第42話大人のケンカ
夫人の長男は「専門的知識」を持つ知人から教わったとおりに動いた。相手側であるベイタルに電話しベイタル社長に取り次いでもらうよう電話をとった事務員らしき女性に伝えた。
「あいにく只今外出しておりまして」
ベイタルは零細企業らしい。ネットで調べてそれは知っていた。
「そうですか。じゃあご伝言だけお願いします。よろしいでしょうか?」
「はい。どうぞ」
「私は八十を超える高齢者である母の代理人となりました息子の塚原信と申します。今後〇〇アパートの損壊案件は私が窓口となりますので。御社には一件だけお聞きしたいことがあります。『工事をする前に家屋調査をされたのでしょうか?それは義務ではありませんがそれをされたのならそれを示すものをご提出お願いします。していないならそれで結構です』とお伝えください」
「少々お待ちください」
電話の相手はメモを取っているようである。
「もう一度言った方がよろしいでしょうか?」
「あ、お願いします」
そうやって夫人の長男が『代理人』として行動に出る。すると夫人の長男の自宅へすぐに特定記録郵便が届いた。
「ん?弁護士から?」
そう思いながら弁護士事務所名などの印刷が入った封筒を開けると中には弁護士からの書面が。
『受任のご通知
〇〇年○○月〇〇日
塚原信子氏代理人
塚原信様
通知人 ベイタル株式会社
代表取締役 東海林義男
東京都○○区〇〇〇〇〇―〇―〇 〇〇ビル3階
上記通知人代理人
弁護士 服部渉
TEL 〇〇―〇〇〇〇―〇〇〇〇
FAX 〇〇―〇〇〇〇―〇〇〇〇
【案件の表示】
○○区○○〇〇―〇―〇(旧)吉原邸解体工事に関する件
【ご連絡事項】
拝啓
上記案件につき当職が受任をしましたので、本書面をもってご通知します。
つきましては、上記案件に関するご連絡等がありましたら、当職宛てにお願いします。
なお、従前、塚原氏より、上記解体工事に起因してご自宅内のクロスに不具合が生じているとのご指摘をいただいておりますが、通知人としてはクロスの不具合と解体工事との間に因果関係はないものと理解しております。通知人が加入する損害保険会社も同様の見解です。したがって、この点に関するご請求には応じかねますので、念のためお伝えいたします。
敬具』
相手は弁護士を介入させてきた。『専門的知識』を持つ知人から聞いていた通りにものごとが動いている。夫人の長男はこの案件で弁護士に依頼するつもりはない。状況証拠、音声での証拠、それぞれが揃ってある。こんなことで負けるはずがないと。
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