第11話「先っぽだけ」「一瞬だけ」「ゴムつけるから」
「結婚しよう」
お客さんに言われた。相当の太客だった。うまくかわしながら指名してもらった。
「お店の外で会おうよ」
ふざけんなと思った。
そういうお客さんは多いと店長から教えてもらった。お客さんと結婚する女性スタッフもいることも現実だと知った。こういうところの女性に一時の感情で一生の相手として選べるの?と彼女は思った。仕事とプライベートをしっかりと分けるようにした。本名『涼香』と源氏名「えり」をうまく使い分けた。掲示板とかに本名を書かれることはない。書かれたら仕事のことがバレてしまう。バレるといろいろと大変なことになるのも理解していた。収入はいい。貯金もこの年で女で一回り以上年上の男よりあると思った。月収も。長く続ける仕事ではない。でも普通の仕事に戻れば収入が激減する。働く時間も増えるし休める日も減る。そしてずるずると出勤を繰り返す。でも仕事はしっかりとする。金額に見合った仕事を。
その日は立て続けに指名で埋まっていた。前日に店長から聞かされていた。
「明日は四本指名が入ってますのでよろしくお願いします」と。
出勤した正午からロングコースを立て続けに四本。彼女は疲れた。でも頑張った。四本目のお仕事を終えて事務所に戻る時に頭の中で今日のお給料は…、と考えていた。ちょうど上がりの時間である少し前の夜十時前。男子スタッフがいつものように精算の準備をしてくれていると思っていた。店長に頭を下げられた。
「『えり』さん、すいません。先ほど五十分コースのお客様からお電話ありまして。他の女性スタッフは全員お仕事に出ていまして『えり』さんにお願いしたいのですが。でも無理なら無理で断っていただいて全然大丈夫ですので」
五十分のショートコースかあ。疲れてるけど。フリーのお客さんだけど。まあ、店長も困ってるみたいだし。今日の給料が七千円増えるし。電車も逆算すれば全然終電も間に合うし。
「いいですよ。お店や店長さんにはいつもお世話になってますし」
「ほんと?いいの?ありがとうございます。タイマー五分早くコールしますからお疲れでしょうが最後にもう一本お願いします」
彼女は最後一本をチャチャっと済ませて家でいつも楽しんでる韓流ドラマを見ることを考えながら仕事に向かった。指定されたホテルの部屋に行くと彼女を子汚い中年のおやじが出迎えた。
「ねえ、やらせて」
店で一番短いコース。安いコースの五十分コースで本番強要。いつものように柔らかく上手にかわした。それでも子汚い中年のおやじはしつこい。
「先っぽだけ」
「一瞬だけ」
「ゴムつけるから」
とにかくしつこい。
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