第47話『国土交通省』
「はい。こちら〇〇区役所でございます」
「すいません。近隣での解体工事で自宅の建物および塀を壊されて困っているのですが」
「それでは係のものにお繋ぎします。少々お待ちください」
そして流れる平和っぽいメロディー。
「あのお…」
電話から先ほどの受付の人らしき声が。
「どうされました?」
「いえ。どの部署へお繋ぎすればよろしいか分かりかねまして」
(このクソ公務員が!てめえらは九時五時で残業なしの上級民だろうが!それでボーナス年二回に毎年昇給で定年まで解雇もなしだろうが!このボケえ!てめえらのその給料は俺らの払ってる税金からやろがあ!ちゃんとやれや!てめえらは俺たち納税者の奴隷なんだよ!このクソボケが!)
心の中でこんな暴言を吐きながら冷静に答える夫人の長男。
「あ、そうですか。じゃあ『都市計画部建築指導課』にお取次ぎお願いします」
「『都市計画部建築指導課』ですね。わかりました。少々お待ちください」
そして流れる平和っぽいメロディー。
「お電話代わりました。『○○区都市計画部建築指導課』です。どうされましたでしょうか」
「塚原と申します。以前そちらの佐藤様とお話させていただきました。佐藤様にお取次ぎお願いできますでしょうか?」
「佐藤ですね。少々お待ちください」
そして流れる平和っぽいメロディー。かなり待たされる。
「お電話代わりました。佐藤です」
「先日はどうもありがとうございました。塚原です。解体工事の件でお電話差し上げました」
「あ、はい。塚原様。今日はどうされましたでしょうか」
「いえ、先日、佐藤様から『こちらの方で現地に行き、しっかりと調査し、もししっかりとした適正な工事をしてなかった場合は『しかるべき』処置をこちらですると。ただ、私の方へは具体的にこのような指導をしましたとの連絡は出来かねますのでそれはご了承ください』と言われたのですが。解体工事はとっくに終わったんですが。その現地へいかれて調査をした方、私が見ていた限りでは工事をお知らせする看板はあの後も一切掲示されてませんでしたよ。証拠の動画も撮ってあります。それで『しかるべき』処置はされましたでしょうか?その現地へ『誰』が行かれ、『どのような』処置を、具体的に『どのような指導』をされたのかを教えていただけませんでしょうか?」
「少々お待ちください」
塚原に答えることなく、慌てて電話を保留にする佐藤。そして流れる平和っぽいメロディー。夫人の長男の心は全然平和ではない。そしてようやく別の担当者が電話に出る。
「すいません。大変お待たせしました」
(待たせすぎじゃあ!この無能の給料泥棒どもが!このクソボケ役所仕事が!)
心の中で暴言を吐きながら冷静に答える夫人の長男。
「いえいえ。それよりご質問の回答をお願いします」
「はい。それに関しましては今すぐにお答えすることが出来ませんでして。部署内で聞き取りをし、『誰』が『どのように』、『具体的にどうやって指導をしたか』を確認致します。なので三日から一週間ほどお時間いただけますでしょうか?」
「待つのはいいですが。連絡は頂けるとの解釈でよろしいでしょうか?」
「ええ。それでは塚原様の連絡先を教えていただけますでしょうか?」
そして夫人の長男は自分の携帯番号を教える。そこで意外なアドバイスを電話に出たものから受ける夫人の長男。
「実はですね。区のレベルを超えて関東レベルでそういった紛争やトラブルを解決する部署があるのです。『国交省』の管轄でですね」
「『国交省』ですか?」
「はい。『国土交通省』です。電話番号をお伝えしていいでしょうか?」
「はい。お願いします」
「0570の…」
(ナビダイヤルかよ…)
呆れながらもその番号をメモする夫人の長男。どんどん加速する。
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