第9話『めっ!』

「姉上殿」


「はい。なんでしょうか?ご主人様」


「ゲームは一日一時間ですよね?」


「はい。決まりですからね。ご主人様。隠れてそれ以上ゲームをしてましたら書き込みますよ」


「そうなりますよね。では、切り替えてお仕事しましょう」


「そうですね。働くことは大事ですよ。ご主人様」


「でも、仕事も一日一時間のルールとか作りませんか?」


「それはどうでしょうかね。ご主人様。なんでもかんでも一時間ルールを作ってしまうと睡眠時間を一時間にされても文句は言えませんわよ」


「それはナポレオンさんも困りますね」


「それじゃあお仕事しましょう。ご主人様」


「でも…。コタツ出たくないですねえ」


「『めっ!』ですよ。ご主人様」


 姉上殿にかわいく『めっ!』と言われるとさすがのご主人様もコタツから出て仕事部屋に走る。


 たたたたた。


 二人で、たたたたあ。


「姉上殿。このルールは何でしょうか?」


 裸足でフローリングの上を走りながら訪ねるご主人様。


「それは噂が渚まで走るからですよ。ご主人様」


 広いワンルームをたたたたたあ、と走る二人。


「あれは…、そういう意味での歌なんでしょうか?」


「私には分かりませんし、このルールを決めたのはご主人様じゃないですか?」


 ようやく広いワンルームのフローリングの上を走り切り、同じく広いバスルームに入る二人。畳六畳で質素な生活。正しいし、嘘ではない。広い広いバスルームにコンセントがたくさん取り付けられている。お仕事用のパソコンも机の上に置かれている。二人分。


「あ、ずるいですよ。姉上殿。扇風機の首振りを止めるのは。こっちに風が来ないじゃないですか」


「でもご主人様はコタツ出たくなかったって言ってたじゃないですか。寒いんじゃないんですか?」


「雰囲気ですよ。雰囲気」


 そう言って首振りしない状態の扇風機を自分に向けるご主人様。


「それはずるいですわよ。ご主人様。ぶーぶーです」


「でも扇風機は一台だけですからね。じゃあ首振りにします」


「質素ですからね。ご主人様は。これは高評価です。優しいですわ」


 広い広いバスルームでお仕事を始める二人。


「これはどうなんでしょうかね?『虚偽』の書き込みだから消すようにと本人から抗議がきているとの報告が来てますが」


「少々お待ちください。あ、よくあるパターンですね。この『田中高志』さんの件ですね。これは現地支部から報告来てますわね。ご主人様。これは皆さん正しいですし、別に『虚偽』ではございませんわね」


「ですよねえ」


「書かれていることは信ぴょう性が高いですし。『目には目を』のよくあるパターンですわよ」


「ですよねえ」


「これが『虚偽』の評価であり書き込みだったら同じかそれ以上の高評価で回復するはずですので。それがないのが評価だと思いますわ。ご主人様」


「ですよねえ。それに多分確実にこの人は周りの味方の人に高評価をお願いしたはずです。でもそのお願いをスルーされてるのが…、ですよねえ。亀投げます」


「ゲームは終わりましたよ。ご主人様。それに仮にこの方が『飲食店評価サイト』で高評価をつけてきたお店の方にお願いしても、それをしてしまうと『賄賂』を認めてしまうことになりますからね。それは迂闊に書けないと思いますわね。ご主人様」


「ですよねえ。今まで人様を偉そうに、あ、偉そうかは分かりませんね。まあ、人様のお仕事を頼んでもないのに勝手に星で評価してきましたからね。それがされる側になったら『やめてー』は通りませんよねえ」


 『人ログ』サイトは全国各地に支部があるようだ。そして『人ログ』サイト運営代表は質素な生活。質素なオフィスで働いている。正しい。虚偽ではない。

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