第41話警察官のロスタイム時間稼ぎ『パス回し』

 とにかく夫人の長男の『司法』に詳しい知人の存在が今回は大きかった。


(あ、そう言えばあいつから「110番通報」をどう処理したのか聞いておけって言われたよなあ)


 夫人の長男は『110番』ではなく所轄の警察署の番号に電話してみた。時間は平日の仕事の合間。午前十時半である。


「はい。〇〇警察受付です」


「お世話になってます。塚原と申します」


「はい。今回はどうされました?」


「はい。先日『110番』通報をうちの母がしたのですが。それがどのように『処理』されたのかを確認したくお電話差し上げました。私は母の親族なので委任状などは作成しておりませんが代理人としてお電話差し上げております。何か身分を証明するものを申し上げましょうか?」


「少々お待ちください」


 そして流れる『平和』っぽいメロディー。


「お待たせしました。今回はどうされました?」


「はい。先日の『110番』通報をうちの母がしまして。それをどう『処理』されたか確認の電話になります」


「少々お待ちください」


 そして流れる『平和』っぽいメロディー。結局、七人の警察官に『たらい回し』をされる。ようやく最後に婦人警官が電話に出る。


「お電話代わりました」


 夫人の長男は七回目の説明をする。


「そうなんですか。今回の件は『生活安全係』と言う部署がありますのでそちらの方で確認お願いします」


「ではそちらに繋げていただけますでしょうか?」


「すいません。今はちょっと担当のものが不在でして。また時間をおいてお電話いただけますでしょうか?」


 夫人の長男は電話を切る。


(結局、こうなるのか。日本の警察が腐ってるって言うけど実際関わってみると本当だなあ)


 それから二週間が経った。夫人のアパートを建設した業者から夫人はアドバイスを貰っていた。


「建物の方は急がなくてもいいですが、塀の部分のひび割れはそこから水、ようは雨などですね。水が入ると劣化が早くなります。なので早めに修繕した方がいいですよ」と。


 しかし夫人は八十を超える高齢者である。そんなことを言われても夫人の長男には伝わらない。そのまま放置されたひび割れ。塀も建物も放置されたまま解体工事は終了した。そこで解体工事業者が約束を覆してきた。


「そちらの建物も塀もうちの解体工事とは何の関係もない。だから修繕もしない。これで終わりとします」


 夫人は激怒した。そしてすぐに長男に電話する。


「あ、お母さん。今仕事中だから。後でいい?」


「隣の解体業者が!一円も金払わんって言うてきた!!」


「え?そうなの。まあ今仕事中だから。今日の帰りに寄るから。今はちょっと待っててね」


「全部修繕するって約束したくせに一円も払わんと!そんなんが通るんかい!」


「だからちゃんとやるから。ね、ね。今日は早く仕事も終わりそうだから。はい、いったん切るからね」


 そう言って夫人からの電話を切る夫人の長男。


(これはもう泥沼になるんだろうなあ、でも音声にすべて取ってあるし。まあ普通にジャッジしてくれても余裕で勝てるよな?弁護士費用とかいくらぐらいかかるんだろう?それ以前に弁護士って飛び込みで信用できるもんなのかな?そう言えば無料で相談できる『法テラス』ってのがあったし。そこに電話してみるか)


 ここから夫人の長男はこの国の腐った現実を嫌と言うほど見ることとなる。

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