第25話『ぽの』

「姉上殿」


「何ですか?ご主人様」


「今日は今からゲームをしましょう。一時間ですよね?」


「はい。ゲームは一日一時間ですわよ。ご主人様」


「では今日は『ふぁみすたあ』やりましょう。僕は『れいるうえいず』を選びますね」


「あ。それで『ガチ』モード、『通常』モード、『接待』モード、『接戦』で勝ちオア負けモードのどれにしましょうか?ご主人様」


「もちろん『ガチ』モードです。あ。すいません。ソフトが『ゆうていみやおうきむこう』のままですね。コタツ出たくないんで変えてもらっていいですか?」


「分かりましたよ。ご主人様」


 そしていつものようにセクシーなメイド服で四つん這いで「ふーふー」する姉上殿。


「あ、ミカンが手から落ちちゃったあー。拾わなくちゃあ」


 棒読みでそう言いながらミカンを拾おうと体を倒しながらチラ見するご主人様。そしてソフトを入れ替えてコタツに戻ってきた姉上殿が言う。


「『また』見てましたよね。ご主人様。書き込みますよ」


「いや、見てないですよ!」


「いえ、ご主人様。今のは完全に『アウト』でしょう。だってミカン落としたのもわざとらしかったですし、完全に下から覗いてたのを確認致しましたが」


「違いますよー。ほら、あの、テレビの後ろのカレンダーです。あれを見てましたんです。それに、姉上殿もなんか『わざと』『見せてる』じゃないですかあ。あんな体勢しなくてもソフトは取り換えられるんじゃあないですか?」


「ほら。今の発言は『見てた』との自白として受け取ってよろしいでしょうか?ご主人様」


「いえいえ。それとこれとは別です。僕はカレンダーを見てたんです」


「それなら今回はそういうことにしておきますわよ。ご主人様。では私は『なむすたーず』を選びますね」


「それで今回の報告ですが。あれはどうなんでしょうかね?」


「あれですか?『嘘つき少女』の書き込みの件ですか?」


「そうですね。あ」


 姉上殿の操作する『なむすたーず』の一番バッターであるめちゃくちゃ足の速い『ぽの』がバントヒットを決める。


「ダメですよ。フォークはないんですからね。このバージョンは。それであの件は現地から報告も来てますが虚偽の書き込みはありませんし、削除する必要もないですわね。ご主人様」


「そうなんですか?でも人間はいろいろと。何と言いますか。分かっていながらも情報の『一部分』を切り取って判断してしまうところがありますね。あ」


 牽制球を投げるも俊足『ぽの』はそのまま二塁へ走ってしまう。余裕でセーフ。


「そうですね。ご主人様。まさに典型的な件だったと思いますね。このまま三塁、ホームへと走らせてもらいますね」


「えーーーーー。大人げないですよ。姉上殿」


「じゃあ、『ガチ』モードやめますか?」


「いえ。『ガチ』でやりましょう。まだ一時間のほとんど残ってますから。三試合は出来ますよ。それでですね」


 姉上殿の操作する『なむすたーず』の俊足『ぽの』があっという間に先制のホームを踏んでしまう。

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