第54話誹謗中傷とプロバイダ責任制限法
『坂元選手のセフレとのライン内容が流出!その内容が酷すぎる!』
坂元選手は東京スターズ生え抜きのスター選手。打って守れる遊撃手のレギュラーであり、毎年三割前後の打率と三十本前後のホームランを記録してきた。守備力優先の遊撃でこの打棒である。東京スターズのクリーンナップを二十歳過ぎから打ってきた。見た目もイケメンでモテそうな坂元選手のスキャンダルに国民は騒いだ。
「相手の女性がかわいそう!」
「坂元やっちまったなあ!普段からそんなことばかりやってんだろ!」
「しりあな確定!」
ちなみに『しりあな確定』とは、流出した坂元選手が女性に送ったメッセージである。この件は著名人のゴシップ記事を報道することで有名な週刊誌が報じた。その週刊誌は窓口を開いており、ネタがあれば送って欲しいと情報提供をお願いしている。そしてその週刊誌に取り上げられればこの国が騒ぐと知っているので皆がそこへ何かあれば送る。ただ今回の件は『人ログ』での反応は二つに分かれた。坂元選手をここぞとばかりに攻撃する声と坂元選手を擁護する声である。
「坂元選手は独身だろ?女遊びぐらい誰だってするんじゃない?これが既婚者だったら責められて当然だと思うけど」
正しい。
「一年前に当事者同士で示談が済んでんだろ?だったらそれで終わる話。それをなんで一年も経ってから今になって蒸し返すの?」
正しい。
「これって『友人A』のタレこみでしょ?そもそも『友人A』って誰?『友人』じゃないでしょ?女友達?それとも男?そんなに金にしたいの?そもそも『知り合い』でもないでしょ?」
正しい。感情抜きでジャッジすればそう考えるのが妥当である。結局、球団からのお咎めもなしで(世論はそのことで『何故、坂元選手にペナルティを与えない!』とも騒いだ)坂元選手は薄汚いヤジの中、いつものように華麗な守備を見せ、豪快な打撃でチームを引っ張った。
「プロ野球選手ってのは子供に夢を与える職業だろ?坂元クソだわ。俺もうプロ野球見ねえ」
どうぞご自由にである。ちなみにプロ野球選手だけが子供に夢を与える職業ではない。すべての職業が子供に夢を与える職業である。
同時に今の時代は『誹謗中傷』に敏感な時代となった。世論は『ネットでの誹謗中傷やめましょう』との風潮になり。プロバイダ責任制限法も改定された。今まではネットでの『誹謗中傷』に対し動こうとしたら主に、
・結構なお金が必要(弁護士費用を含め三十万円ほどから)
・IPアドレスを調べる必要があった(コンテンツプロバイダとアクセスプロバイダの二か所分必要であった)
・裁判をすると時間がとにかく必要(一回や二回ではまず終わらない。サーバーが海外であったりするとその国の弁護士と連携する必要が発生する。『海外のサーバーを使えば逮捕はない』は間違った情報であるが『海外のサーバーを使えば解決が大変である』は正しい)
・それだけ時間とお金を使ったにもかかわらず罰則が軽すぎる(見合っていない)
だった。それが今回の改定で『時間』の部分をスムーズに早期解決できるようにとなった。『たまねぎ』やVPNだとか、誰でも書き込める巨大掲示板だとか、ログイン・パスワードが必要なSNSであるとかはあまり語られない。ちなみに『人ログ』に虚偽の書き込みをするとその書き込んだ人間は二度と書き込みが出来なくなる。だから『人ログ』への書き込みは皆慎重になるし、セーフとなる真実なら『どんなに悪い書き込みも匿名で書き込むことが可能』である。また今回のプロバイダ責任制限法では罰則を重くはしていない。これまでと同じように相手を特定し、裁判に勝とうと数十万円の罰金で終わる。
そんな時代でもあり。プロ野球選手に対して『優しく応援しよう』との風潮も出来てしまった。どんなに気の抜けたプレーをしようが「仕方ないよね」と。
「今日の試合はエラー連発で負けたけどそんな日もあるよね。切り替えて明日から頑張って!ファンは応援してますよ!」
ある意味正しい。しかしこれは「タクシーの運転手さんが道を間違えて遠回りし、結果一万円近く余計な料金を払った時も同じこと言えるんですか?」の理屈でもある。「全然いいですよー。人ですから。間違えることもありますよー」と言えるのはよほどの人格者か金持ちだけである。
「ふざけるな!会社に電話してやる!」
これが一般的な大多数である。そして。大阪ジャガーズの二軍が本拠地とする鳴物山球場でこんな会話が。
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