第33話救い

「姉上殿」


「何でございますか?ご主人様」


「今日は何のゲームをしますか?『オホーツクにQ』がやりたいです」


「分かりました。ご主人様。ではソフトを入れ替えますね」


 そしてコタツから体を出し、ゲーム機のもとまで四つん這いで歩き、例のごとく、短いスカートで丸見えの状態でソフトにフーフー息を吹き込み『オホーツクにQ』をセットする姉上殿。


「あ、もしもし。はいはい。ああ、例の件ですね」


 スマホを耳にあてながら電話の向こうの誰かと会話をするご主人様。


「バレバレですよ」


 とご主人様と呼ばれる男のスマホを取り上げる姉上殿。


「あ」


 スマホの画面を確認する姉上殿。スマホの画面は通話モードではなく、動画撮影モード。


「携帯の角度が怪しいと思ったんですよ。証拠隠滅は出来ませんよ。さあ、フォルダを確認しますがいいですよね?」


「あ、あれえええええ?おかしいなあ。このスマホは壊れてますね。僕は通話してたのに。勝手に録画モードになってますよ。冤罪です!これは冤罪ですよ」


「ご主人様?書き込みますわよ」


「いや、本当に冤罪ですよ。それにあんなにわざとらしく『見せようとしている』姉上殿にも問題はあると思いますが…」


「ご主人様!」


「いや、冤罪です。それにしても…。今回のこの山田圭吾の件はどうなんですかね?」


「はい。ご主人様。結局、今のSNSで大炎上。彼はすべてを失いました。それでも人は忘れる生き物です。すぐに彼のことも忘れると思いますわ」


「それで被害者の方とは話し合ったんでしょうか?」


「はい。それも『人ログ』運営にて確認済みです。山田圭吾の評価は相変わらず限りなく☆1に近い状態ですが彼に対し被害者の方とそのお兄さんが両方☆5の評価をつけております。内容は『過去の過ちに対し、しっかりと反省し、それに対して償おうとした行為は素晴らしいことである。確かに『いじめ』は悪であり犯罪である。ただ、人は自らが意図しなくても誰かを傷付けるものである。今回は被害者である自分も知らないうちに彼と同じように誰かを『いじめた』ことがあるかもしれないし、それに気付いてないだけなのかもしれない。問題は人が生きている限り必ず起こるものだと思います。大切なことはそれを放置したり、気が付かないふりをせず、しっかりと過ちを認め、それに対し償おうとする姿勢であり、心だと思います。上辺だけのポーズで騙されるほど人は愚かではありません。今回の山田君の僕に対する『償おう』という気持ち、行動は自らの破滅をもいとわないものでした。また、人は『許す』気持ちを持つ勇気も時に必要だと思います。誰かを憎んだまま生きていくことは辛いものです。忘れることも選択肢の一つだとも思います。今回の騒動を見ていて皆さんが僕のためにと声を上げてくれたことは大変嬉しく思ってます。それを承知の上で書きます。あのままでは僕のためにと声を上げてくれた人が『いじめ』をしていることになるとも思います。『いじめ』は犯罪です。忘れる人もいれば死ぬまでそれを引きずる人もいると思います。どうか今回の件で少しでも優しい心、優しい言葉が増える世の中になればと思っています。繰り返しになりますが僕も誰かを『いじめた』ことがあるのかもしれません。ただ、それをハッキリと『したことがない』と言い切ることは出来ません。僕は山田君を『許す』勇気を今回持てました。今後は山田君の作る音楽を楽しみにしたいと思います。それには時間がかかると思います。それでもそれは特別なものになるとも信じてます。山田圭吾。☆5』と書かれてます。大多数の☆1よりも被害者である方からのたった一つの☆5は山田圭吾にとっても救いになるのではありませんでしょうか?」


「犯人は安いです」


「ご主人様?人の話はちゃんと聞きましょうね」


 いつまでも絶えることなく全国各地で発生している『いじめ』問題。大切なことはそれに気付き、しっかりと反省し、その罪を認識し、相手の気持ちを考え、しっかりと償おうとする気持ちと行動である。人は知らないうちに誰かを傷付ける生き物である。ただ人は知恵も心も持っている。賢く生きる術はいくらでも存在する。ただお天道様は見ているとの言葉はあながち安いものではない。少なくとも自分だけは自分を見ているのであるから。

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