第50話パンドラの箱

(よっしゃあ!まあ、弁護士先生がお金を取り戻してくれるんだろうから、もし途中で足を引っ張ることになったらまずいよねー。今回の件は想像以上にお金取り戻せそうだし、それ以上にもなりそうだし。でもそれが『終わったら』…。ふふふ…。必死に相談してた俺をあれだけ『たらい回し』にした公務員の連中や警察の連中を全部『人ログ』で晒してやるぜ!!!☆1でも高評価すぎる!☆0もあっていいんじゃね?あいつらは本当に☆0だ!全員☆0!無能の税金泥棒!給料泥棒!あいつらの名前はすべて控えてあるし、窓口に行けば分かるもんねー。見てろよ!ボーナスの査定どころかあいつら全員他の知り合いにも言って援護射撃でボロクソにしたるーーーーーーーーーー!)


 夫人の長男はそんなことを考えながら原付を運転し、自宅を目指していた。


 そして赤信号で止まり信号が変わるのを待っていた。その時、ものすごいスピードで『自転車』に乗った一人の警察官が夫人の長男に追い付き、声を掛けた。


「すいません」


「はい?」


「先ほどあなたは『右折禁止』のところを右折されましたので。免許証を出していただけますでしょうか?」


 この若そうな警察官は汗をものすごくかいている。そうとうな距離を自転車で夫人の長男を追ったのだろう。夫人の長男は言う。


「え?いやいや。私は『右折禁止』なんて標識は見てませんよ。どこですか?私は安全運転を心掛けておりますから」


「この道を戻って最初に左折してからずっとさきのところです」


「え?あそこですか?それにあんなところから自転車で…?」


 夫人の長男はいろんな意味で呆れた。


(このやろお…。てめえらはこれ以上俺から切符まで切って罰金をとるつもりか!このカツアゲノルマクソマッポが!こいつも『人ログ』で処刑してやる!つーか、現行犯じゃないとこういうのって切符切れないんじゃないか?)


「いやいや。お巡りさん。その『右折禁止』を私が破ったってことを『証明』することは出来ますか?」


「僕があそこから自転車で追ってきましたので」


「ですから。いったん私はあそこで『左折』をしてますよね?お巡りさんが見たその『右折禁止』を破った人は違うバイクじゃないんでしょうか?もう他のところを走ってると思いますよ。それに一旦視界から消えたのなら現行犯じゃないんじゃないでしょうか?」


「いえ、あなたのナンバーは確認しておりますんで。免許証を出してください」


(ふざけんな!お前らの組織は腐ってるんだぞ!そんな連中の点数稼ぎになんで俺が貴重な金を払わなければいけねえんだ!しかも俺の免許は『ゴールド』やぞ!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!)


 どうしてもそれを認めようとしない夫人の長男。そこで若い警察官が言う。


「自分は高卒であります」


「え?」


「自分は今、二十歳を過ぎたばかりです。皆様からはまだ未熟で至らぬ小僧に見えるのかもしれません。ただ、警察官という仕事に『誇り』を持って業務を行っております。警察官という職業は数少ない『拳銃』の所持を許された『職業』です。また『殉職』ということもいつ起こっても不思議ではないと自分は思っております。つまり『命』をかけてこの仕事をしております。この街の平和を守るのが僕の『仕事』です。どうか免許証を出していただけませんでしょうか」


 夫人の長男はそれまで自分が考えていたことがとても恥ずかしいものだと感じ、すぐに免許証を提出した。


 それから夫人の長男は『人ログ』に公務員のことを悪く書くこともやめることにした。


「すいません。私はいい年をしていながらあなたに対してみっともない言い訳ばかりをしてしまい申し訳ありませんでした。恥ずかしい思いしかございません」


「いえ。自分の方こそ人生の先輩である方に随分と生意気をことを言ったと反省しております。ただご理解いただけ感謝しかありません」


「私からひとついいですか?」


「はい」


「この街には私の大事なものがたくさんあります。年老いた母親も住んでおります。大切な友人も住んでおります。どうかあなたの『正義』でこの街をこれからも守ってください。それに警察も大きな組織です。将来、あなたが失望するようなことがあるかもしれません。でもそんな時でも今の『信念』を貫いてください」


「はい!お約束致します」


 夫人の長男はいろんなものを見てきた。それは本当に組織と言うものの『一面』なのかもしれない。『パンドラの箱』という話がある。最後に残ったもの。この国もまだまだ捨てたものじゃない。夫人の長男は今回の件でいろんなことを学んだ。そして最後に少ない授業料を払いかけがえのない『希望』を目の当たりにすることが出来た。

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