第30話罪と罰
「何言ってるんですか!そんなこと出来るわけないじゃないですか!」
大沢が呆れながら声を荒げる。
「こんなこと君にしか頼めないんだ。分かってくれ。これしか僕には思いつかない。ただの自己満足かもしれない。でもきっと世間の声も少しは僕を許してくれると思うんだ」
「ですからその『世間の声』って何ですか?当事者以外は関係ないでしょう」
「僕はたくさんの人からの言葉をほとんど読んだ。そこには僕が知らなかったこともあった。現実として『いじめ』られた人がどれだけ長く苦しんでいるかも知った。それも氷山の一角だ。中には僕を擁護してくれる声もあった。けれどそれじゃあダメなんだ。『いじめ』は本当に卑劣な行為であり、犯罪だ。子供だからといって許されるものではない。また学生時代だからこその『いじめ』は卑劣なものも多い。大人である教師がその真実を知ろうとしても『いじめる』側の人間は『いじめられてる』側の人間に圧力をうまくかける。バレないように異変を察知した大人に対し『僕はいじめられてない。〇〇君が僕をいじめてる?〇〇君とは仲のいい友達だよ』と言わすのも簡単にする。恐怖で支配するから告げ口させないようにする。それが加速して命を奪っても平気でそれをなかったことにする。闇に葬る。だから僕がこの体を使って示すことがせめてもの罪滅ぼしだと思うんだ。『いじめ』は絶対に許されない時効のない犯罪であることをこの国の人間に知らしめるんだ」
「山田さん…」
「さあやってくれ。撮影してくれ。まずは全裸での自慰行為か…」
彼は自分の記憶にあることや誇張して伝えられた自分が行ったとされた行為をそのまま自らに対し行った。スマホのレンズの前で。恥ずかしすぎて誰にも見せたくないような痴態を動画撮影される国民的音楽家。自らの肛門を晒し、大便を排泄しそれを食した。全裸で自慰行為にふけった。勃起せずとも手を動かし続けた。バケツに溜められた水の中に顔を突っ込み限界まで息を我慢した。鼻から水が入り、器官に異変を感じ新鮮な空気を求めたがそれを自らの手で頭を抑えつけた。両手の爪と指の間に針を一本ずつ刺した。絶叫した。動画を撮影していた大沢が何度も止めようとしたが彼はそれを断った。
「まだまだ…。こんなもんじゃない…。僕がいじめた相手が受けた苦しみはこんなもんじゃ…」
鉄の板に頭を何度も打ち付けた。血が頭から流れ、彼の顔を伝う。それでも頭を鉄の板に打ち付ける。血だらけであろう頭に洗剤を原液のままぶっかける。激痛。絶叫する。
「もうやめましょう!十分だろ!」
「まだ…まだ…。体は…、まだ綺麗な…ままだ…」
バッティングセンターに設置されているボールを高速で放つマシンのスイッチが押される。
「本当にいいんですか…?」
「…頼むよ…。やってくれ…」
百六十キロに設定されたマシンから硬式球がものすごい勢いで放たれ、彼のどてっぱらに食い込む。ここ数日、最低限の水以外口にしていなかったが口から汚物が飛び出る。
「ぐはあっ!」
「大丈夫ですか!」
「…続けてくれ」
百六十キロで飛んでくる固い凶器を彼は顔面で、体で、腕で、足で。受け止め続けた。皮膚はすぐに晴れ上がり、赤いんだか青いんだか分からないどす黒い色に染まる。これは拷問であり、この国では拷問を許されていない。
「もういいでしょう!僕はもう無理です!」
「…まだ…だ。は…、ゲロがちょうどあるじゃないか…」
彼が拷問で吐き出した汚物に顔を突っ込み、それをすする彼。それらは大沢の手によりすべて動画として形となった。そして彼はそのまま気を失った。
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