第10話高収入の女

 水越涼香。二十八歳。専業風俗嬢。三年前までは普通のOLをしていた。ちょっとしたことでお金が必要になった。勇気を出して高収入の世界に飛び込んだ。未経験で。未経験だからどのお店が稼げるか分からなかった。街で配られていた無料高収入求人誌を見たけどどこのお店も同じようなことばかり書いていた。


「大3枚保証」


「入店祝い金10万円」


「脱がない、舐めない、触らせない」


「週三回五時間勤務の場合」


 出来るだけ職場から遠い場所で通勤にも便利な場所で選んだ。即採用。即講習。そして本番講習。そんなもんだと覚悟はしてたけど講習中に彼女は涙を流した。そして思ってたより稼げないのですぐに飛んだ。求人誌に書いていたことも上手に説明された。


「大3枚?それは一日十二時間出勤が条件。あと本指名10本以上。入店祝い金?同じ。週六出勤で十二時間以上の子だけ。脱がない?その年で?系列にそういう店はあるけど君じゃあちょっとねえ」


 初出勤から三日連続でお茶だった。そのまま別の店を探した。次の店でもすぐに採用された。講習はなかった。面接で店長らしき人が熱心に話をしてくれた。聞いてくれた。そのお店では『未経験』で売り出してくれた。夜七時から帰りの十一時までで三万二千円稼げた。四時間で。最初はお金が貯まれば辞めるつもりだった。でもすごく稼げた。そしてすぐに慣れた。指名で通ってくれるお客さんも増えた。昼間の仕事は辞めた。その分、出勤日数と時間を増やした。多い日で五人のお客さんを相手にした。待機所で友達も出来た。店長もスタッフもすごく気を使ってくれた。業界にずっぽり染まった。そういう職業専門の掲示板に自分のことが書かれてることを聞かされた。見ないようにした。お客さんがどうすれば喜ぶかを店長が教えてくれた。スタッフが教えてくれた。先輩が教えてくれた。嫌なお客さんはNGにしてくれた。本番以外はちゃんとした。店長から本番はするなと言われた。本番以外はお客さんの要望に応えた。〇〇さんは趣味が〇〇で。〇〇さんの仕事は〇〇で。疑似恋愛。源氏名『えり』。


『えり』ちゃんは本当にいい娘だよ。


 本番行為をお願いしてくるお客さんは多いけど柔らかく断れば「冗談冗談」で済む。それにリピーターのお客さんが指名してくれる。中には出勤時間すべてを貸し切ってくれるお客さんもいた。プレイせずにホテルでお話を聞くだけ。持ち込んだお酒を飲んで相手をする。嫌なお客さんも多いけど慣れた。そういうお客さんは店長に言えばいい。週四回十時間出勤で月に十五日出勤前後。生理の週は休む。月収六十万ちょっと。貯金も出来た。生活は変えない。いつまでもやる仕事ではないなあとも思っていた。でも辞められない。ずるずる続ける。

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