第36話弱者は餌
相手側の解体業者に電話しようと思った夫人の長男。しかし現地には工事の詳細を近隣住民に知らせるための看板も設置されていない。連絡先も分からない。
「お母さん。これはかなりの悪徳業者かもしれないよ。普通はああゆう工事をする時は確か『張り紙』の設置が義務だと思うんだけど。それがないんで」
「そうなのかい」
「うん。だから相手側に連絡しようと思っても連絡先も分からないから。お母さん、なんか資料とか契約書とか送られてきてない?」
「うーん。なんかよく分からないもんがいろいろ来とる」
「いろいろじゃダメだよ。だから管理会社を入れたらっていつも言ってるでしょ」
「そんなのお金の無駄!」
そして夫人宛に送られてきている、夫人がちゃんと手元に残してある工事にかかわる書類を見つける夫人の長男。
「これ全部開けていい?」
「ええよ」
そして夫人宛に送られてきたにも関わらずそのまま放置されていた書類を見て驚く婦人の長男。簡単に解釈すると『これを承諾するのは難しい』内容のものを『ハンコだけここに押して送り返してください』と説明もなくちぎったノートの切れ端にメモ書きで書かれたものとハンコを押すと取り返しのつかなくなる書類の山。
「お母さん。ちょっと役所の方に明日、俺から電話してみるよ。解体業者の連絡先も分からないんで。ちなみにお母さんは解体業者の名刺は貰ってる?」
「分からんなあ」
「分かった。この場合、親族だし、『委任状』が必要なのかも調べてみるから。今日はもう十七時を過ぎてるから『役所』は終わってるからね。あ、明日は土曜日かあ。ごめん。来週の月曜日になっちゃうけどいい?」
「しょうがないよ。『お役所さん』はそんなもんだし。それよりあんた。『晩御飯』は食べたん?」
「え?」
夫人の長男の晩御飯は奥さんが用意して待っている。それでも夫人が一人暮らしで毎晩寂しく一人でご飯を食べているのを想像する。
「あ、まだ食べてないわ。そういや腹減ったなあ」
「ちょうどよかった。今日は野菜が安かったから。すぐ作るから食べていき」
そう言って嬉しそうにキッチンへとゆっくりと歩いていく夫人。夫人の後ろ姿を、歩くスピードを見ながらいろいろなことを夫人の長男は思った。結局、その日、夫人の長男は晩御飯を『二食』平らげた。
翌週の月曜日。勤務中である夫人の長男は昼休みに区役所へ電話をかけた。
「はい。〇〇区役所でございます」
「あ、すいません。近隣工事のトラブルの件になりますが。その担当部署に取り次いでもらえませんか?」
「はい?それでは建築課にお電話おつなぎします」
そしてここから『たらい回し』が始まる。
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