく。


「さようなら、魔女さん。貴方の優しさに感謝を」

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