第32話免罪符

 その時、一つのリプが大沢のアカウントに。


「もういいだろう!やめろ!」


 それに気が付いた大沢はそのリプを飛ばしたアカウントのプロフィールを見る。


『山田圭吾にいじめられていた人間の兄です』と書かれたプロフィール。


 大沢はその言葉をリツイートした。


「なんだよ?」


「誰?なりすまし?」


「やらせだろ?自演乙。はいはい。どんどん拡散」


 自称『山田圭吾にいじめられていた人間の兄』アカウントは次々とリプを飛ばした。


「これは私の弟と山田君との問題だ。部外者は申し訳ないですが口出ししないでいただきたい」


「お前も部外者だろうが!」


「弟はこんなことを望んではいない。あなたたちがやっていることは『いじめ』じゃないのか?安全な場所から石を投げることが正義なのか?身内に『いじめられた人間がいる』ことや『自分は過去にいじめられたことがある』ことが部外者であるあなたたちが当事者同士の問題に口を出すことの免罪符になるというのか?」


 事態を簡単に山田へ説明する大沢。「え?兄だって?」


「なりすましだろうが!!引っ込んでろ!」


「食糞!食糞!」


「身内の出来レースはいいから。バレバレ。やるならもっとうまくやれよ」


 自称『山田圭吾にいじめられていた人間の兄』アカウントは自撮り画像を投稿した。


「これが私だ。山田君なら分かるだろう。年を取ったが私は弟とそっくりだと言われることが多かった」


 その自撮り画像を山田に見せる大沢。それを見た山田がポツリと呟く。


「…あ、あいつだ…」


 そして山田はボロボロと涙を流し、顔をくしゃくしゃにした。包帯だらけではあるが構わず涙をボロボロボロボロ流し続けた。


「もういいだろう。山田。まずはお兄さんと会って話をしてみないか?」


 包帯だらけの顔面をくしゃくしゃにしながら、涙をボロボロ流しながら彼は何度も頷いた。それから大沢は山田のアカウントで自称『山田圭吾にいじめられていた人間の兄』アカウントと会話した。


「すいません。大変ご無礼ですが山田本人は傍にいますが病院のベッドの上で両手も動かせない状況で代わりにマネージャーである私、大沢が代わりにご挨拶させていただきます。それで早速で申し訳ありませんが山田本人がご本人に直接謝罪したいと強く訴えております。ただ、いきなりご本人にお会いするのもPTSDを考えると慎重に扱うべきだとも思っております。お兄様に一度クッションとして間に入っていただくことは可能でしょうか?」


「こちらこそご丁寧な対応ありがとうございます。私でよろしければ是非会っていただけますでしょうか?さすがに弟をいきなり合わせることは大沢様や山田様がご配慮していただいているようにPTSDを考えると慎重に扱うべきだとの考えに賛同です。ただ、これだけはお伝えしておきます。弟はリアルタイムで今もこの騒動を見ております。弟は山田君がこれ以上多くの人にいじめられる姿や自分で自分を痛めつけている動画も観たくないと強く言ってます。前例がないなら弟と山田君で前例を作りましょう。それが『いじめ』のない優しい世界への一歩となればこれほど素晴らしいことはないのではないでしょうか」


 SNSはこの後も炎上したが時間とともにこの問題も忘れ去られていった。まとめサイトには世に出てしまった動画が残ることになったがそれはもうどうでもよかった。

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