第48話本気の東京都
「はい。駆け込みホットラインです。いかがなされましたでしょうか?」
夫人の長男はナビダイヤルであるため簡潔に現状を伝えた。
「それで区の方からはなかなかいいお返事がいただけませんでして…」
「塚原様。ここは関東での解体工事などの近隣トラブル、建設業にまつわる紛争の通報窓口になります。なのでもっと細かく対応できる東京都の部署がございます。そちらにご連絡した方がよろしいかと思いますが」
(また『たらい回し』かよ…)
そう思っていた夫人の長男だが相手の言葉を聞き少し喜ぶ。
「よろしいですか?今番号を言いますので。メモなどのご用意をお願いします。東京03の」
(え?ナビダイヤルじゃないの?ラッキー!携帯はかけ放題のプランだから時間を気にせず相談出来るじゃん!)
そう思いながら急いでメモの準備をする夫人の長男。そしてとうとう辿り着く。その部署の名は『東京都都市整備局市街地建築部建設業課』。
「はい。もしもし」
「あのお、国土交通省の方からこちらをご紹介していただいたのですが…」
ナビダイヤルではないため電話代を気にしなくていい。夫人の長男はゆっくりと状況を説明した。そこで『あること』が事態を急変させる。近隣住民が念のためにと撮影していた工事のお知らせの張り紙。すぐにそれは剥がされ、看板にも告知することはされなかったが撮影された用紙、建設業の許可票、そこに記載されていたベイタルの許可番号、『東京都知事許可(登―〇) 第〇〇〇〇号』は存在しない番号であった。
「あれ?ヒットしませんね」
「それはどういうことでしょうか?」
「いえ、普通はすべてデータとして保管してますので。今、塚原様がおっしゃっていただきました番号なんですが。ヒットしないんです。最近登録された業者様ならタイムラグでこのようなことが起きますが」
「あのお。許可年月日は一年以上前になってますが…」
「それならタイムラグではありませんね。一年以上前ならデータとしてヒットします。それに塚原様がおっしゃった番号は随分前に『廃業届』が出されていますね」
「え?それはどういうことでしょうか?」
「恐らくですよ。このベイタルという業者は『建設業の許可票』での『許可番号』を『建設』ではなく『解体』の許可番号で告知していたことかと」
「それはかなり悪質ではないのでしょうか?」
「そうですね。この場合、『この工事費が五百万円を超える場合』、ペナルティとして都としては『解体』の許可番号も剥奪致します」
「それでその工事費が五百万円を超えていなかった場合はどうなるんでしょうか?」
「さあ、そこまではもっと詳しく調べてみないと今は明言出来ません。ただ、その『工事費』を第三者が知ることはかなり難しいと思われますね」
「そうですね。あの解体業者が工事費にどれぐらい使ったかを他人に言う訳ないですよね…」
「はい…。でも都としては『そういう事実』があったということを『通報』という形で聞いておきますので。何かしらの対応は出来るかと思います」
「そうなんですか!是非お願いします!」
「ええ。何かありましたらいつでもまたご連絡ください」
そして丁寧に電話を切る長男。
(神だ!この方は公務員なのか?公務員は全員ボンクラとか言ってごめんなさい!いい人もいました!ありがとう!)
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