第22話あんた、嘘をつくのが下手なんだって
非通知で彼女の学校に匿名の通報をする女。
「ええ、間違いありません。そちらの生徒の飯田美恵子さんはファミレスでアルバイトをしてます」
「え?そうなんでしょうか?あなたはどちら様でしょうか?」
「こちらの名前が必要なんですか?それよりも問題はそちらの学校で禁止されているアルバイトをそちらの生徒である飯田恵美子さんがやっていることじゃありませんか?それも自分のために。最近は高額なブランド物のアクセサリーを購入していました。それでも知らなかったで通すんですか?あなた、お名前は?」
「少々お待ちください。只今、責任者と変わりますので」
そして彼女の学校の教頭先生にまで話を持っていく匿名の電話。
さらに加速。
SNSにて隠し撮りした画像付きでアップされる偽物のブランド物のペンダントをしてファミレスの制服をしてアルバイトをしているであろう彼女。RT、RT,RT。しかも本名まで。
さらに加速。『人ログ』に書き込み。書き込んだ人間は特定できないが『学校でアルバイトは禁止されているのにそれを破っている』、『普通なら高校生では買えるはずのない高級ブランドのペンダントを身に着けている』。虚偽の書き込みではない。
彼女を昔から知る友達が彼女に尋ねる。停学中の彼女の家までわざわざ来てくれた。
「美恵子ぉー。あんたってさあー。昔っからそういうのには興味なかったじゃん。訳アリでしょ?」
「そお?だって、見てたら欲しくなったもん」
彼女は平気で嘘をつく。
「美恵子ぉー。そんなんじゃないでしょ?あんたは」
「別に」
彼女は平気で嘘をつく。
「そう。まあいいわ。今、暇でしょ?」
「うん…」
「久しぶりにやる?」
彼女を昔から知る友達が背中に背負ったリュックからバトミントンのラケットを取り出す。
「え?」
「あんたはあたしの昔からのパートナーだったでしょ?いつだってダブルスは一緒にやってきたじゃん。久しぶりにやろうよ」
「…」
「いいから。ほら」
そしてラケットを受け取り、彼女の友達からのサーブについ体が反応してしまう。
バトミントンはスマッシュもあれば相手を前後左右に振ることもある。試合前には上に向かって打ち合う。
ぽーん。ぽーん。
懐かしい感触。いろんなことが彼女の頭の中を駆け巡る。彼女は涙を流していた。
「あれえ?美恵子ぉー。泣いてる?」
「…。泣いてないよー」
彼女は頑張って嘘をつく。涙のラリーが続く。そしてスマッシュ。それを懸命に拾う彼女。
「やるじゃん。今でも現役バリバリで通用するよ。私のあの最後のスマッシュを拾える選手はそうそういないよ」
「…ありがとう。実はね…。あのね…」
彼女はぼろぼろと涙を流した。彼女は嘘をつく。そうすることが一番楽だと思っていた。でもそれは蓄積していた。本当は誰かに知って欲しかった。長年パートナーを組んできた友達が家に来てくれた。停学中で周りから悪者扱いされてる自分を心配して。学校の先生も信じてくれてなんかないのに。
「あんたって昔からそうじゃん。いつだって辛い時にそれを言わないじゃん。絶対口にしないじゃん。言い訳しないじゃん。あんた、嘘をつくのが下手なんだって」
彼女は友達の前で号泣した。
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