第46話『犯罪捜査規範63条1項』と仕事のない弁護士の職安『法テラス』

「なあ」


 夫人の長男は『司法に詳しい』知人に相談した。


「もうこっちも弁護士を雇った方がいいんじゃないかなあ」


 その知人は言った。


「その必要はない。今の君は例えるなら信号待ちで止まっている状態で後ろからぶつけられたのと同じ状況だ。10:0で君に非は一ミリもない。この国の司法は基本『落ち度』の計算で結果は決まる。双方の『主張』と『落ち度』の足し算引き算だ。それを『判例』があればそれをもとに判決を下す。今回の君に『落ち度』は一ミリもない。例え『司法の場』に委ねることとなろうが百パーセント勝てると思う。けれど相手側が君の知らない『隠し玉』を持っていればカウンターパンチを食らう可能性もある。逆もまたしかりだ。君の方でも『隠し玉』を用意できる分には出来るだけ用意しておいた方がいい」


 そういうもんなのかと思う夫人の長男。


「試しに『法テラス』にでも電話をかけてみるのもいい。何の解決にもならないから。『法テラス』は仕事のない弁護士の職安みたいなものだと思っていい」


 『司法に詳しい』知人の言う通り『法テラス』にも電話をしてみる夫人の長男。ジャスト三十分でガチャ切りされる現実。夫人の長男は『司法に詳しい』知人の言う通りに動くようにした。


 相手側である解体業者の弁護士からはいくら質問のメールを送っても『工事とそちらのひび割れに因果関係はない』、『塀の部分はしっかりと修繕した。短い作業時間=不適切な施工ではない。塚原様のご要望にはこれ以上応じかねますので、その旨ご回答いたします』のみ。


(クソが!クソ弁護士が!)


 夫人の長男は抗った。まずは所轄の警察署に再度電話をかけた。


「その件は民事ですから」


「いえ、『刑事』です。『建造物等損壊罪』です。告訴状を提出しますのでそれを受理願います」


「受理することはできません」


「それは『出来ない』ですか?それとも『したくない』ですか?」


「我々の判断です」


 そこで『司法に詳しい』知人からの言葉を使う夫人の長男。


「しかし、『犯罪捜査規範63条1項』に受理する義務がございますよね」


「あのですねえ。私たちは警察官であり、そんな『法律』を持ち出されましても。そういうのは弁護士先生に言ってくださいよ」


(この警察は馬鹿か!『犯罪捜査規範』とは法律じゃねえよ!警察官の犯罪捜査の心構えなどを書いたものなんだよ!警察学校で習わなかったのか!このボンクラがあ!)


 呆れながら答える警察官に対し心の中で暴言を吐く婦人の長男。さらに加速する。

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