第27話 山田圭吾 五十二歳。男性。☆1・12(211058件)

 山田圭吾 五十二歳。男性。☆1・12(211058件)


 彼は二十代でメジャーデビューしたミュージシャンだった。フレンチポップを甘いヴォーカルで歌いバンド時代はその楽曲がテレビドラマの主題歌に使われたりもした。バンド解散後もソロ活動で成功をおさめ、自身も数々の楽曲を世に出しながら、別のミュージシャンに楽曲を提供もし、やがては世界へと活動の場を広げた。彼は世界的にも成功を収めた。この国で世界に通用した音楽家は本当に少ない。そんな彼が現在、『人ログ』サイトでここまでの低評価をされたのには『ある理由』があった。彼は若い頃、音楽雑誌の紙上インタビューにて学生時代に自らが犯した『いじめ』について赤裸々に語ったのであった。今より二十年以上も前のインタビュー記事であるが、今はSNS全盛期である。ネット掲示板時代にも何度か炎上し叩かれたことはあったが時間とともに忘れられ、思い出されたころに再度叩かれるの繰り返しであった。SNSは容赦なく彼を追求した。彼が世界的イベントの音楽をプロデュースする立場になったタイミングが重なったことが今回の大炎上の大きな原因でもあった。


「山田圭吾は最悪。いじめた方は忘れてもいじめられた方は一生忘れることが出来ない。あんな人間として最低なくずが今回のイベントに関わるのは止めて欲しい。辞退しろ。反省してるなら本人から辞退する以外本当に反省なんかしてないはず。☆1」


「信じられない。過去記事見ました。あれはいじめではありません。犯罪です。弱者を集団で全裸にしたり、自慰を強制させたり、アスファルトにバックドロップで叩きつけるなんて殺人未遂ですよ。それを指示して笑いながら自分の手を汚さないところがまた卑怯すぎ。一生かかってでも償え。ていうか、こいつもう音楽辞めろ。☆1」


「昔からのファンでしたがさすがにもう聴きません。音楽に罪はないとか綺麗ごと。犯罪者の音楽なんか聴きたくありません。それにこいつが関わることでイベントの品位まで地に落ちる。運営は即刻こいつを使うのは止めるべき。いじめは犯罪です。被害者は今も心に傷を負って生きているのです。忘れることはできないんです。それなら同じことをやればいい話。みんなでこいつの人生終わらせましょう。こいつの作品は聴かない、買わない、捨てる。こいつを使う企業の商品も買わない。居場所なくしちまえ。☆1」


 ほぼ同じ内容の書き込みと評価で溢れるかえる『人ログ』での彼の評価。それでも平均値がジャスト1にならないのも『人ログ』。ごく僅かではあるが彼にチャンスをという声もあるのも事実である。


「人間は過ちを犯すもの。大事なのは犯した罪に向き合い、しっかりと反省すること。そのいじめられた人にしっかりと謝罪し、過去の過ちをしっかりと清算することの方が大事だと思います。☆2」


「何をいまさらって感じ。昔からソースが出てたこと。雑誌側の脚色もある。彼の作ってきた作品に罪はないし、彼が後世に与えた影響を考えれば騒ぎすぎ。騒いでる奴は過去に一度も過ちを犯してないのか?そんな人間いるのか?☆5」


 どちらも正しい。

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